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本城武の秘密

彩華ちゃんのお見舞いに行ってから、数日が経ち、遺伝子組み換えが行われる頃。私たちも学校に復学する日がやってきました。


復学の当日、とても緊張してしまいました。さすがに二か月以上入院していたため、授業についていくことが難しいことを心配していました。前世の記憶を持っていても、文系の科目には所々わからないことがありました。


先生は、


「綾瀬さんは二か月以上入院されていたので、授業についていけないことがあります。皆さん色々協力してあげてくださいね。」


と言って、みんなの意識を私に向けました。そうして、復帰初日は何とかこなしましたが、これは補習確定ですね。そう思いながら、帰路につきました。


自宅に到着すると、玄関に星蘭ちゃんが待ち受けていました。


「帰ってくるのを待ってたの。学校はどうだった?」


「やはり、授業の遅れは取り戻すのが大変そう。補習確定だわ。」


「そう。でも帰り遅くなるなら気を付けてね。まだ安心できないのだから、人通りの少ないところは歩かないようにしてね。」


「ええ、わかってるわ。あなたも気を付けるのよ。」


「ええ。私は、夏休みに集中して補習することになったの。だから普段は遅くならないわ。」


「それはそうと、彩華ちゃんの髄液の遺伝子組み換え処置は今日あたりしてると思うの。無事に終わったかしら?」


「突然話が飛んだわね。そうね、今日あたりだと言ってたわね。でも、あなたは割と平気なのね。驚いたわ。」


「彩華ちゃんのお父さんには思うことがあるわよ。でも彩華ちゃんには罪はないもの。私と彩華ちゃんは友達だから、やっぱり助かってほしいわ。」


「そうね、助かってほしいけれど、まだあの治療は三人目でしょう、副作用もどんなことがあるかわからないし、前も言ったと思うけれど、果たして私たちは人間なの?という問題もあるから。治療が成功することイコール幸せになるとは言い切れないわ。」


「そうね、将来に何があるかわからないけれど、それも生きてないと経験することできないもの。何があってもまず生きることが大事よ。そのあとの問題は、そうなってから考えるわ。」


