星蘭高校受験
夏休みが近づき、私も星蘭も夏季補習が始まります。学業に関してはかなり遅れを取り戻してきましたが、まだまだついていくのがやっとの状態です。
副作用に関して、今のところわかっていることは三つあります。
① 胸が大きくなる(私はすでにFカップになりました。星蘭はEカップ、彩華ちゃんはわかりませんがD以上はありそうです)。
② あれが来なくなる(星蘭もやはり来なくなったそうです。彩華ちゃんは聞いてないため不明)。
③ 肌が若返る(とてもみずみずしくなりました)。
健康に問題のある副作用は今のところ出てきていませんが、不明な点も多いですね。
星蘭が言いました。
「紗夢ちゃん、今わかってる副作用って、女性に関することばかりよね。」
「確かにね。言いたいことは、解ったわ。遺伝子組み換えを男性に行ったらどうなるのか?ということよね。」
「ええ、臨床例がないからわからないけれど、男性ならほかの反応が出るのかしら。」
「そうね、特に①と②は男性では出ないかもしれないわね。」
「③はあるかもしれないけれどね。もしかしたら、ほかの問題が出るかもしれないわね。」
「とりあえず、彩華ちゃんのために行っていたから、今すぐに男性にするとは思えないけれど。」
「でも、成功したとするなら、時間の問題かもしれないわね。」
二人は、私が星蘭の勉強を見るという口実で、今星蘭ちゃんの部屋で、肩を寄せ合って色々話し合っていました。
当然、勉強もしているのですが、半分は勉強になっていないのが実情です。
私は思い出したように言いました。
「そういえば、彩華ちゃん来週退院だって。お家で暇するだろうから、遊びに来て嬉しいだって。」
「ほとんど毎日補習があるから、週末くらいしか行けないわね。」
「私もそうね。経過も聞きたいから、夏休みに入った最初の土曜日あたりどうかしら。」
「ええ、大丈夫よ。」
「じゃあ、私から連絡しておくね。」
「紗夢ちゃんお願いね。」
夜も更けてきたので、今日の勉強会は終わりにして、私は帰ることにしました。
「紗夢ちゃん泊まっていけばいいのに。」
「そうしたいけれど、今晩は帰るとお母さんと約束したからね。でも、夏休みに入ったらちょくちょく泊まりに来るわ。」
「そう?楽しみにしているわ。」
最近の、星蘭は私と密接に接していたい感じを隠さなくなりました。以前は私の方からアプローチしていたのですが、一度タガが外れてから、私より積極的になりました。
私としては嬉しいのですが、あまりにも幸せすぎて、お母さんに秘密にしていることが心苦しくなっているのも事実です。
いつかはお母さんに、打ち明けてしまわないといけないのでしょうが、その時に悲しむ顔が見たくないのです。
*****
補習は私一人で受けるつもりでいたのですが、志望大学の合格ラインにまだ達していない有志の生徒が他にも五人ほどいて、結局私を含めて六人で補習を受けることになりました。
最初は私の遅れを取り戻すために、最初の二か月の授業に焦点を当てる予定だったのですが、他の生徒も同じコースに参加することになり、結局は一学期全般の内容や一年次の内容も重点的に復習することになりました。
最初は戸惑いましたが、復習をすることで今までの学習で曖昧だった部分が明確になり、かえって理解しやすくなり、結果的に理解度が上がりました。
夏休みが始まり、初めての土曜日に、星蘭と待ち合わせて、彩華ちゃんの健康回復を祝って、途中でお花とケーキを買ってから、遊びに行くことになりました。
「星蘭、彩華ちゃんの家に行くのは初めてだよね。」
「そうね、彼女の家って大きいんだったよね。」
「ええ、私も保育園の時に一度だけ行っただけだけれどね。」
「たしか、そこで彩華ちゃんのお父さんの深淵をのぞいたのよね。」
