3,石塚源三郎
『それでは次のニュースです。先月発生しました東京都内ビル襲撃事件にて、新たなる事実が発覚いたしました。先月発生いたしました、東京都内ビル襲撃事件の手口が、全国にて頻発致しました事件と同様の手口であることが判明いたしました。犯人グループは少人数にてビル内に潜入し、コンピュータで何らかのデータを組み替えたとのことですが、特に変わった点は見受けられないとのことです』
『犯人グループは一体何が目的で襲撃事件なんか起こしているのでしょうか?』
『そうですね……単なるストレス発散という可能性もなくはありませんが、襲撃された建物がすべて同じような施設であるということが何とも腑に落ちない点ですな』
『すべて同じような施設、ですか……?』
『はい。実は今回も、前回までに襲撃された建物も、全部科学魔術師用の科学製品を製作している所なのですよ)
『そうだったんですか……』
「……ふむ」
テレビの画面を見つめながら、雷山塚学園の校長―――石塚源三郎は一言そう呟く。
彼はこの学校の校長を務めていながら、前『組織』長という位置にもいる。
故に、今回の事件は彼にとっては他人事ではなかったのだ。
何せ、襲撃された場所が『組織』の建物だったのだから。
「一連の事件に関連性あり、か……確かにその通りかもしれぬな」
源三郎は、机の上に置かれているコーヒーを一杯飲み干し、もう一度テレビの画面を見つめる。
先ほどのニュースに関してはすでに終了していて、すでに次のニュースについて伝えていた。
それを確認すると、源三郎は近くにあったテレビのリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を落とす。
「同様の手口……科学製品工事を襲った理由……そして、どうして『組織』で作っていることを知っていたのか」
挙げてしまえば、その問題点は結構多目に存在している。
しかし、これらの内容が導き出す答えは一つである筈なのだ。
しかし、源三郎にはそこまで思考が向けられなかった。
反対に、別のことを思い出す。
それは、グレイブスタン公国の王女―――アイミーン・グレイブスタンが言っていた……戦争の始まりの予感。
それはグレイブスタン公国に対するものではなく……日本に矛先を向けられる可能性も否定出来なくなってしまった。
国内でこのような事件が多発していることで、ただでさえ国内が混乱しているというのに、そこに漬け込んで、もし別の国が日本に迫ってきたとしたら……。
軍を持たない、あるとしても自衛目的の軍を一つしか持たない日本に、そのような勢力が攻め入ってきたとしたら……確実にこの国は終わってしまう。
他国を攻めるなら、内部で大きな混乱が起きている頃に。
それがある意味、戦争で勝つ為の方法でもあった。
宣戦布告なんか関係ない……もはやそれは単なる飾りにしか過ぎない。
こんな感じに滅びてしまった国なんて、歴史の中にはたくさんあることを、源三郎は悟っていた。
「……出来ればこのまま平和に、穏便に解決してもらいたいものだが……」
だが実際には、こんな感じで事件に発展してしまっていた。
後はこの事件がどれ程の規模のもので……どの程度危険性があるのか。
それさえ分かってしまえば、後はどう対処すべきなのかを検討することが出来る。
「もっとも、ただの中高一貫校の校長である私に……そんな権限などありもしないのだがな」
椅子から立ち上がり、もう一度カップの中にコーヒーを注ぐ。
湯気がカップの中から立ち上り、源三郎の顔を僅かながら濡らそうとしてくる。
そんなことを気にしないで、源三郎はただ、カップの中に入ったコーヒーをじっと眺めていた。
手でカップを持っている為か、多少バランスがとれていなくて、小さく揺れているのが分かる。
それに合わせて、中身のコーヒーも多少波打っているのが見えた。
「……」
源三郎はそれを確認した後に、カップに口をつけて、コーヒーを一口飲んだ。