8,流行する病
「……終わったか?」
「みたいだね……これ以上の敵はいないみたいだよ」
数十分が経過して、大和と大地はようやっと三人の敵を倒した。
次の敵の可能性も考えられる為、二人は三人の敵を縛り付けた後で、さっさとこの場所から退避するという選択を取った。
「しかし……コイツらの目的って、一体なんだったんだろうか?」
「さぁね……そんなの後で聞き出せばいいんじゃないかな? 恐らく倒れている奴らは、『組織』を襲った連中のメンバーだろうしね」
「……一応上の連中に連絡入れとくか?」
「だね。大地、連絡の方を頼むよ」
「分かったよ」
歩きながら、大地が『組織』の上層部に連絡を入れる。
大和はその間、考え事をしていた。
「(日本全国で発生した襲撃事件……そのどれもが科学製品工場を襲っていて、しかしすぐに復旧出来る程度の荒れようでしかない。その後の動作に特に異常は見られない……一体相手は、何が目的なんだ?)」
相手の目的が分からない以上、余計なことは出来ない。
大和は、そう感じていた。
科学製品工場を襲った理由、しかし襲われた科学製品工場の多くが、すぐに活動再開をしていて、普通にその製品は日本中に流通している。
その後、特に異変が見られたという報告は見られていない。
ただ、最近多いといえば、
「そういえば……アンジック病患者が増えてきたよな」
「……そういえばそうだね。あ、電話の方はどうだった?」
「数分もしない内に調査員を派遣するってさ。俺達はもうその場から離れてよしだと」
「そうか……ならここは、命令通り避難することにしようか。僕達に出来ることはこれ以上ないだろうし」
「だな」
大地と大和は、上からの命令通り事件現場から離れることにした。
……ところで、『アンジック病』という病気を、みなさんはご存知だろうか?
人々は、生命力と魔力という二つの大きな力をもっている。
生命力は、生きていく上で大事な力。
魔力は、そんな生命力の一部で、特に魔術を使用する際に必要な力。
一般的に、魔術を使用すると魔力が減るのだが、その魔力は時間が経てばやがては元の量まで戻る。
しかし、アンジック病にかかってしまうと、その動作が出来なくなってしまうのだ。
すなわち、魔術を使用した分の魔力が、補充されないということを意味する。
やがてその患者は魔術を使用するために己の生命力を犠牲にしだす。
すると、身体に異常をきたしてしまい、そんな状態で魔術を使いすぎると……その人物は死に追いやられることとなる。
「患者が増えてるにも関わらず、治療薬が見つかっていない……」
「以前に開発されていたといわれているアンジック病に対する特効薬も、あれは実は何も見つかっていなかったわけだしな」
「けど、あの薬が必要だよね……一度『組織』に囚われた吉沢茜を連れてきて、薬を持ってきてもらうか?」
「それもいいかも知れないけど……今現在日本にいる人達全員分の薬を用意させるなんて、無謀に近いよ」
現在日本におけるアンジック病患者は、数千人を超える。
これら全員の薬を用意させるには、吉沢茜一人では足りなさ過ぎた。
いや、実際には不可能ではないのだが……時間がかかりすぎて、効率的ではない。
せめて後三人以上は、薬の製法……いや、アンジック病に関して詳しい人を用意しなければならなかった。
「とにかく、今は『組織』にかけあって、吉沢茜を一時的に牢屋から出してもらえるよう説得してみよう。話はそれからだ」
「……だな」
二人は、吉沢茜を一時的に牢屋から出してもらう為、今現在『組織』の上層部がいる建物へと向かった。