「深淵って。少し大げさよ、その時に違和感を抱いて星蘭に相談に行ったわね。」
「そうね、まさかあの時には、私たちが人体実験に使われるとは思ってなかったけれどね。」
「私も、そんなこと考えてなかったわよ。」
と、私はうなずきました。
「ところで、今日は土曜日だけど、おじさんは在宅かしら?」
「さあ、先日伺うと連絡した時には、聞いてなかったからわからないわ。でも、いると仮定して会話は注意した方がいいわね。」
そう言って、私は星蘭に注意を促しました。
彩華ちゃん家の呼び鈴を押すと、勢いよく内側から玄関が開きました。
「二人ともいらっしゃい。」
と、彩華ちゃんがとても元気に飛び出してきました。
「あなた本当に彩華ちゃんなの?」
「何言ってるのよ、当然じゃない。さあ、入って。」
私と星蘭は顔を見合わせながら、その変わりように驚いていました。
彩華ちゃんが元気になったことは嬉しいことなのですが、見た目もかなり変わっていたのです。
私たちは驚きで退院祝いのプレゼントを渡し損ねるところでした。
「彩華ちゃん、退院おめでとう。」
そう言って、お花とケーキを彩華ちゃんに渡しました。
「わ~きれいなお花。ありがとう。」
彩華ちゃんは、顔を輝かせながらお礼を言い、家に入っていきました。
「ママ。紗夢ちゃんたちが、退院祝いにきれいなお花とケーキを持ってきてくれたわよ。」
「そう、よかったわね。上がってもらって頂戴。」
私たちは玄関に入り、
「お邪魔します。」
と断って、靴を脱いで家に上がりました。
「あなたたちも驚いたでしょう。主人から元気になったとは聞いていたけれど、体も入院前からかなり成長して、今までの服がほとんど着られなくなったのよ。」
「ええ、私たちも驚きました。」
「綾瀬さん、久しぶりに会ったわね。ところで、こちらの方は?」
「お母さん、言ってなかったっけ?紗夢ちゃんのお友達で、星蘭ちゃんよ。」
星蘭はおばさまに深々と頭を下げて、
「お初にお目にかかります。姫野星蘭と申します。」
と、とても丁寧にあいさつをしました。
「あらあら、とても丁寧ね。彩華の母です。今日は楽しんで帰ってちょうだいね。」とお母様は笑顔で言いました。
私たちは、彩華ちゃんの退院祝いの後、少しおしゃべりをして帰るつもりでしたが、彩華がとても喜び、はしゃいでいたため、ついつい長居してしまい、夕方になってしまいました。
私は星蘭に目配せして言いました。
「遅くなってきたので、今日は帰るわね。」
彩華ちゃんはがっかりして言いました。
「え~。もう少しいてもいいのに。」
「ごめんね、遅くなると家族が心配するから、また来るわね。」
「彩華、遅くまで引き止めちゃだめよ。」
と、おばさんがたしなめていました。
「わかったわ、絶対また来てね。」
「ええ、伺うわ。」
玄関で靴を履くと、見送りに来た彩華ちゃんとおばさんに。
「今日はお邪魔しました。」
「またいつでもいらしねね。」
別れの挨拶をして、帰路につきました。
しばらく歩いて家が見えなくなってから。
「星蘭、やっぱり同じ症状が出ていたわね。」
「ええ、一つをのぞいては確かね、さすがに聞けなかったわ。」
「当然よ、そんなこと聞くといぶかしく思われるわよ。」
「あんなに元気なのに、来年から復学するのかしら。」
「まあ、出席日数の兼ね合いもあるのでしょうね。」
「そっか、そうよね。これで、星蘭と同学年ね。ところで進学先は私と同じところよね。」
「当然よ、なんでそんなこと聞くの?」
「以前、彩華ちゃんが、同じ学校に来てくれと言っていたから。」
「私、行くとは一言も言ってないわよ。」
「それならいいのよ、私は離れたくないから少し心配したの。」
「私は絶対にはなれないわよ。」
