10,倒れた少女
そして次の日。
……瞬一達にとって見逃せない事態が、この日発生することとなる。
「はぁ~眠い眠い」
朝。
瞬一達はいつものように登校してきた。
そしてこの授業……魔術の授業が、本日の一時間目の授業となった。
「一時間目から魔術の授業とは……今日は一日睡眠学習だな、こりゃ」
「お前な……ど初っ端からそんなこと言ってんじゃねえよ」
だらけながら言う晴信に、瞬一がそう言う。
しかし、内心では晴信と同じことを考えていたなどと、瞬一は決して言うことは出来なかった。
「さてと。まずは春香と葵の模擬戦闘……か」
「久しぶりに……というか、初めて見るな。この二人の戦闘って」
一年近く付き合ってきた友人同士だが、魔術における戦闘シーンを見たことはなかった二人。
今宵、この二人の戦闘を見ることが出来るのだ。
「……おい、無駄にカッコイイナレーションはいらないからな」
「誰に言ってるんだ? 瞬一」
「……何でもない」
何かわけのわからないことを口走る瞬一に、晴信が尋ねる。
瞬一は、今まで言っていたことを忘れ、そして自分が何を言っていたのかを思い出そうとしたのだが、無理だった。
「それでは、細川葵さん、一ノ瀬春香さん。前へ」
「「はい!」」
光の器の力を持つ少女、細川葵。
かつて悪魔に心を奪われかけた少女、一ノ瀬春香。
二人の戦いはある意味奇跡の戦いとも言えよう……ひょっとしたら共にこの場にはいなかったかもしれない者同士なのだから。
それだけ、ここまで瞬一が成し遂げてきたことが、大きかったことを意味していた。
「春香ちゃん。こうして戦えるなんて……嬉しいよね」
「はい。同じ部活にいながら、なかなか対戦する機会なんてありませんでしたから」
短いやり取りを済ました後、二人は構えを取る。
やがて静寂の時間が訪れて、
「それでは……」
「「……」」
教師の掛け合いの言葉のみが響く。
他の生徒は誰一人話すことはない。
なぜなら、この場にいる生徒達全員は、二人の力がどれほどなのかをすでに知っているからだ。
同じS組にいながら、飛び抜けた魔術の才能を持つ細川葵と、自力でここまで這いあがってきた一ノ瀬春香の二人の戦いを、心待ちにしていたからだ。
「はじめ!」
「「!!」」
二人は同時に動いた。
春香は前へ進み、葵は後ろに下がる。
そして下がりながら、葵は魔術の詠唱を始める。
「世に散らばりし汚れを払え!」
呪文の詠唱を済ますと、空中に小さな魔法陣がいくつか出現する。
色は青……水系統の魔術だ。
「行け! スプラッシュ!!」
そこから水が勢いよく噴き出し、春香に襲いかかる。
対する春香は、防御魔術を出してその場をやり過ごすのかと思いきや……。
「打ち消す水よ。私に向かい来る同胞を打ち消せ!!」
「え? それって攻撃魔術……」
「スプラッシュ!!」
なんと、同じ技で春香は葵の攻撃を打ち消した。
しかも、威力でいえば水魔術を得意とする春香の方が上。
つまり、葵の攻撃をすべてはじいたとしても……まだ攻撃は生きているということになる。
そこから春香は、さらに呪文の詠唱を重ねる。
「いくつもの水よ。まとまって塊となり、彼の者を討て!」
そして、残っていた水が集結し、一つの小さな塊となる。
それは……葵の心臓部分に向けられて、そして形を変える。
「あれは……刃?」
「アイスストライク!!」
水は凍り、そして葵の身体に襲いかかる。
葵は防御魔術の詠唱をはじめ、その攻撃を防ごうと思った……のだが。
「……え?」
「……は?」
バタン。
倒れたのは、はたして誰だっただろうか。
別に魔術による攻撃を受けたわけでも何でもなく。
ただ自然と、その人物はその場に倒れてしまっていた。
「…………春香?」
理由はともあれ、春香が……苦しそうな表情を見せて、倒れていた。