「あなた、見かけによらないでずいぶんとプラス思考なのね。」


星蘭ちゃんは、そう言ってあきれていました。


しばらく注意しながら通学していましたが、特に問題もなくひと月が経ち、私と星蘭ちゃんの定期診察の日がやってきました。


学校を早退して、病院に向かう途中、私たちは彩華ちゃんのお見舞いに行けるかを話しました。


「今日、彩華ちゃんのお見舞いできるかな?」


「どうかしら、あれから何も連絡がないから不安だわ。」


「そうなのよね、でも私たちも事故から痛みが取れるまで一か月くらいかかったわよね。」


「今思い出しても、あの痛みは強烈だったわね。」


「ええ、体中の骨がバラバラになるのかと思ったわ。」


「ふふ、なかなかうまい表現ね。」


しばらく歩いていると、病院が見えてきたので、


「病院では、顔に出ないように気を付けないとね。」


「そうよ、紗夢ちゃんは特に顔に出やすいからね。」


「え?そんなに私って顔に出てるの?」


「感情を抑えるのが下手なのね。ポーカーしたらぼろ負けね。」


「気を付けます。」


私は、少し落ち込みました。


「ほらほら、顔に出てるよ。」


「星蘭ちゃんの意地悪。」


そう言って、星蘭ちゃんをつつきました。


待合室で待っていると、先に星蘭ちゃんが呼ばれました。


星蘭ちゃんが診察室に入った後、待合室からひそひそ話が聞こえてきました。


「本城先生のお嬢さん、重い病気だったのでしょう?」


「ええ、それが新しい治療方法があったとかで、無事に回復したそうよ。」


「え~。余命二年って言ってたのに、そんな魔法みたいな治療方法があったの?」


「そうなのよ、不思議よね。」


「そういえば、以前病院の前でひき逃げにあった女の子の治療も、本城先生だったよね。」


「ええ、そうなのよ、それでね、看護師が噂してたのだけれど、二人ともあんなに重傷を負ってたのに、一か月で傷跡がきれいに消えていたんだって。」


「それはすごいわね。本城先生、どんな治療方法をしたのかしら。」


「私も事故で重傷になったら、本城先生に診てもらいましょう。」


「そうね、あわないのが一番だけれど、万が一の時は診てもらいましょうね。」


ここの看護師さんたちは油断しすぎているわね。みんな筒抜けだわ。


後で、星蘭ちゃんにも現状を伝えた方がいいわね。


そう考えていると、星蘭ちゃんが診察室から出てきました。


「経過どうだった?先生何か言ってた?」


「順調だって。」


「よかったね。」


そう言って、今さっき患者さんが話していた内容を、小声で星蘭ちゃんに伝えました。


「そう、まずいわね、あまり広まると予測できない事態が起こる可能性が出てくるわね。」


「そうでしょ。私もそう思ったの。」


「まあ、私たちは今まで通りよ。」


「わかったわ。あ、呼ばれたので私行ってくるね。」


「行ってらっしゃい。」


私は手を振りながら診察室に入っていきました。


「やあ、久しぶりだね。レントゲンも、血液検査の結果も異常なしですよ。これなら定期通院はもういいかな。」


「本当ですか、ありがとうございます。」


「でも、何か体調に変化があったら夜でも、祭日でもいいから病院に連絡してください。そうすれば緊急連絡が私のもとに来るからすぐに診てあげますからね。」


「はい。ところで、彩華ちゃんの容態はいかがですか?」


「ああ、順調に回復していますよ。ただ、君たちと違って怪我ではなく病気だからね。」


「何か、心配なことがあったのですか?」


「いやいや、今のところはないけれど。怪我なら回復すれば問題なくなりますが、病気だからいつどうなるかわからないんです。」


「では、まだ面会はできないですね。」


「そうだね。」


少し考えるそぶりをしましたが。


「いや、君たちは友達だから合わせた方が元気が出て早く回復するかもしれないね。病気は気からというからね。」


「いいんですか。ありがとうございます。」


「私から、看護師に言っておこう。」


「それでは先生、ありがとうございました。」


「ああ、元気でね。」


そう言って診察室から出て、星蘭ちゃんに彩華ちゃんとの面会の許可が出たことを伝え、彩華ちゃんの病室に向かうことにしました。


ロビーで待つこと1時間。看護師が面会許可が出たことを伝えに来てくれました。私たちは彩華ちゃんの病室に向かいました。


「彩華ちゃん、具合はどう?」


私が声をかけると、


「紗夢ちゃん、星蘭ちゃん、来てくれたんだ。ありがとう。もうずいぶんよくなったのよ。」


少しやつれた表情で、にっこりと答えました。


私は心の中で彼女の状態を気にしながらも、それを表情や声に出さないようにしました。


「そう、よかったわ。何か欲しいものある?食べ物とかはダメだろうけれど、本とかなら来週の休みの日に面会に来るから、その時に持ってくるわ。」


「ありがとう、今はいいわ。今も時々体が痛むので、本を読む気になれないのよ。」


「ごめんなさい、そうなのね。でもほしいものあったら遠慮なく言ってね。」


「うん、ありがとう。その時にはお願いするね。」


それから、あまり無理させないように、十五分くらいとりとめもない会話をして、病室を辞することにしました。


「じゃあ、紗夢ちゃん、お元気で、また来るわね。」


「ええ、待ってるわ。」


彩華ちゃんは少し寂しそうに手を振ってくれましたので、私は元気に笑顔で手を振りました。


看護師さんに面会終了の挨拶をしてから、病院を後にしました。


病院を出てから、小声で星蘭ちゃんに言いました。


「まだ完全には回復していないようね。」


そう言うと、


「そうね、私たちと異なり、病気が相手だと一か月では治らないのかしら。」


「遺伝子組み換えが本当はどんな効果があるのか、私たちは何も知らないものね。」


「あなたのお父さんの書斎にそのあたりの資料は残ってないの?」


「ええ、書斎の本は片っ端から読み漁ったのだけれど、お父さんの研究に関する資料は何もなかったわ。」


「そうなのね、すべて研究室に置いてあったのなら、もう残ってないわね。」


「私、もう一度書斎の資料を調べてみるね。」


 *****


診察室の直通電話が鳴り、受話器を取ると珍しい声が聞こえてきました。


「そちらからかけてくるとは珍しいな。連絡は極力取らないのではなかったのか?」


「噂が聞こえてきたのでな。おまえ、あの方法を娘の治療に使ったのか。」


私は受話器を持った手がびくっとなるのを感じましたが、心を落ち着けて答えました。


「ああ、使った。何か問題があるか?」


「大ありだ、末期のがん患者がほぼ回復したという情報が流れてきたのだ。問題ないわけがあるまい。」


「しかし、あの治療方法は公にはできないだろう?なら、こうして臨床試験を極秘に行うしかあるまい。」


「それはそうだが、末期がんに使うことはなかっただろうが。」


「もっと、あたりさわりの無い病気でやるべきだった。それに、娘に使うとはまだ未知の研究だぞ、何かあってからでは取り返しがつくまい。」


「それなら、こちらで先に二例ほど臨床試験を行っている。」


「なんだと?それは秘密にできているのだろうな。」


「ああ、例の娘とその友達が、交通事故で病院に担ぎ込まれたのでな。その二人に処置をした。この二人は瀕死の重傷だったので、失敗しても手遅れだったと言い逃れができそうだったのでな。」


「それに、あれの娘なら死んでくれた方が都合がよいくらいだったのでわないか?」


「ああ、死んでくれたらな。だが死んでいないのだろう。」


「二人とも今のところ問題なく生きているよ。俺の娘の友達でな。その会話の内容からも特に不審なところはない。」


「一つ聞いておきたいのだが、交通事故は偶然か?お前の指示ではないだろうな?」


「実は、俺の指示で殺さない程度でと依頼した。」


「馬鹿者、その者が逮捕されたら秘密が露見するではないか。」


「それは問題ない、死人に口なしだ。」


「・・・消したのか。」


「ああ。」


「わかった、あれの娘には気をつけろよ。何か不自然なことがあったら先走らないで、俺に連絡するのだぞ。」


「了解だ、それでは切るぞ。」


「ああ。」


私は深いため息をつきながら、うまく娘を使ってあれの娘たちを探らせなくてはならないと思った。こんなことなら同じ学校に通わせておけばよかったと後悔したが、今更だな。


一方、遺伝子研究所の一室では、受話器を下ろして。


「やつにも困ったものだ。少し焦りすぎだ。」


しかし、あれの研究はすごい。途中で、神の冒涜になると言って研究を破棄したいと言ってきたときは焦った。


髄液の遺伝子を組み替えることで細胞の活性化をはかり、事故や病気で死滅した細胞が驚異的なスピードで再生されることがわかり。これで病気やけがの治療に役立つとわかり、あと少しで学会に発表するところだったのだ。


しかし、その活性化があまりに早いため、通常では老いもせず、並みの病気やけがで死ななくなることがわかり、あれは恐れをなしてしまった。


こんなおいしい研究を破棄するなんて、とんでもない奴だと思ったな。あれが死んだのは、まあ自業自得だな。


「ふふふ」


と、気味の悪い薄ら笑いを浮かべながら窓の外を眺めました。


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