「じゃあ、夏休みが終わったら、星蘭ちゃんの家庭教師しようかしら。」
「え?いいの、私は嬉しいけれど、あなたの成績が落ちたら私が責任感じちゃうわ。」
「いいのよ、家庭教師はいいわけなのだから。」
「困った人ね。」
そう言って、星蘭は私の手を握り、体を近づけてきました。
******
夏休みの補習も終わりに近づき、どうやら私の遅れもとりあえず取り戻せました。
星蘭に聞いたところ、無事遅れを取り戻せたようです。ただ、これから受験に向けて重点科目の底上げをする必要があるため、
「紗夢先生、家庭教師よろしくね♡」
とメールで連絡してきました。私は他人に見られたらどうするのかと思いながら、一方で心がときめいてしまいました。
夏休みが終わり、通常の学校生活が再開されましたが、私にとっては毎日補習に出かけていたので、今更感がありました。
秋になり、わが校でも体育祭、文化祭、修学旅行といったイベントが目白押しです。ただ、他の学校と比べると規模は小さいのですが、それでもみんな楽しみにしていました。
九月の終わりに体育祭が終わり、二年生は十月に入ってすぐに修学旅行が控えています。
「星蘭、一緒に行けなくて残念だね。」
「私も同じく修学旅行なので、帰ったらお互いにお土産交換しましょうね。」
「星蘭、行き先はどこなの?」
「定番の京都と奈良だよ。紗夢ちゃんは?」
「沖縄なの。」
「もしかしたら海で泳げるかもしれないね。」
「どうかしら、でも水着持参にはなってるわ。」
「あなた、水着きれるの?去年買ったやつでしょう?」
「ええ、そうよ。なぜ?」
「あなた、今の体形を忘れてないでしょうね?パッツンパッツンになっちゃうかもしれないよ。」
「あ~、そうだった。明日帰りに新しい水着を買ってこなきゃ。」
電話の向こうで、ため息が聞こえました。
「気をつけてね。」
「ええ、ありがとう星蘭。ハート」
「口で言わないでよ。」
「でも、履歴に残らないでしょう。」
「じゃあ、旅行から帰ってくる日を楽しみに待ってるわ。」
私は携帯の通話を終了して、明後日出発する修学旅行を楽しみにしていました。
翌日の帰り道、水着を買いに店に入ると、店員さんが寄ってきました。
「いらっしゃませ、何になさいますか?」
「水着を新調したいのですが。」
「では、こちらに。」
そうして、水着が陳列された棚に連れて行ってくれました。
「あの、私はまだ高校生なので、もう少し大人しめのデザインはありませんか?」
「では、こちらのワンピース型は、いかがでしょうか?」
「いいわね、このフリルのついたので、私のサイズに合うものはありますか?」
「では、体型を測らせていただきますね。」
「少しこれでは胸のあたりがきついですね。」
「こちらのものですと、胸のあたりが調整可能ですので、どうでしょうか?」
「いいわね、これをいただきます。」
「ありがとうございます。」
「毎度ありがとうございます。」
店を出て、家に向かいながらメールで星蘭に買った水着のことを連絡すると、速攻で電話がかかってきました。
「いつか見せてね。」
「ええ、来年の夏にお披露目するわ。」
「ふふ、楽しみにしてるわね。」
私は携帯の電話を切り、家に向かって歩き続けました。その夜は、明日からの修学旅行が楽しみでなかなか寝付けませんでした。
*****
ここは病院の病棟にある部屋で、本城武は、部屋の中をうろうろと考え事しながら歩き回っていました。
『困ったことになってしまったぞ。まさかあんな副作用があるとは思わなかった。妻にもどうにか直してくれとせっつかれているが、今のところ打つ手がないからな。』
そう、悩んでいると急に専用電話が鳴り響きました。
「わたしだ、三名の処置後の状態を報告してくれ。」
