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紗夢と星蘭の遺伝子操作

次に目覚めたのは、体中に激痛が走った時でした。


私はもだえ苦しみ、幾度となく看護師が駆けつけてきて介抱してくれ、痛み止めを注射されましたが、それでも苦しみから解放されることはありませんでした。


この状態が一週間ほど続き、体力の限界を迎えたころ、徐々に激痛が和らぎ、体力も少しずつ回復していきました。そして、痛みが治まりかけた数日後、看護師に尋ねました。


「今日は何日ですか?私と一緒に事故に遭った友達は今どうしてるのですか?」


その時、事故から約一か月が経過していることを教えてもらいました。また、星蘭ちゃんも同じ病院に運ばれ、同じように苦しんだ後、回復に向かっていると教えられました。


「星蘭ちゃんに会えませんか?」


と尋ねたところ、まだ医師の許可が下りていないため、私たちは病院関係者以外の誰とも会えないと伝えられました。


私は痛みもなくなってきたので、体に傷が残っているのではないかと心配し、こわごわ布団をはがして体の状態を確認したところ、体中を探しても傷が見当たりません。


「え~?体に傷が見当たらない?」


少し素っ頓狂な声を上げてしまい、あわてて周りを見渡しました。


「私の傷、どうなっているの?気を失う前には体中から血が出ていて、とても深い傷があると思ったのだけど。」


と、午後の診察に来た看護師さんに尋ねました。


「そうなのよ。私たちも驚いてるの。おそらく先生の新しい治療方法が効果的だったのでしょうね。あなたも、あなたのお友達も、体のどこにも傷が見当たらないの。きっと若いから回復力が素晴らしいのね。」


看護師さんは微笑みながらそう言いましたが、私は気を失う前に彩華ちゃんのお父さんが漏らした言葉を思い出し、ある考えが頭に浮かんできました。


『そう、私たちはあの人の研究のモルモットにされたのだと。そしてその内容は父の研究成果であることを。』


考え込んでいる間に、ある仮説が頭をよぎりました。彩華ちゃんのお父さんはあのことを漏らした時、私にまだ意識が残ってたと思ってない可能性が高いわ。したがって、そのことを秘密にしておくべきかもしれないわね。それが危険を回避するための賢明な方法かもしれないわ。


そして、もう一つの仮説が頭に浮かびました。事故が偶然ではなく仕組まれたものである可能性があるということ。この考えが頭から離れず、私は疑念を募らせました。


・父の研究とは一体何なのかしら?

『遺伝子の組み替えによって治癒能力が向上したのかしら?』


・なぜ私たちがモルモットとして選ばれたのかしら?

『正規のルートではないため、あとくされのない検体が必要だったんだわ。私たちは事故で瀕死だったため、死んでも言い訳ができる。そして、私が死んだら父の研究を盗んが事がばれないと考えたのね。そう、これね。』


・そもそもこんな危険を冒してまで父の研究の成果を求める必要があったのかしら?

『そうね、父の研究は発表されてないのだから、焦る必要はないと思うわ。正規の方法で検証すればいいのに。ひょっとして時間が迫っていた?それで、ふと気づきました。そう、彩華ちゃんの病気。余命が後二年しかないのよ。だから、急いで行動せざるを得なかったのだわ。』


