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 第3話 異世界神話を超えてゆけ  

 超神話大魔獣 グリュマイドラ

 

 誇り高き騎士王 レオニウス

              登場


 二人が平原を歩いていくと、城壁がルキフェルとヴィナスの前に聳え立っているのが解る。

 その城壁の、唯一の通行路に続く、門の前で、止まって兵士の前で、二人は荷物確認を受けていた。

 二人の門番が、ルキフェルとヴィナスの体を軽く叩き、一通り確認し終えたと見て、うんうん、と上下に兵士は首を振る。


「よし、いいぞ。この先は、デートにはもってこいの場所だぞ」

「で、デートだなんて」

「求められれば」


 ルキフェルがそう言うと、兵士は「おいおい」と笑ってルキフェルの背中を叩く。

 兵士に向かって小首を傾げていると、ヴィナスが手を伸ばして門の先へと向かう。

 からかわれた恥ずかしさを、誤魔化すように。


「さ、さぁいくよ」

「あ、ああ……」


 手を引っ張られた先に、広がっていたのは中世ヨーロッパに見られる、ロマネスク様式を思わせる住宅の数々。

 鮮やかな赤い染料によって染められた屋根と、白亜色の壁、それらを更に輝かせる青空から伸びる、太陽光線。

 人々の賑わいと、遠くの広場の露店から香る、空腹感を煽るような匂い。

 その全てに、ルキフェルは思わず、歩みを止めていた。


「――なんて、活気のある場所だ。私の居た場所には、書物でしかこれと似た場所は見なかったというのに……オランダか? ドイツかイタリアのローマあたりか……?」

「ここは、王都ロマディア。 ここには食べ物とか鉱物とか、大体の物が他の地域から送られてくるの。このアガメ地方一帯の華だよ」


 そう語るヴィナスの口振りはどこか、誇らしげで、鼻の側面を指で掻きながら微笑む。

 そんな彼女をよそに、ルキフェルは左右を見渡し、静かに分析する。

 後ろの門番の兵装、そして城塞の材質、形状――――。

 住宅の建築様式と比較し、顎を擦り俯きながら。

 そして、あの透視光線で浮かび上がった、数値。


 門番二人に試しに当ててみると、【パル レベル10 ジョブ 歩兵】 【ゴンザレス レベル10 ジョブ 歩兵】 などと浮かび上がる。

 ヴィナスがレベル20とすると、彼らは弱いのか、それとも10が平均値で20という数値に至るまで、方法は解らないが何らかの訓練量によるものか?


 底なし沼となってきた分析思考を一時中断し、ルキフェルはヴィナスに近付いて問う。


「そうだ、おすすめの店は無いか?」


 その一言に、待ってましたと言わんばかりに胸を叩いて、返す。


「まっかせてよ!」


 ヴィナスはルキフェルを追い抜き、広場へ向かうと、噴水の前で振り返って手を振る。

 その手に誘われるまま、ルキフェルは軽く、早歩きで追いつこうとすると、再びヴィナスは走り出し、小道に入ってしまった。

 年相応の少女らしい、あどけなさを感じながら、ルキフェルは少し笑って、軽いジョギングに見られるような遅めの走りで、彼女の背を追いかけて行く。

 

 その背に、かつて元の世界で見た、仲間が可愛がっていた少女の姿を重ねながら。


 防衛組織の眼鏡要員と呼ばれていた、零隊員の娘のおもりを頼まれていた時も、こんな調子で追いかけっこをせがまれて、付き合っていたっけか。

 ――彼女の結婚式で、彼の青い眼鏡から一粒の輝きを落としていた事、式の終わりに誘われた飲み会での嗚咽を、彼は忘れる事はできなかった。


 ルキフェルは、小道の途中で、スーツの中から、ロケットペンダントを取り出す。

 ペンダントには、セピア色に映る、若かりし頃の彼ら――防衛組織実働部隊の姿がありありと映っていた。

 現役として活躍する者も居れば、家族の為にと安全な海外へと越した者、日本国内で手当てを受け取り名前を変えてレストランを開いたと聞く者も。


 娘思いの零隊員は現役、異星人及び怪異の調査を担当する部署へと移ったのだったか。

 30年前ハワイアンレストランを開いたという薩摩隊員に、一般隊員だったのが隊員の命、子供の命を巨獣から何度も救った功績で、隊長へと昇格した隼田。

 海外へ越したジャックに、実施試験中の月面偵察局の副局長となった南隊員、未だに前線に出続けている、獅子鳳隊員や三郎隊員、山戸隊員、五十嵐君――もう、君と呼べる年齢(とし)ではないと笑っていたが。

