78,不安抱く少女
あの後、俺と相部屋になるために、女子達の熾烈なる争いが続き。
その戦いを制したのは……意外なことにアイミーだった。
「まさかシュンイチと同じ部屋になれるとは思っていませんでした……」
「俺もまさかお前と同じ部屋になるとは思ってなかったよ」
こんな展開、誰が予測できただろうか?
いや、誰も予測出切るわけがない……俺だって予測できなかったのだから。
「ところで、お前がこの国に来た目的ってのは、戦争を止めることにあるんだよな? ……そっちの方は何とかなってるのか?」
何かこのままだと会話が続きそうになかったので、とりあえず真剣な話題を出してみる。
すると……アイミーの顔が曇ったのが分かった。
もしや、進展していないんじゃないか?
「実は、あまりうまくいっていないんです……一向に敵は私たちの前に姿を現しませんし、もしかしたら既に裏では何らかの形で動きが始まってるかもしれません」
「ふ~む……確かに、頭の悪くない連中ならば、わざわざ前に出て行動するよりも、先に裏を制圧するだろうな。表沙汰になった瞬間、後戻りが出来なくなっちまうからな」
「……ですが、あまりにも目立たなすぎるのが不安で仕方ないんです」
「……」
確かにそうだろう。
目立った動きを見せないとはつまり、裏で確実に行動している可能性が高いのと同時に、いつ自分達のところに襲い掛かってくるか分からないということも意味するからだ。
……要するに、アイミーは不安なのだ。
「私は……いつ私達の生活が壊されてしまうのかが、不安なんです……傲慢な願いだってことは承知しています。ですが、もし私の身に何が起こっても……これから先、貴方の身に何かが起きてしまったとしても……みんなが危険な目に晒されたとき、何があっても、私を守ってくれますか……シュンイチ」
「……」
それは、アイミーの心からの訴えだった。
俺は、そんなアイミーの訴えに耳を傾ける。
何故なら……俺はアイミーのことを大切に思っているからだ。
アイミーだけではない。
葵達も、俺の大切な仲間だ。
大切な仲間を傷つけられるのは……もうごめんなんだ。
これ以上、葵の時と同じ想いを抱きたくはない。
自らの手で、葵を殺さなければならなかったあの時と、同じ想いはもうしたくない。
大切な人達が……この手から零れ落ちる。
そんな想いは、もうたくさんだ……!!
「……ああ。守ってやるさ。この俺が。お前も、俺の大切な仲間達も、みんな……守ってやるさ。俺だけじゃ無理だから、大和や大地の力も借りるかもしれないけど……この平和は、大切な仲間達は……お前は、必ず、俺が守る」
「シュンイチ……さすがはシュンイチです。そんなシュンイチだったから、私は……」
「え?」
「……adamo,are,avi,atum」
……この言葉は、前に俺がアイミーに言った言葉だったよな。
意味は確か……『よろしくお願いします』だったっけか?
「……私の正直な気持ちです。ちなみに、この言葉を前にお父様が教えた時に、『よろしくお願いします』という意味だと説明しましたが……この言葉はそういう意味ではありません」
「え? それじゃあ一体……」
「この言葉の意味については、いつか教える時が来たら説明したいと思います……ですから、その時まで待っててもらっても、構わないでしょうか?」
「……ああ」
アイミーが言うなら、その時が来るまで待つべきなのだろう。
いつかアイミーが説明してくれる時が来るまで……その日が果たしていつ来るのかは分からないけど、その時が来るまで、俺はこの時間を守らなければならないな。
……守るべき理由が一つ、また増えたってもんだ。
「……さて、そろそろ集合の時間だっけか?」
「そうですね。確か夜に一度大広間に集合とのことでしたね」
何故か千世にそう言われていた俺達は、そろそろ時間になるというわけで、部屋から出て行った。