素晴らしき現状
……いや、つくりかえたはずだった。
……そう言わざるをえないな。この状況では。
王命によって戻ることになったその組織の現状にグワラニーは当時のことを思い出しながら、そう自嘲した。
……私とバイアがこの組織を去ってから変わっていないのは報酬と権限だけであり、その仕事ぶりは悪化……。
口には出せない言葉でそう呟いた後、目の前に並ぶ人間と同じ形をした問題の根源をグワラニーは苦々しく眺める。
……いや。悪くなったというよりは、元に戻ったと言ったほうが正しいのだろうな。
……それにしても、こいつらに比べれば、戦場に赴き自らの身を危険に晒す将軍たちのほうが幾万倍も金をもらう価値がある。
……いっそのこと安全な場所で仕事もせず報酬を得ているこいつらをまとめて戦場に送り、弾除け代わりに使うべきではないのか。
そう。
グワラニーが苦々しく思い、睨みつけていた相手とは、形ばかりなのだから放置していても構わないとその席を与えたままにしていたかつての上司たち。
彼らは目障りなグワラニーたちふたりが転籍したあとにあっという間に復権し、グワラニーがその中心から遠ざけていたコネはあるが能はない知り合いをかき集め短期間のうちに以前の「仕事をせずに金をもらう」体制に戻していた。
しかも、グワラニーたちのおかげで大幅に上がった権限と報酬はそのままに。
「温情で籍を残してやったことは失敗だった。こんなことになるのなら、置き土産代わりにこいつらを全員クビにするよう王に進言しておけばよかった」
「あの時点でも完全な人事権があったわけではなかったグワラニー様はともかく、今も昔もすべてを決められる王であれば、あれらを始末することも可能ではないのですか?」
グワラニーの口から漏れ出したその言葉を代弁したのは側近の男だった。
男のその言葉に、様々な感情によって熱くなっていたグワラニーは一瞬で冷静になり、笑みのない顔をつくり直すと側近の男の言葉に答える。
「そうしたいのは山々なのだろうが、まずその仕事を代わりにやる者を見つけなければならない。そうしなければ、とりあえずは動いている経済が完全に止まることになる」
「たしかに質さえ求めなければ彼ら程度でもできる仕事ではあります。ですが、そうは言ってもそれなりの経験と知識がなければできないことでもありますから、補充のアテもなく切るわけにはいきませんね」
「……そういうことだ」
「では、彼らが健在なうちに感謝しておきましょうか」
「ああ」
現在の文官たちのどこに感謝するのか。
意味深い男の言葉が完全な形となるのはこれよりかなり先になるのだが、その先駆けとなる出来事は数日後の王宮で起こる。