 


 彼らが一堂に揃い、各々がよくする癖と共に笑顔が映る写真は、今でも彼にとっては活力の種であり続けていた。


「おーい今行く。待ってくれ」


 そうだ、彼らの為にも帰らなければ。

 その前に、必要な情報を一刻も早く探ろう。

 ロケットペンダントを仕舞い直し、ヴィナスの背を再び追いかけていった。



 うろこ状の歩道を歩き、辿り着いたのは大衆酒場。

 強烈な酒の匂いと、むせ返るような熱気、駄洒落や愚痴、罵声に歓声飛び交う喧騒の場。

 出入り口から見える木製の床とテーブルには、何らかのシミや、ささくれた木の破片が見え、中には喧嘩の痕跡だろう深い亀裂が入ったものもあった。


 衛生とは程遠いだろう場所に、ルキフェルは苦々しげに訴えの言葉をひり出す。


「あー、もしここが一番だというのなら、二番目が気になるな。うん、二番目にお勧めの場所にしないか?」

「えー、ここ安いんだよ? それに一番、料理スキルが高いんだから」


 ルキフェルの訴えも虚しく、ヴィナスの安さと信頼感に消えてしまったらしい。

 

 料理スキル……安さに対して腕の良い料理人が居ると評判なのか、ならばコスパ的にもおすすめという訳だ。

 それに、大衆酒場なら情報収集もしやすいだろう。


 そうポジティブに考える事として、ルキフェルは壁際の席に座った。


「おい」

「あ、やばいって……」


 ヴィナスの声が響く。

 隣では、何やら柄の悪そうな大男が、ルキフェルを見下ろして睨んでいた。

 口に並んだいくつもの、動物の骨で出来たピアスに、タトゥーの入ったスキンヘッド。

 それらを備えた筋骨隆々の男は、何やら文句を言いたげにルキフェルに近付き、言う。


「どけひょろがり。そこは俺様ドンチャゴズ様の席だ」

「失礼。予約が入っていたのなら仕方ない。壁際ならどこでも良かったんだ」


 ルキフェルがそう言い、一礼するとドンチャゴズは小声で呟く。


「な、なんだ……結構聞き分けいいじゃあねぇか」


 ルキフェルが立って、左右を見渡していると、ヴィナスは耳元で囁いた。


「ドンチャゴズ……レベル32はあるちょっと有名なバーサーカーだよ? なのに、よくビビらずに居たね?」

「関係無い。あの男の席だったから譲った。それだけだ」


 出入り口から一番遠い席かつ、カウンターからも離れている隅の席を見つけたルキフェルは、埃を手で払って、座り込む。

 それを見て、隣にヴィナスが座ると続きを、手で口を隠すように、彼の耳に近付いて言う。

 ルキフェルの、堂々とした振る舞いに驚いているに違いなかった。


「えー……なんていうか、良い意味で聖職者らしくないってか……あ、おーいおねーさーん」

 

 いきなり声色を変えて、大声を上げるヴィナスに一瞬で目を丸くし、ルキフェルは髪の毛を逆立てた。

 そんな様子等お構いなしに、「こっちこっち!」 と元気にヴィナスが呼び続けると、頭にバンダナを巻いた店員が近づいてきた。

 店員が注文を取ると、ヴィナスはメニューにある絵を指さしていき、店員が頷くとすぐに奥のカウンターへと姿を消していく。


「何を頼んでくれた?」

「ハトのハーブ焼き、ライ麦パンとハムと麦酒」

「ライ麦パン……あの酸っぱい奴か」

「ここのは割と酸っぱくないから!」


 そんな会話を続けている時。


「おいどういう事だこれ!」


 つい先程聞いた、男の声が全ての喧しい声を裂く。

 一瞬で静寂に包まれ、思わずルキフェルとヴィナスが声のした方に目をやると、そこには、あのドンチャゴズの姿があった。

 ドンチャゴズは破れかけの張り紙を見ながら、唾を吐き、叫んで何かを訴えているようだった。


「“推定必要レベル85以上の怪物グリュマイドラが接近中につき、今日までに避難を奨励する”だァ?! ふざけんじゃあねぇぞ! 通りでいつもの酔っ払い共が見られないってこったな! ここいら全員髭だるまのビール親父しか居ねぇじゃあねぇか」

