巨獣殿下
超神話大魔獣 グリュマイドラ
誇り高き騎士王 レオニウス
登場
町は眩い光に包まれ、巨獣の体は町の外へと突き飛ばされていく。
太陽の如き光を目の当たりにした、レオニウスは目を何度も擦りながら、巨獣の体から離れて、反転しながら街の屋根に手を着く。
ありえない。
あんな生き物が、一度ならず二度までも。
レオニウスは槍を構える。
しかし、レオニウスは、その巨大な人型の背びれを前に、槍をすぐに下ろし、自身の背後に向けて声を出す。
「冒険者含む槍兵、弓兵、剣士よ! 力に自信のある者は、残っている民の避難援助へ向かえ! 妖術師、魔術師、呪い師問わぬ! 魔法職は早急に他国への転移門の作成! 回復術に長けた者は戦士職の側に侍り、怪我人の救助を! レベル30以上の重装兵、タンクは――俺と共に城塞際を守れ!」
王都中に響く王の声は、刹那の戸惑いこそあれ、瞬時に民達を突き動かしていった。
命令通りに、各々が動いていくと、レオニウスは盾を構えて、兜越しから戦況を見定める。
巨人が、ヒュドラ型の首に手刀を下ろし、痛みにもがき、毒息を噴射すると、巨人は両手を腰に当て、胸で受け取めていく。
その様に、レオニウスは固唾を飲み、屋根を踏みしめつつ腰を深く落として言った。
「人間の空想物語でも、ここまでの物は見られんだろうな」
畏怖と興奮の入り混じった笑みを浮かべつつ、ただレオニウスは見ている事しかできなかった。
「陛下、あれは一体何なのでしょう」
傷だらけの分厚い全身鎧を着た男が問う。
レオニウスはそれを聞き、首を一瞬回してから答えた。
「さぁな。残った方が、俺達の敵になるだけだ」
「もしそうなったら……」
「今日が、死すべき時だ。全力で抗って、な」
――ルキフェルは、驚愕を隠せないでいた。
異世界で目撃する、その異形の巨躯を前に。
元の世界ならばともかく、この世界においても巨獣に近い存在が居るとは。
深く透視を使えど、グリュマイドラの肉体の奥には、機能している臓器らしきものはなく、ただ怪物の兵器としての要素を、継ぎ接ぎしただけのようにも見える。
さながら、悪趣味なパッチワークを思わせてならなかった。
心臓の位置、中で重なった腸。
その全てが、停止しているにも関わらず――ルキフェルの眼前の怪物は、唸る。
その瞳は、全てを憎悪するかのように。
ルキフェルが掴みかかろうとした瞬間、グリュマイドラは飛翔し、その首から流星のように火球と毒の礫を吐き出す。
それらの先には、壁の壊れた王都。
ルキフェルは地面を蹴り、浮遊し両手を広げてそれを受け止めると、両腕を上に上げ、腰付近で手をかぎ状にして広げる。
すると、ルキフェルの全身が虹色に輝きながら、その輝きと同様の稲妻を周囲に迸らせ――巨獣の前で、突き出す。
「ルキフェル・バースト」
技の名を、ルキフェルが呟いた刹那、突き出された手から、虹色の巨大光線がグリュマイドラの腹部へと浴びせられ、上へと光線の勢いによって上昇していく。
いよいよ、光線の圧力に耐えかねたのか、その体はルキフェルから見て点のようになった所で、衝撃波を放つ。
衝撃波は雲を全て払い、空には太陽だけがぽっかりと浮かんでいた。
それは――完全なる、勝利の空模様だった。
ルキフェルは空へと飛び上がり、どこかへと姿を消していく。
急いで遠くへ行き、人間へと擬態しつつ、王都に戻っているとは誰が知ろうか――――。