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レオナード・グレイスは方向音痴である



 レオナードの頭に乗っているのは、極楽鳥の小鳥である。

 特徴的な虹色の翼に、体は全体が赤い。そして頭にぴょこんと可愛らしい黄色い飾り羽がついている。


 成体になるとかなり大きい。卵をよく食べるニルワトリの倍ぐらいはある。

 ちなみに極楽鳥の卵も食べることができるが、その卵はあまり市場では出回らない。

 そしてニルワトリの卵の倍額ぐらい値段が高い。


「極楽鳥ですね」

「あぁ。一週間森でさまよい、野宿をしている時に拾った。親鳥が食われていてね。おそらくはワーウルフが食ったのだろう。敵討ちができたぞ、トリ」

「ピー!」


 極楽鳥の小鳥は、羽をぱたぱたさせた。

 ふと見ると、ワーウルフの体もシダールラムの体も霧のように消えていっている。

 体の先端から中央に靄が広がるように、霞んで霧になって、消えていく。

 魔物は凶悪だが、魔素返りはどこか切なく美しい光景だ。


「さぁ、帰ろうか、マユラ。王都に同行させてもらう礼に、君の身は俺が護ろう」

「ありがとうございます、レオナードさん。そういうことなら、よろしくお願いします」


 マユラはレオナードと共に森から出ることにした。

 ガサガサと草むらをかき分けて、来た道を戻っていく。

 時折隣を歩いているはずのレオナードがマユラの傍から離れてどこかに行こうとするので、腕を引っ張ってこちらだと誘導をした。


 森の中を突き抜けるように作られている人や馬が通れる程度の道まで辿り着くと、レオナードは感動したように目を輝かせた。


「久々に道を見た。マユラ、感謝する。一生森から出られないかと思っていたところだ」

「それはよかったです」

『迷うほどの森でもあるまいに』


 ずっと静かにしていた師匠が、小馬鹿にしたように言う。

 レオナードはマユラの腕に抱えられている師匠をまじまじと見つめて、それから軽く首を傾げる。


「君は、人形師でもしているのか? 腹話術がとても上手いな。完全に男の声だった」

「腹話術ではありませんよ。師匠が喋っているのです。本当に言葉を話せるのですよ」

『ふん、安易な反応だ。底が浅い』

「へぇ、すごいな。あまり見たことのない魔法だ。マユラ、君は実はとてもすごい魔導師なのではないか?」

『この女は魔法はほとんど使えない。すごいのは私だ』


 一瞬訝しげな表情を浮かべたものの、レオナードは「なるほど。呪いの人形か何かだな」と頷いた。


「話せば長くなるのですが、アルゼイラさんは私の師匠なのです。アルゼイラさんというのは、このぬいぐるみの中に入っている人格の名前で、大魔導師だったそうですよ」

『だった、ではない。今もだ』

「失礼しました、今も大魔導師です。私の錬金術の師匠でして、素材の場所を教えてもらっていたのです」

「つまり、ぬいぐるみ型の話す地図のようなものだな。いいな、俺も欲しい」


 師匠については、レオナードはすぐに納得して受け入れたようだった。

 会ったばかりのマユラを助けたり、同行をしてくれるほど、鷹揚な人物なのだろう。

 年齢はマユラの兄と近いように見えるが、その印象はまるで違う。

 マユラの兄が氷なら、レオナードは陽光のようなあたたかみがあった。


『私が、話す地図だと……?』

「まぁまぁ、師匠。いいじゃないですか。それにしても話す地図、ですか。それはいいですね……。もしかして、レオナードさんは方向音痴なのですか?」

「あぁ、まぁ、そうらしい。俺は傭兵ギルドに所属をしている傭兵でね。依頼を受けて魔物討伐に出ていたんだ。魔物を追いかけて深淵の樹海に入り、魔物を討伐して戻ろうと思ったら森から出られなくなって。一週間さまよって、君と出会った」

「えぇ……っ」


 深淵の樹海は王国の南側に広がっている大森林である。

 極彩色の森を更に更に突き進んでいくと辿り着く場所だが、極彩色の森を抜けて深淵の森に行く者はほぼいない。

 距離がありすぎるし、何せ森の中は歩きにくく迷いやすい。


 それに──深淵の森と極彩色の森の間には、深い谷があるのだ。とても越えられない。

 深淵の樹海に行くためには、街道を進んで深淵の樹海入り口に向かう。その方がずっと早くて安全だからだ。


「レオナードさんは深淵の森を踏破して、極彩色の森に戻ってきたんですね」

「野宿をしながらさまよっていただけだけだが……自分が極彩色の森にいることさえ気づかなかったぐらいだ」

「大地の裂け目、越えたんですか?」

「まぁ、そうだろう。気づけば谷底にいて、これはまずいなと思い、のぼった」

『馬鹿なのか……』

「師匠、失礼ですよ。フィジカルが強い、というのです」


 レオナードは傭兵としては相当な手練れなのではないだろうか。

 ワーウルフも一撃で倒してくれた。その上、深淵の森と極彩色の森の間にある谷、大地の裂け目を軽々と越えてきたのだから。


「どうにも昔から、道にだけは迷いやすくてね」

「そうなのですね……きっと、傭兵ギルドの方々も心配していますよ」

「いつものことだから、心配はしていないだろうが……君に会えてよかった。これで無事に帰ることができる」

「いえ、こちらこそです。レオナードさんがいなければ、今頃死んでいました。レオナードさんが道に迷ってくださって、よかったです。ありがとうございました」


 レオナードは恥ずかしそうに「道に迷って感謝をされたのははじめてだな」と、小さな声で呟いた。



  

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