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スキュラ退治の準備



 ベルグランの指示で、すぐに素材がマユラの元に届けられた。

 届けてくれた部下の方に礼を言って、マユラは素材を両手に抱えると錬金部屋へとやってくる。


「よし、はじめましょう。届けていただいた素材があれば、水中呼吸のキャンディと、人魚の尾は錬成できそうですね」


 マユラは先に、水中呼吸のキャンディの素材を錬金釜に入れる。

 錬成にもだいぶ慣れてきた。今度の素材は、素材の持つ魔素濃度が高いために攪拌時にやや抵抗がある。

 集中力を途切れさせないようにしながら素材の形を頭の中で想像、創造していく。

 ややあって、ぷかりと釜の中に小さな虹色の丸いキャンディが浮かびあがった。


『上出来だな』

「ありがとうございます、師匠。次からは、自分で素材を集められるようにしていきますね」

『そうだな。……まぁ、そこまで拘らんでもいい。錬成には膨大な素材が必要になる。人を雇う場合もあれば、素材屋で購入する場合もある。私は全て自分で集めていたがな』

「すごいですね、師匠。見習います」


 師匠は、ふふん、という感じで胸を張った。

 頭の王冠とマントに合わせた、小さな玉座を用意してあげたいなと、マユラは思う。

 いくつかの水中呼吸のキャンディをつくり、小瓶に入れる。

 虹色に輝く飴玉は可愛らしいが、どちらかといえば食べ物というよりもビー玉に似ていた。


 ◆人魚の尾◆


 素材:セイレーンの鱗

    リュウグウの欠片

    海底の水晶体


 ※水中呼吸のキャンディとの併用が望ましい。下半身を魚に変えて水中での動作を飛躍的に向上させるものである。水中での探索に向く。使用回数は一度だけ。陸にあがればその効果は消える。


「下半身が魚になるというのは、両足が魚に……セイレーンのような姿になるのでしょうか」

『そうだな』

「師匠も使いましたか?」

『海底の素材集めや、沈没船や、洞窟、海底神殿などの探索時にはな』

「なるほど。上半身が男性のセイレーンというのはあまりみたことがありません。見てみたかったな」

『やらしい』

「や、やら……」


 まさかぬいぐるみにいやらしさを指摘されるとは思わず、マユラは面食らった。


『人妻だからか』

「人妻でしたが、恋愛経験はありませんし……男性と手を繋いだこともないのですよ」

『俗に言う、白い結婚というやつだな。可哀想に』

「これからはきっといいことがあります。今も、たくさんいいことがありました。師匠と出会えましたし、レオナードさんはいい人で、アンナさんとルージュは可愛いです」


 アンナの気配は未だにない。

 ルージュはまだ小さいせいか、マユラのポケットの中に潜り込んですやすや寝ていた。

 マユラは気を取り直して、人魚の尾の素材を錬金釜に入れていく。


 やがて、手のひらぐらいの大きさの、透き通った綺麗な鱗が錬金釜にぷかりと浮かぶ。


「完成です! これは……食べるのでしょうか」

『食うな。何でも口に入れるものだと思うな。それを使用する場合は、それを手にしながら水の中に入るだけでいい。錬金魔法具の発動条件はそれぞれ違う。覚えておけ』

「わかりました。よかった、食べるものじゃなくて。硬そうですからね」


 ポーションの場合は小さなラムネにした。

 水中呼吸のキャンディや人魚の尾は、その名前から想像した形になった。

 人魚の尾も飴玉を想像したら飴玉になったのだろうが、人魚の尾という名前から食べ物を想像することができなかったのである。


 これで二種類のスキュラ対策が整った。


「あとは炎の聖杯だけですね。スキュラが現れるのは夜。暗がりに光る船の灯りに誘われてやってきます。スキュラには明確な殺意がなく、偶然であったものに呪いをかけるだけ……呪いをかけるというか、スキュラ自体が呪いなので、出会ってしまうと呪われる、といった感じでしょうか」


 マユラは記憶しているスキュラについての知識を、確認のために呟く。

 レイクフィアの書庫にある魔物の記録書を持ち出せればいいのだが、これら記憶も、忘れる前に書いておく必要がある。

 師匠が記録書を残したように。


『あぁ、そうだ。セイレーンとは違う。ただ海の中を彷徨うものだな。お前の言うとおり、炎に呼ばれる』

「はい。そこで、炎の聖杯です。絶えない炎を宿す聖杯ですね。水の中でも、海の底でもその炎は消えません。その劫火は魔物を焼きます。特に穢れたものに効果があって……と、師匠が書いてくれています」

『スキュラを倒すのならば、うってつけの錬金魔法具だな』

「これが、攻撃用の錬金魔法具ということですね。スキュラを呼ぶための効果もありますし、ちょうどいいかなと思いまして」

『正解だ、我が弟子よ』

「ありがとうございます!」


 先生だ。

 師匠なのだから、先生なのだが。 

 でも、こうして褒められると──はじめて、先生ができたという喜びを感じた。

 今まで何もかもを一人で学ぶ必要があった。

 習うよりも慣れろという状態で、誰にも指導されないままに見て覚えることの方が多かった。

 ヴェロニカの街の人々には色々教えてもらったが、あの時は先生というよりは、戦友という感覚が強かった。


 師匠は──先生である。


『なにをそんなに喜んでいる』

「師匠は、言葉は冷たいですが、結構世話焼きなんだなと思いまして」

『別に。お前の優秀さを褒めているだけだ。この短期間でここまで作れるのだからたいしたものだな。……まぁ、半分は傭兵連中の功績だが』


 師匠が小さな声で言う。恥ずかしがっているらしい。

 そこににゅっと、アンナさんが顔をだした。


「あ、アンナさん!」

「マユラちゃん、楽しそうねぇ」


 何もない空間から唐突に現れる女性というのは、怖くはないがびっくりする。


「アンナさん、どこにいたのですか?」

「それがね、姿を隠していたの。だって……」

「マユラ、いるか? 戻ったぞ」


 レオナードの声が玄関から響き、アンナさんはびくりと体を震わせると、するっと姿を消してしまった。



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