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小さい頃からなんだか違和感があった
自分の中にあるもう一人の自分
その正体がはっきりわかったのは7歳のときだった
「王妃殿下、第一王子ハロルド様、お、お初にお目にかかります。ドレッド公爵が娘のキャスリーンと申しますわ」
「あっ俺なんか転生してるわ」
「は?」
「あっいえ、いえいえ、なんでもないです!!」
危ない、変な王子になるところだった
今日は婚約者候補の令嬢と初めての顔合わせの途中だった
目の前の美しい婚約者候補の令嬢を見る
赤い、どちらかというと赤紫の髪色に縦ロール
吊り上がった目に鼻筋は通っていて薄い唇に真っ白な肌
そして着ているドレスはフリフリのゴテゴテである
初めて同じ年頃の女の子を見た瞬間、ここが異世界で、僕が転生していることに気がついた
前の世界じゃ地毛でこの髪色はあり得ないし、縦ロールなんか歴史の教科書でしか見たことない上にこんなドレスを着ている人は見たことがない
産まれた頃から日常的に見ていたものなのに、急にそう思ったのだ
そして前の人生のことを思い出した
「あらハロルドったら、キャスリーン嬢に見惚れてしまったのかしら?」
「は、母上……母上!?」
金髪にピンクの瞳、フリフリのゴテゴテではないが、間違いなく一級品のドレス
前世を思い出したからか、なんだこの装いは!?コスプレか!?とびっくりしてしまった
いやまて、まずい!
先程からの僕の失態に母上が激怒している!
表情は全く変わってないが、僕に向けられている瞳の奥に怒りが見える 挽回しなければ!
「ええ!そうなんです!キャスリーン嬢のカーテシーがとても美しく見惚れてしまいました!僕は第一王子のハロルドです!」
そう笑顔で答えたが、キャスリーン嬢は顔を真っ赤にして俯き、その横に立っているドレッド公爵がピキッと固まったのが目に映る
…あ、そういえばキャスリーン嬢のさっきの挨拶は噛んでたしカーテシーは緊張からかカチコチだったな
これじゃキャスリーン嬢のことを責めているようだ
「あっ今のは…」
「ドレッド公爵、キャスリーン嬢のためにお茶を用意しているのよ、さぁあちらへ行きましょう」
…うん、これはあとでお説教だな
王妃の侍女が席まで案内し、手際よくお茶を入れる
目の前に座ったキャスリーン嬢はキラキラした目で王妃とドレッド公爵の話を聞いていた
よし、この間に状況を整理しよう
まずこの国の名はアガース王国で僕はアガース王国第一王子のハロルド・ベリア・アガース
母親譲りの金髪と整った顔立ちで父親譲りのエメラルドの瞳
世界観は中世のような感じだな
だけど前世ではあり得なかった魔法がある
王太子教育がまだ始まったばかりでわからないことだらけだけど、とりあえず今わかるのはこんなものか?
この世界のことも曖昧だけど前世も曖昧にしか記憶がなく、僕が誰だったのか、僕自身のことは全く覚えていない
でもこの状況は知っている 憶えている
異世界転生だ!そして魔法があるということは、ファンタジー系だ!
おそらく僕は魔王と戦う勇者系の異世界に転生したらしい
そうなると役割だが、勇者…はないな
王子兼勇者って設定なんか聞いたことない
というか王子ってどういう役割だったっけ?
無意識に手を顎に置いて考える人ポーズをとっていた僕はいつの間にか王妃と公爵の話に飽きたキャスリーン嬢に怪訝な顔で見つめられていた
「…考え事ですか?」
「え、あぁ、いや、なんでもないよ」
「そうですか」
「…いぃっ!!!」
足に激痛が走ったが、見なくてもわかる
王妃が公爵とにこやかに会話しながらヒールで僕の足を思いっきり踏んだのだろう
”キャスリーンと話せ”ということか
「キャスリーン嬢は王宮には来たことがあるのですか?」
「いえ、今日が初めてですの。ここに来る途中にあったバラ園がとても素敵でしたわ」
「キャスリーン嬢はバラがお好きなのですか?」
「えっ……そうですわね、お花の中で1番バラが好きですわ」
ん?なんか微妙な顔されたぞ
「えっと、では今度バラ園を案内させてください。奥まったところにアーチがあるのです。きっとキャスリーン嬢も気に入りと思いますから」
「あ…はい。楽しみですわ」
んん?全然楽しみじゃない顔してるぞ
結局キャスリーン嬢とは話が盛り上がらないままお茶会は終わってしまい、お茶会の2倍の時間のお説教タイムがあったのはここだけの話だ