5,『組織』
「ふぅ……」
進級試験も終わり、大和は帰り道を歩いていた。
隣には、大地の姿もあった。
……二人は親友同士だから共に帰っているということもあるが、実は別の用事もあった。
「『組織』の建物が襲われた、か……」
「校長先生も冷静そうではあったけど、内心焦っているようだね。現に、いつもより言葉がまとまっていなかったしね」
二人は『組織』の組員なのだ。
そしてつい先日……『組織』の建物が何者かによって襲撃された。
その知らせはもちろん二人の元にも届いており、そして二人も少し焦っていた。
さすがに自分達のいる場所を襲撃されて、焦らない人はそう多くはいないだろう。
この二人とて、例外ではなかった。
「……この事件には、何か裏がありそうな気がするんだ」
「襲撃するだけじゃ収まらない……その裏には必ず何か裏がある。そういうことだな?」
「ああ……襲撃場所が一様に科学魔術師用科学製品工場というのも怪しい……この事件、目的はもっと別の場所にあると思うんだ」
大和はそこまで言った後、更にこう繋げた。
「それに、この事件がきっかけとなって……別の事件まで引き起こしかねない。例えば、隣国との戦争……とかね」
戦争。
その単語を聞いた時、大地は少し緊張した面持ちを見せた。
無理もないだろう……何せ戦争なんて言葉、今の時代じゃ夢幻の言葉ではないのだから。
「となると、狙われるのはグレイブスタン公国ではなく……」
「日本、ということになるね。日本で勢力を伸ばしているグループがあるから、グレイブスタン公国の王女であるアイミーンがここに来たというのに……反対にその日本が戦争における戦場に変わりかねないとは……この事件、一刻も早く解決するべきだと僕は思うよ」
「それなら俺だって思ってるさ……けど、どうするんだ?」
事件を解決しなければならないという漠然とした思いだけは、二人とももっていた。
だが、実際にどうすればいいのかは……全然わかっていなかった。
「……やはりこうなった以上、まずは犯人探しから始めるべきだろうか」
「そうだな……しかし、いくら犯人探しをしたって、果たして相手の姿を捉えることが出来るのか? だって奴らは全都道府県の科学製品工場を襲ったにも関わらず、証拠も出なければ、誰一人として警察に確保されてないんだぞ? そんな奴らを、俺達で何とかできるのか?」
「それを何とかするのが『組織』の仕事だよ、森谷」
「……そうだったな」
改めて、『組織』という機関がもつ重要さに気付かされる大地。
『組織』とは……実に危険で、実に有能なものしか集まっていないような集団なのだ。
そんな集団が、警察なんぞに遅れをとるわけがない……それが、現『組織』長の考えていることだった。
大和も多少はそう思っているし、大地も『組織』のメンバーであることに多少は誇りを持っている。
しかし……どうしても今回の事件で判明してしまった、『組織」 の落ち度。
それをみてまで、彼らが果たして本当に有能な人物達なのかを疑ってしまうのもまた、人の性であった。
「……ここか」
そして二人は、事件発生現場に到着した。
……何故この二人がこの事件現場にやってきたのかというと、まずは現場検証を行う為だ。
「……行くよ」
「……ああ」
二人は、事件現場となった『組織』の建物内に、入って行った。