「お前か、実は困った副作用が出ている。」
「どんな副作用だ。」
「細胞が活性化することは知っているだろう。その影響で、閉経してしまった。」
「検査してその原因は判明しているのか?」
「ああ、細胞が活性化して若返るのだが、その影響が卵巣にもあってな。あまりにも卵巣が若返り、幼少期の状態まで若返ったことが原因だ。だから一般で言うところの閉経とは異なるがな。」
「そうか、それなら細胞活性化の遺伝子の調整で何とかなるかもしれないな。明言はできないが。」
「ぜひお願いしたい。」
「その他にはないのか?」
「それから、胸が大きくなる現象が出ている。」
「女性なのだから、胸が大きくなって驚くことはあるまい。むしろ喜ばれることの方が多いのではないか?」
「いや、その大きさが度を超えているのだ。」
「というと?」
「三名とも、Fサイズだ、今のところ成長は止まっているようだが。」
「原因はわかっているのか?」
「いや、解っていない。何等かのトリガーで女性ホルモンの(エストロゲン)が大量に分泌されたと想定している。」
「しかし矛盾していないか?一方で細胞が若返って閉経まで引き起こしておきながら、一方で女性ホルモンが多量に分泌されているなどと。」
「それはわかっているが、実際にそうなっているのだから。そちらで、研究して対策をお願いしたい。」
「それはそうなんだが、いかんせん秘密裏に行う必要があるからな。表向きは凍結された研究内容だからな。」
「それは、わかっているのだがな。」
「それ以外に副作用はないか?」
「言いにくいのだがな、あの後、女性の副作用がわかった後、男性ならどうなるか知りたくてな。」
「お前、男性でも試したのか。副作用があることがわかっていながら、男性で何かあったら、大変なことになるぞ。」
「ああ、そのあたりは心得ている。実はな、先日十五歳の男性の孤児が、病院に担ぎ込まれたのだ。」
「孤児ということは、身寄りはいないのだな。」
「ああ、そのあたりは調べて、身寄りがいないことを確認済みだ。そして、かなり重体だったから、万が一失敗しても言い逃れができるので、試してみた。」
「それで、副作用はあったのか。」
「ああ、実はほとんどの機能が女性化してしまったのだ。」
「なんだと?」
「骨格までほぼ女性になり、乳房も盛り上がり始めている。性機能もほぼなくなった。ただし、完全に女性になったわけではない。」
「どういうことだ?」
「卵巣はないのだ。」
「それはそうだろうな。そこまで変異しては生命学的におかしくなるからな。」
「そこでな、このまま退院させるわけにいかなくなってな。家に引き取ることにした。」
「家内の反対があったが、仕方がないので、無理やり納得させた。」
「裏から手をまわして、何とか戸籍も作っておいた。」
「来年、家の娘と同じ学校に女生徒として潜り込ませるつもりだ。」
「完全には女性ではないのだろう、身体検査で疑われはしないか?」
「いや、男性器は完全に喪失しているし、戸籍も女性にしてあるから、通常の検査ではばれないさ。」
「わかった、それでは血液情報など、被験者の情報を送ってくれ、こちらでも調べてみよう。」
「至急手はずを取る、頼んだぞ。」
「ああ、では。」
そう言って、電話を切ったが、早く対応がわかってくれることを願うことしかできなかった。
*****
秋のイベントが終わり、冬休みが近づいていたある日、彩華ちゃんから連絡があり、次の週末に家に来てほしいという内容でした。
星蘭の家に家庭教師として出かけていたとき。
「ねえ、今日彩華ちゃんから、急ぎの連絡があってね。今週末、家に来てくれないかって、とても焦ってる感じだったの。」
「それで、どうするつもり?」