「おおお、落ち着けドンチャゴズ。国王陛下と兵士達が何とかしてくれるさ」


 赤鼻の小男が、チャゴズを宥めるように言う。

 その瞬間、巨大な手が小男の襟を掴む。


「ざけんじゃあねぇ! こんな事今までになかったろ! いいとこでレッサーキマイラがレベル45、30、42の連中が攻めて来たぐれぇだろ! なのになんだこのレベルはよ!」


 言い分はまるで、八つ当たりそのものだった。

 ルキフェルは即座に立ちあがり、小男を掴み続けるチャゴズの隣に立った、

 その後ろで着いてきて、「やばいよ」と小声で言い続けているのが、聞こえていないかのように。


「ここは酒場。皆の公用の場所だ、そうだろ? 君のそれは度が過ぎているぞ」

「なんだてめぇ、さっきのかよ! だったらてめぇこの国の最強がどんくらいが知ってるのか!? レベル50の国王、レオニウスだぞ! レベル80は……無いだろうが」

「ふむ……?」

「レベル50から60は黄金級、70から80は伝説級なのに……それ以上といったらもう神話だよ? キレるのも無理はないって……レオニウス陛下は70レベルの英雄の血を引いてるって聞いたけど……」

「そのレベルとやら、限度はあるのか?」

「馬鹿! EXPの許容量には人それぞれ限界があるの! しかも一般人は50、大きくて60が限界なの!」


 納得出来るような、出来ないような――釈然としないまま、ルキフェルは小首を傾げていると、チャゴズは小男から手を離す。


「けっ、おいひょろがり、気になったんなら、冒険者ギルドへ行きな。俺は行かねぇからな……わっざわざ死にに行くようなもんだわ」


 チャゴズはそう言って、紙をルキフェルの顔面に向かって投げつけると、ルキフェルはそれを見て、言う。


「行ってみるか――」


 と呟いた瞬間。


 視界の全てが、歪み、揺れ始める。


 テーブルは傾き、外からは凄まじい轟音が鳴り響く。

 出入り口の扉は、ルキフェルの目の前で破壊され、「なんだ?!」という声が聞こえて来た瞬間、肉の潰れるような音が響く。

 

 雷鳴と、獣の咆哮が入り混じったような音に、ルキフェルは店から飛び出し、音のした方向を見上げる。


 すると、そこには壁を破壊する、巨大な獣の姿があった。

 多数の蛇の首、それらを(たてがみ)のように伸ばす鷲の首。

 猛禽のそれを思わせる翼に、山羊の髭と角を生やした姿。


 グリフォンとヒュドラ、キマイラを掛け合わせたような姿だった。


 その巨獣を前に、巨大な槍を持ち、盾と共に躍りかかる、背中に傷の有る半裸に、マントを巻いた、逞しい髭を生やした男。


 ルキフェルが即座に、即席透視光線をかけてみると、怪物と、男のステータスが目の前に現れた。


【レオニウス レベル50 ジョブ 戦闘民族(ラケダイモン) 騎士王(ナイトオブオナ―) HP 600 MP0 総合攻撃力710 防御力 900 精神力6000 スキル ラケダイモンの流儀 円卓の約束 流星投擲槍 戦車走り テルモピュレオブファランクス


【グリュマイドラ レベル87 HP90000 MP80000 攻撃力 15000 防御力 10000 精神力 5000 スキル 再生 締め付け 薙ぎ払い 噛み砕き 保有魔術 灼熱の吐息 猛毒酸の吐息 灼熱爆風 暴風 雷撃風】


 レオニウスがグリュマイドラの首に、何度も槍を突き刺し、1ダメージを与え続けているが、その度に1回復しているのが見えた。


 重々し気な装備の者達が、屋根を上り、あるいは飛び越えてグリュマイドラへと武器や炎の玉を突き出し、発射していくがルキフェルが分析してみると、どれもヴィナスよりも遥かに高いレベルの持ち主たちだった。


 と同時に、彼女の言っていた事も事実だと解らされた。


 彼らのレベルは、総じて44以上、51未満の者ばかり。


 一斉に攻撃をしかけた側から、回復していく巨獣を前に、尚も彼らは諦めずに徹底抗戦しているのを見ていた時。

 襟元の、バッジが光り輝く。


 一方で、ルキフェルの手を引っ張る者の姿があった。


「何やってんの! 逃げようって!」


 ルキフェルは、手を払いのけ、元の世界のセオリー通りに言う。


「少し用を足してくる。助けられる人が居たら助けてやってくれ」


「は、はぁぁぁぁ!?」


 小道を走り抜け、建物の影に隠れて、周りに人が居ない事を確認したルキフェルは、バッジを掲げていく――――。    

 

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