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Magicians Dream  作者: ransu521
第二部 新学年
108/139

85,幽霊

「くっ! ……聖なる雷よ、我が右手に宿れ!」


俺は、右手に雷の塊を作って、それを幽霊に向かって放出する。

しかし、相手は幽霊だ。

当然……透けて攻撃は全然見当もつかないような場所に着弾する。

……いやいや、いくらなんでも敵としておかしくないか?


『どうした? この程度か?』

「いやいや……攻撃が透けるとか、どんなチートだよ」

『幽霊なんだから当然だろ?』

「もはや俺達に負けろって言ってるようなもんだよな?」

『無論、その通りだが?』


……もはや戦う気すら失せてきた。

最初から挑んでも無駄だということが分かった今、戦いではなく話し合いで解決してみることにしよう。


「なぁ、話し合いで解決っていうことにしないか? 俺と空は別にお前に危害を加えに来たわけじゃないんだからよ」

『……本当かい?』

「当然ですよ。瞬一さんは、優しい人ですから」


空にそんなこと言われると、何だか照れるな……。

そこまで優しい人間だとは思っていないが、褒められて悪い気分は絶対にしない。


「……まず、確認をするぞ」


俺はとりあえず、千世から聞いた話の通りの人物なのかどうかを確かめる。

すると、


『そうだね。俺はこの屋敷で殺された……それは確実だよ』

「そうか……やっぱり」

「痛かった……ですよね」

『痛いなんてレベルじゃないよ。辛かった……一人で死んで行くのは、限りなく怖かった。死んだ今となってはもはやそんなことどうでもいいんだけどね』

「……」


言葉に言い表すことが出来ない感情が、俺達に襲い掛かってくる。

……何というか、コイツはよほど悲しい経験をして。

そして死んだ後でも、一人きりだったんだな……。


「……お前は結局、最後まで一人きりだったんだな」

『……そうだね。俺は結局、死んだ後でも一人きりだった。ただ、それだけの話だったってことだよ』

「そんなの、悲しすぎますよ……悲しいじゃないですか。一人きりだなんて、つらいだけですよ」


空が、泣きそうな表情でそういう。

すると、目の前にいる幽霊が……笑った。


『…ありがとう。君達みたいなやつに、俺も出会いたかったな……生きているうちに、もっと早くに』

「……いいじゃねえかよ。俺達はこうして会うことが出来たんだからよ。そうだ! みんなにもお前のことを紹介してやるよ! これで一人きりになんかならなくて済むからよ!」

『……ありがとう。本当にやさしい人たちなんだね。けど、もうその必要もないよ』

「「え?」」


俺と空の声が重なる。

すると……目の前にいる奴の身体が、光だした。


「まさかお前……成仏するのか?」

『まぁ……そういうことになるね。俺は幽霊だから。目的が果たせればすぐに消えるさ』

「目的って……なんだったんですか?」

『決まってるじゃないか……最後にもう一度、誰かとこうして話すことだよ。何せ最後は何も話せずに死んじゃったからな……どうしても納得がいかなくて』


……最後に言葉を残せずに死んでしまった悔い。

それが、コイツを現世につなぎとめていた唯一のきっかけ。

それがなくなった今……後は自ら消えるのみってわけか。


「んで、最後に俺達に言い残すことはないのか?」

「しゅ、瞬一さん!? そんな簡単に認めてもいいんですか!? また一人になってしまうんですよ!? そんなのって……悲しいじゃないですか!」

「いや、こいつはもう一人じゃない……少なくとも、話した時間は五分とも満てないだろうけど、俺と空が、コイツの友人になったんだ。もうコイツは一人きりなんかじゃねえよ」

『……本当に君達は、なんて優しいんだ。それだけで、俺はもう……幸せだよ』


そして幽霊は、唐突に、俺達の前から姿を消した。

最後に、『ありがとう』の言葉を残して……。















こうして、千世の別荘の幽霊話は、終焉を迎えたのだった。
















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