「心配だから、行ってみるって答えてしまったわ。」
「なるほど…わかったわ。私も一緒に行くわ。」
「ありがとう、本当に助かるわ。」
週末が訪れ、私と星蘭は一緒に彩華ちゃんの家へ向かいました。
「急な話って、何かあったのかしら?病気か何かでしょうか?」
「でも、もし病気だったら、病院に入院しているはずだわ。」
答えが見当たらないので、私は考えることをやめて、玄関の呼び鈴を押しました。
「いらっしゃい、どうぞ。」
そう言って、彩華ちゃんが玄関を開けた時、後ろに見知らない女の子が立っていました。
「彩華ちゃん、その子は誰なの?」
「後で紹介するわ。今、まずは中に入って落ち着いてちょうだい。」
私たちは玄関を入り、靴を脱いで彩華ちゃんの部屋に向かいました。
部屋に入ると、見知らぬ女の子も一緒に入ってきました。
「実は、今日呼んだのはこの子のことなの。」
「先日、父が急にこの子を連れてきて、孤児で記憶喪失だから、家で引き取ることにしたっていうのよ。すべて不明だったから、名前は紫苑、年齢は十五歳、誕生日は十一月ということにしてあるわ。」
「紫苑、私の友達の紗夢ちゃんと星蘭ちゃんよ。挨拶してくれる?」
「初めまして、紫苑です。よろしくお願いします。」
彩華ちゃんは冷たく紫苑ちゃんに言いました。
「いいわ、自分の部屋に行っていてちょうだい。」
「はい、彩華お姉さま。」
紫苑は言うと、部屋を出ていきました。
「彩華ちゃん、急に家に引き取ることになったのはわかるけど、少し冷たいんじゃない?」
「そういうことではないの。実は、最近急に男性が近くに来ると、私鳥肌が立つみたいになっちゃって。以前はそんなことなかったのに、紫苑ちゃんが近くにいると、なぜか男性と同じような拒絶反応が出るの。変でしょう、女の子なのにね。それで、ついつい冷たく接してしまうの。」
「それと、お話は他にもあって、私高校休学中でしょう。それで、来年紗夢ちゃんと同じ高校を受け直したいって思って、先日お父様にお願いしたんだけど、不思議なことに、いいって言われたの。ただし、紫苑も同じ学校を受けて通うことが条件なの。」
「大丈夫なの?うちの学校には男子もいるし、彩華ちゃんの学校とは違うわよ?」
「それは分かってるの。でも文系ならほとんどが女子なんだって。だから、文系を選ぶことにしたの。」
「医学部は諦めたの?」
「うん、男性恐怖症だと医学部は厳しいわ。」
「わかったわ、じゃあ、星蘭ちゃんもうちの学校受けるから、合格したら三人で同じ学年になるかもしれないわね。」
「受かるかどうかはわからないけど、頑張るよ。星蘭ちゃん、よろしくね。」
星蘭は複雑な表情で頷きました。
驚きと戸惑いの中、私と星蘭は帰り道で話していました。
「変よね?いくら孤児で記憶喪失だからって、家に引き取るなんて。」
「・・・・・・・・・・・」
星蘭は何か考え込んでいて、黙っていました。
「ちょっと、星蘭、どうしたのよ。」
私は少し強い口調で言いながら、肩をゆすりました。
「あ、ごめんなさい。考え事してたの。」
「何を考えてたの?」
「私たちが付き合うことになったのも、そして彩華ちゃんが男性恐怖症になったのも、遺伝子操作してからだよね。と思ったんだ。」
「それって、遺伝子操作が精神的なことにも影響するってことかしら?」
「そうかもしれないね。考えてみたら、前から星蘭が好きだったけど、告白する気になったのは事故後だったわ。」
「それに、紫苑ちゃんを不自然に引き取ったことも気になるわ。」
「そう、私も不自然に感じたの。」
「そして、彩華ちゃんが拒否反応を示していることから、あの子が男の子かもしれないと思ったの。」
「それはないわよ、どこを見ても女の子だったわよ。」