あ~あ、星蘭ちゃんに早く会いたいな。そう思いながら、その他のことは今は深く考ないことにしました。


 *****


痛みがなくなって一週間後、私はやっと星蘭ちゃんに会うことができました。


「星蘭ちゃん、元気してた?」


「ええ、紗夢ちゃんも元気だった?」


「ええ、見ての通りよ。でもあまりの苦痛で気がついてから一週間くらい苦しんでいたわ。」


「私も同じよ、苦しかったよね。」


そう言って星蘭ちゃんは私に目配せしました。


あ、星蘭ちゃんも何かを察しているんだ。さすがね、と思いながら、ここでは余計なことを言わなくてもわかってもらえるなと思い、それ以上のことは話しませんでした。


「紗夢ちゃん、今日看護師さんがこの調子なら今週中に退院できそうだって言ってたよ。」


「え、そうなの?私もかな。聞いてないけれど。」


「後で、聞いてみるといいわ。一緒に退院できるといいわね。」


それからはとりとめのない話をして、早く退院したいねとにっこやかに話しました。


しばらくして、私は言いました。


「星蘭ちゃん、じゃあ私、病室に戻るね。退院のこと、看護師さんに聞いてみるね。」


「ええ、ではまたね。」


私は、肝心なことを話し合えなかったことを少し寂しく思いましたが、顔に出さずに病室を後にしました。


病室に戻ると、彩華ちゃんのお父さんが来ていて。


「友達のところに行ってたの?」


「ええ、心配だったから、でも元気にしてたので安心しました。先生、ありがとうございます。」


「元気になってよかったよ、娘もとても心配していてね。パパ絶対直してよと強く約束させられたので、回復できなかったらとひやひやしたよ。」


少し、顔の筋肉が引きつったように感じたけれど、気付かないふりをして。


「彩華ちゃんの病状どうなの?私はそちらを心配してたの。」


「ああ、そちらも今回復する手段を模索していてね。もしかしたら完全にはいかないかもしれないが、ある程度の回復の望みが立ったところなのだよ。」


「え~。よかったわ。事故当日、彩華ちゃんのお見舞いに行く途中だったから、ず~と心配していたの。」


「ありがとう、彩華には伝えておくよ。」


「それはそうと、看護師に退院のこと聞いた?」


「いえ、まだ聞いてないけれど、友達が今週退院できるかもしれないと言ってたから、後で確認しようと思ってました。」


「そうかい、急だけれど、明後日退院で問題ないと看護師には伝えてあるんだよ。でもしばらくは一週間に一度通院で、経過観察します。」


「先生、ありがとうございます。お母さんに連絡していいですか?」


「ああ、ロビーから電話するといいよ。病室からはダメだぞ。」


「わかってます。早速してきます。じゃあね、先生、ありがとう。」


そう言って私は病室を飛び出しました。


わたしが駆けていくのを見送った後もしばらく、病室に先生は残りました。


『友達との会話内容からも、遺伝子操作のことは知られていないようだな。これなら、この処置を娘にしてもまず疑われることはなさそうだ。だが、念のため娘の遺伝子操作は来月にしよう。急いでは事を仕損じるからな。』


そう、ぶつぶつとつぶやきながらしばらく病室にいたが、やがて廊下に出て何食わぬ顔をして診察室に戻っていきました。


 *****


今日は待ちに待った退院の日、遥香ママと、星蘭ちゃんのお母さんが退院のお迎えに病院に来てくれました。


「ほんと、心配したんだから、一か月以上も面会さえ許されなかったし、警察も何度もうちを訊ねてきて、何か恨まれる覚えがないか?とか、犯人に心当たりないか?とか、色々聞かれて、まるで私たちの方が悪いのではないかと疑ってる感じがしたわ。」


星蘭ちゃんのママも。


「うちの子は、紗夢ちゃんをかばおうとしてはねられたから、紗夢ちゃんが襲われることに心当たりないかとか、根掘り葉掘り聞かれたわ。」


「ほんと、ごめんなさいね。」


私は、事故のことは詳しく聞いてなかったので。


「え、では私がはねられたのは事故ではなく、私を狙って。殺そうとしてはねられたの。」


「知らなかったの?まあ、面会謝絶だったものね、警察も尋問できなかったのね。」


「事故を目撃した通行人がね、あなたが交差点に入ってきたら急加速してはねてそのまま逃走したと、証言していたの。」


「そうそう、明らかにあなたを狙っていたと。なので、今あなたの身辺調査を行ってるみたいよ。」


私は下を向いて。


『やっぱり、あの仮説は正しかったのだわ。』


と思いましたが、ここでその話をするわけにいかないので。


「やっぱり、思い当たらないわ。私を狙って何の得があるのかしら。」


「パパの事件もあるし、私が狙われた事件もあるし、そして今回でしょう。警察は何か関係があるかもしれないと考えてるみたいよ。」


「それでも、お母さんの事件は解決したのではなかったの?」


と、私が聞くと。


「確かにそうだけれど、叔父さんの件で、その家族から私たちよく思われてないから、そのあたりも警察は疑ってるみたいなの。」


それからは、看護師さんから退院後の生活の注意や、次回の診察の予約とか、会計を済ませて、星蘭ちゃんと私とママたちと一緒に帰途につきました。


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