83,気配
「……ここだけ変な感じがするな」
「そ、そうですね」
この部屋だけ、さっきまで入った部屋とは違う感じがする。
部屋の間取りとかはほとんど変わらないんだけど……何と言うか、重苦しい感じがする。
まるで身体に何かが纏わりつくような感じ。
気のせいだといいんだが……どうもこの感じは気のせいでも何でもなさそうな気がする。
「……まさか、この部屋がそうなのか?」
「……そ、そんなことないですよね?」
不安そうに俺にそう尋ねてくる空。
それもそうだよな……こんな状況で不安にならないわけがない。
いや、そうとも言い切れないんだけども。
「……一応俺、連絡を入れてみるよ」
空からの返事はなかったが、俺はポケットの中から無線機を取り出して、
「あの……すみません」
『はい、何でしょうか?』
使用人の人達に連絡を入れてみる。
確認することはただ一つ。
「何か他の班で異常とか見られました?」
もし他のところで幽霊が出たという連絡が入っていたとしたら、俺達の感じている気配というのは気のせいということになる。
でも、もしそうでなかったとしたら……。
『いえ。そのような連絡は入っておりませんが……もしや、瞬一様のところに幽霊が現れましたか?』
「いや、こっちは変な気配がするってだけで……実際に遭遇したわけじゃない」
『そうですか……それはよかったです。ですが、気を付けてくださいね。もし貴方達の身に何かありましたら……すぐに連絡を下さいね。皆さんに一斉配信致しますので』
「ああ、頼む」
俺はそこで無線を切った。
「まだ何の進展もなし、か……」
「私達の所で進展したらと考えると……怖いです」
他の班の所で幽霊が出たという情報が入っていないということは……まだこちらにも可能性があるということに繋がる。
その事実を改めて知った空の身体が、若干震えているのが見てわかる。
……だが、もし幽霊が本当にいるのだとしても、空に指一本触れさせる気はないけどな。
「でも、この部屋を色々調べてみたけど、結局何も出なかったよな?」
「……そうですね」
とりあえず話しながらでもこの部屋の中を調べ回ってみたが、結局何も出ることなく平和に解決した。
一先ず俺達の使命は終了ということでいいんだよな?
他の部屋も見て回ったし……もうこれ以上この階で見る所なんてないし。
「それじゃあ俺達は一先ず先に使用人の人達が集まってる部屋に行くとするか」
「はい……出来れば早く戻りたいです」
この空気に耐えられない空が、そんなことを漏らす。
……いやぁ、不謹慎だとは分かってるけど、涙目になってる空が可愛いと思ってしまった。
「それじゃあ扉を開けて……って、ん?」
扉を開こうとして、そこで違和感を感じた。
……扉が、開かない?
「どうかしたんですか?」
不安そうに空が尋ねる。
……包み隠さずに、俺は正直に事を話した。
「……扉が、開かないんだよ」
「ええ!?」
空が驚きの声を挙げる。
無理もないだろう……いきなり扉が開かなくなってしまったのだ。
当然のことながら、驚かないわけがない。
……そうだ、こういう時こそ無線だ!!
「もしもし! 閉じ込められちまった!! 今すぐ二階に……って、もしもし!?」
「……まさか、無線も繋がらないとか……」
「……そのまさかだ」
おかしい……扉が開かなくなるわ、無線が繋がらなくなるわ。
こんな現象が立て続けに起こるはずがない。
……そして、明らかにおかしい、俺達の背後に感じる気配。
この部屋には俺と空の二人しかいないはずだ。
そうすると……この気配はなんだ?
「……まさか」
俺と空は、そっと後ろを振り向いてみる。
……そこにいたのは。