15,開発者
「どうせこの場所なんて割り当てることは不可能ですよね?」
「……いきなり何を言い出すんだ?」
所は変わって、東京都内の某所ビル。
会議室にて、二人の男が会話をしていた。
リーダー格の男の名前は……下柳勝弘。
昨今発生した科学製品工場襲撃事件の首謀者でもある。
その部下である男が今、勝弘に向かって話していたのだった。
その内容は、何故かこの場所が特定されることがあるかないかについてだった。
「まさか、探っている奴らがいるというのか?」
「その通りです……どうやらその場所では頭がキレる人がいるらしく、僕達を何とか探し出そうとしているのだとか……ほら、前に襲撃した場所に現れた、あのメンバーですよ」
「……『組織』の連中か。なるほどな」
勝弘は、少し顔をゆがませる。
男は、そんな勝弘に向かって、もう一度尋ねた。
「それで……どうなんでしょう?」
「案ずるな。この場所を当てようなんて、そう簡単に出来ることじゃない。何せ外見から見ればただの一企業のビルにしか過ぎないんだからな……もっとも、このビルはすでにクリエイターが買い取ってたビルをただ単に乗っ取っただけにしか過ぎないのだがな」
「……気になったんですけど、リーダーとクリエイター・スクリプターって、結びつきとかあったんですか?」
それは、この組織に所属する全員が気にしていたことだった。
何回か会話に登場してくる、クリエイターやスクリプターという名前。
もちろん彼らはその二人がどんな人物なのかを知っている。
しかし、その二人が勝弘とどう関係があるのかまではさすがに理解することが出来なかったのだ。
「いや、直接的な関わりはほとんどないが……俺の親がちょっとした関係があってな」
「ご両親が、ですか?」
「ああ。『アンジック病』なんて病気を生んだのは……俺の親だからな」
「そ、そうだったんですか?!」
『アンジック病』。
医学会に突如として出現した病名であるのだが……どこからやってきたのかとかは全然分かっていなかった。
ただ感染者が出現し、その病状から『アンジック病』と名づけられたわけなのだが……。
「そんな病気を生んだって、どういうことなんですか?」
部下はもちろんそう尋ねる。
勝弘は、表情を崩さずに答えた。
「そもそも、『アンジック病』とは科学製品についたウイルスが人間の身体に流れた結果発生するものだということは、お前も知ってるよな?」
「はい。ですから、ウイルスを科学製品工場に流したんですよね?」
「……科学魔術師のような奴らは、特別仕様の科学製品を使わない限り、魔術を使用することが出来ない。故に、科学魔術師にとって、科学製品はライフラインみたいなものだ。そのライフラインから魔力を取り入れ、魔術を使用するのだが……その科学製品に備わっている魔力に異常があった場合、人体に必ずしも影響を与えないとはいえるか?」
「いえ、むしろその逆かと」
「その通り。『アンジック病』とは、元を辿れば……ただ単に科学製品を破壊するだけのコンピュータウイルスにしか過ぎなかった。だが、それに汚染された科学製品を使用してしまい……俺の両親は、そのまま病気に気付かず、命を落とした……」
「……そうだったんですか」
部下の男は、悲しそうな表情を見せる。
そんな男に、いいんだと言葉を告げてから。
「だが、そのおかげで今回の制裁を与えることが出来た。世界に対する制裁は始まったばかりだ……まずは科学製品にまみれたこの国に制裁を与えなければならない」
「……早い所決着をつけちゃいましょうね、リーダー」
「……ああ」
そして男達の会話は、そこで途切れた。