「でも、私たちの副作用を考えると、あの先生が女の子に出た副作用が、もし男の子だったらどうなるか知りたくなっても不思議じゃないでしょう。」
「確かにそうね。」
「そこで、孤児で記憶喪失の重症患者が来たら、試してみようと思っても不思議ではないわけ。」
「ありうるわね。」
「そして、結果が女性化だということよ。」
「ええ~!」
「でも、完全に女性になったわけではないから、どこかに男性的な違和感を彩華ちゃんが感じ取って、拒絶している可能性もあるんじゃないかと思ったの。」
「なるほどね。」
「怖いことするわね、正に神をも恐れぬ行為よね。」
「ええ、創造神様どう思ってるかしら。」
「私たちのこともね。」
「それを言わないの。私もう覚悟決めてるのだから。」
「私もよ。」
結局、二人は互いに腰に手を回し、いつもの流れに戻ってしまいました。
*****
冬休みも終わり、ついに星蘭の高校受験の日がやってきました。
星蘭のお母さんが心配そうに言いました。
「筆記用具持った?受験票忘れてない?時間大丈夫?送っていこうか?」
いつもとても落ち着いているお母さんが、今日は不安げで、私の受験の日を思い出しました。
「大丈夫よ、私が学校まで一緒に行くから。」
「紗夢ちゃん、お願いね。行ってらっしゃい。」
そう見送られながら、二人で高校に向かいました。
「紗夢ちゃん、とてもありがたいけれど、今日は学校受験があるからお休みなのでしょう?」
「授業は休むけど、私は三年のA判定をもらうためのレポートがあるの。図書館でレポートをまとめようと思っているの。」
「それならわかるわ。でもありがたいわ。」
「少しでも落ち着いて試験に臨んでほしいからね。」
「目指せ、理系Aクラス。」
「プレッシャーかけないでよ。頑張るけど。」
「そうよ、K大目指して頑張らないと。」
「そうね、いつまでも離れないためにもね。」
「そういうこと。」
学校に着いたので、星蘭は受験会場に向かい、私は図書館に入りました。
そして、二日間の受験が終了して、後は発表を待つばかりとなりました。
「三人とも受かってるといいわね。」
「それについては複雑ね。彩華ちゃん、どうもあなたのことが好きになってるみたいだから。」
「大丈夫よ、私は星蘭一筋だから。」
「そうも言ってられないわ。彩華ちゃんのお父さんがこの学校を受けなおすことに簡単に同意したのは、彩華ちゃんを通して私たちを監視することも考えていると思うから。」
「そっか、そういうことも考えられるわね。私はてっきり紫苑ちゃんのお目付け役だと思ってたわ。」
「それなら、元の学校に紫苑ちゃんを受けさせれば済むでしょ。」
「確かに、そうよね。」
「私たち、見張られるのね。」
「そういう意味では、あの子を取り込んで、関係を秘密にして私たちのことが言えなくするのが一番なのかもしれないけどね。」
「いやよ、私は星蘭一筋なの。」
「わかってるわ。」
そうは言っても、これからどうなっていくのかという不安が募りました。
そして、合格発表の日、私は授業があるため、学校に向かい、星蘭は少し遅れて、発表の時間に合わせて学校に来ることになっていました。
私も休み時間に見に行ってみようかなと考えていました。
掲示板に合格者名簿が掲示され、星蘭はドキドキしながら見つめ、受験番号があることに気付いて何度も何度も確認しましたが、間違いではないことに気付いて、飛び跳ねて喜びました。
そのとき、後ろから声をかけられました。
「おめでとう、星蘭ちゃん。私たちも受かってたの。来年から同級生よ、よろしくね。」
振り返ると、彩華ちゃんと紫苑ちゃんが立っていました。
「あ、ありがとう。あなたたちも合格おめでとう、来年からもよろしくね。」
そう言って、つかの間の喜びを分かち合いました。