12,課せられる二つの試練
「……そうですか。堕落世界の人達がこの世界に」
「……はい。精霊山に行ったら、その世界の人達と出会いまして」
「多分、これから何かが起こるんじゃないかなって思うの」
私は先ほどのことと私が思ったことアルカ様に伝えた。
すると、アルカ様はかなり真剣な表情を見せながら、何やら呟いていた。
……うん、このまま放置するわけにもいかない。
このまま放置していたら、もう取り返しのつかない事態にまで発展しかねない。
「私達に……何か出来ることはないのかな?」
ふと、私はそんなことを呟いていた。
そんな私の呟きに、
「そうですね……今は多分ないでしょう。ですが、いずれ葵さんにも出来ることが生まれると思いますよ。勿論、麻美さんもです」
「……ですが、私は……」
麻美ちゃんが戸惑うのも納得は出来る。
今回のパターンだと、もし麻美ちゃんが動けば、それはつまり由雪君に敵対するのと変わらないのだ。
麻美ちゃんにとって、由雪君は唯一の居場所だったのだ。
その存在の大きさは、かなりのものに違いないのだ。
そんな人と対峙することは……どれ程のものなのだろうか。
「無理は言いませんよ。もし堕落世界の住人達が戦闘を起こすようなことがあれば……貴女は戦いに身を投じる必要はありません。貴女にとってこの戦いは……かなり苦渋の選択を強いられることになります。ですから……」
「……いえ、私にも参加させてください」
「あ、麻美ちゃん?」
だからこそ、麻美ちゃんが戦いに参加したいと言った時には、本当に驚いた。
だって、一番参加しそうにない人だったから。
参加したくないだろうに、麻美ちゃんはこの戦いに参戦しようとしているのだ。
「け、けど……麻美ちゃんにとって、この戦いは意味はない……」
「意味がない行動なんて、人間にはありません。人間は、何かしらの行動に、何かしらの意味を持っている。そんな生き物だと、私は信じています」
「……いいでしょう。もしも堕落世界の人達との戦いが起きた時には……いえ、その戦いの最前線に、寺内麻美さん、細川葵さんの二名を組み込みたいと思います」
「え? 私も?」
これまた意外な言葉だった。
というか……もしもではなく、『確実に』起こると考えているのではないだろうか。
そう考えると、アルカ様はもしや……この先のことを予測しているのでは?
「本来ならばこんな戦闘は避けたいものですが……こちらの領地に入りこんでしまっている時点で、もはや相手側との戦争は避けられない物となってしまっているでしょう……ですから、その戦闘の訓練として、貴女に三つ目の試練と四つ目の試練の両方を課します……それらの二つの試練には、寺内麻美さん、貴女も強制的に引き受けてもらいます」
「え? ですが……」
「これは私からの命令です。今までのように拒否出来る試練ではありません」
「……分かりました」
拒否出来る命令。
すなわち、自らをこの世界に留めるのと引き換えに、元の世界に戻る為の試練を受けないということだろう。
けど、これは麻美ちゃんにとっては元の世界に帰る為に課せられる試練なんかじゃない。
「ではまず一つ目は……光の魔術を利用して、十分に戦える程の技術を身につけてください」
「そ、それって……」
「本来ならこれを最終試練にしようと思いましたが、今のこの状態じゃあそれも叶いません。ですからこれを三つ目の試練とし、四つ目の試練は、別の物を課すことにしました」
「そ、それは……何なの?」
「四つ目の試練は……堕落世界の侵略から、この世界を守り切ることです。この世界のカタチを保てるよう、戦ってください。光の魔術を使いこなせるようにするという試練と、この世界を守るという試練は……寺内麻美さん、貴女にも引き受けてもらいます。よろしいですね?」
「「……はい!!」」
私達は、声を揃えて返事を返す。
そしてすぐさま光の魔術を使いこなす鍛錬を始める為に、神殿を走って出て行った。