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第1話 2023年の挑戦

 人造生物兵器  ルキフェルスレイヤー

 極悪異星人 バルフィラ

 英雄異星人 ルキフェル・ゼクス 登場


 暗闇の中、高速道路を走る二つの影。

 二つの影は、車が迫り来るのを認めて、コンクリを蹴り、ビル群の中へと飛び込んでいく。

 内一つの影は――赤い球体となって重力に身をゆだねるように、歩道を背にしていき、それを追って人型の影は、片手を伸ばし、手刀で宙を斬るような仕草をする。

 その瞬間、手から光輝く短剣状の光線が現れ、赤い球体を追跡していくが、球体の表面に着弾した所で火花を散らして弾かれていく。

 弾かれていった光線は、ビルの隙間へ行くと、目的を果たしたかのように無に帰って行った。

 セミと機械の電子音を混ぜ、トーンを下げたような声を出しながら、太陽系共通語で赤い球体の主は言う。


「ルキフェル・ゼクス。くどいぞ。君の本来所属していた組織、本部との繋がりを絶った今、君は君の好きな事をすれば良いではないか。何故そこまで私を付け狙う?」


 球体から人型へ戻ると、人混みを掻きわけながら超速で、彼は走る。

 人混みの中で、突き飛ばされた子供が道路に飛び出し、トラックが迫ってきているのを空中で見て、ルキフェル・ゼクスは人型以上の速度を出し、衝撃波を自らの超エネルギーで吸い込みながら、道路へ向かった。

 トラックが通りすぎていくのを確認し、彼はバス停に子供を座らせて、地球人の姿へと変わって微笑んだ。

 

「君、大丈夫かい」


 何が起こったのか、理解できないでいる様子の子供を前に、頭を撫でるルキフェル。

 周りを見渡し、自分の身に起きた事を察した子供は、徐々にその眼に涙を浮かべていく。

 いよいよ、我慢していたものが爆発したように、子供は大声で喚きだすのを見て、ルキフェルは左右を見渡す。


 子供の親は――――。


 念じて、人の目には見えない透視光線を出し、人混みの中から子供の親と思しき人物を見つけ出し、ルキフェルは透視光線の発射を止める。

 子供の前で、ルキフェルが着ている服の中から、萎んだ風船を取り出すと、目の前で膨らませて見せてから、おり、あるいは捻って行く。

 風船の形が、一定の物に似た形となると、笑って子供に差し出す。


「ほら、くまさんだぞ」

「ありがとう」


 そうしていたのも束の間、ルキフェルの背後から黒い服を着た女性が現れ、子供を抱きかかえていった。

 手を振って、親子が去っていくのを見届け、すぐさま反転し、ルキフェルは透視光線を目から放ちながら、姿の消えた方角へと顔を向ける。

 そこには、道路を挟んだ奥にある摩天楼群の中――――路地裏の一部を成している建物の壁に、四足で張り付きながら屋上へと向かおうとしている人外の姿があった。

 歩道を飛びこえ、道路を駆け抜けて路地裏へと潜り込んで、壁へ向いて、ルキフェルは元の姿を一瞬見せると、人外は鼻で笑うような仕草を見せながら、ビジネススーツを脱ぎ捨てる。


「ハッ、回ればなんとかなる、という訳だな? そうかそうか、余程私の計画の邪魔をするのがお好きらしいな……」

「バルフィラ、もう逃げ回るのは止せ、最後の警告だ。この星の異星人防衛組織は君を狙っている。君は辺境の星の人々に麻薬を売り、コレクターに中毒とした人々を高い値で売り渡すのが目的だろう」

「いつの時代も、珍しい生き物が好きな連中は多い……私はただ、そういうお客人の為にブローカーとなっているだけだ。何、ぞんざいにはしていないさ。映像だけじゃあ満足できない、知識だけでは物足りないという好事家は、都会に行けば行くほど居るしね」

「無免許で、しかもそういう場合は出身の星の属州に限るというのが星間での法だった筈だが……これがバレれば、君としてもまずいだろうに」


 バルフィラは壁に立ちながら、ルキフェルの顎を擦り、左右を見渡す。

 深呼吸したかに見えると、バルフィラはため息のような物を吐きながら、答えた。


「はぁ――この星は良いね、唯一暴力や言語が完全に統制されていない。未発達の文明の証拠に他ならない訳だが、私はこういう星に、憧れすら覚えるよ」

「どういう意味だバルフィラ。ああ、そうだとも。だからこそ私は、私の性格を以てこうして訴える事が出来るし、この星の人間はみな自衛が出来る……不完全な上位存在の抑圧に、怯える事無くな」

「だから、こういう事が起きる」


 バルフィラが指を鳴らした刹那。

 稲妻と、地響きが轟く。

 バルフィラの、カニのそれに似た口からは不敵な笑みが零れており、ルキフェルが音の方角を見てみると、そこには――巨大な、山のような獣が現れていた。

 ビルをゆうに超え、天を突くような巨躯の先端にあるのは、日本の甲冑を思わせる硬質な灰色の体。

 十字の太陽を思わせる結晶体が顔についていて、ほのかに結晶体を赤く輝かせる巨獣の姿が、ルキフェルの目に映った。


「この50数年の間、君の倒した巨獣と異星人1500体の内、苦戦、敗退した44体の巨獣異星人の死体とその戦いを学習した……いわば生物兵器を作らせてもらったよ。この星にならうなら――人造生物兵器堕天使殺しルキフェル・スレイヤーとでも言おうか」

「君からの、贈り物という訳だ」


 ルキフェルが見上げていた時。


 ルキフェルの胸を、一発の光線が貫いた。

 すぐに後ろを振り向くと、そこにはバルフィラの姿は無く、残されていたのはスーツのみ。


 しまった、すぐにバリアを張るべきだったか?

 パートナーと共に、行動するべきだったか?


 ルキフェルの脳内を、後悔の色が染め始める。

 

「君が追っていたのは、私の生体エネルギーだけ……ハリボテだよ。いや、アンチ・ルキフェルビームガンの性能が知れて良かったよ……せいぜい、独善に駆られて深追いしすぎた代償を、その後悔で以て払うが良い」

「バルフィラ……お、お前……」

 

 その場に力なく倒れ伏し、震えながら、六芒星型の胸元のバッジを握る。

 乱暴に、シャツの襟を破り、バッジを掲げていく――――。


 しかし、何も起こらない。

 ルキフェルがバッジを見てみると、バッジには穴が空いており、その断面からは火花が散っていた。


 舌打ちし、ルキフェルは歯を食いしばりつつ、壁に寄り添って、ポケットにあったスマホを手に取り、防衛組織に繋げる。

 

 長らく使ってきた、地球人としての名を名乗るのは、これが最期になるやもしれない。

 そう感じつつも。


「こちら……“キタホシ・コウジロウ”……バルフィラの捕縛及び、討伐に失敗……巨獣、ここより西の方角にて確認……これより、帰還――」

『キタホシ隊員、その声……大丈夫か?! 今すぐ応援を呼ぶ! それまで持ちこたえるんだ……巨獣なら今、空中部隊が確認済みだ!」


 ルキフェルは、仲間の声を聞きながら、その場に倒れ込み――その意識を暗闇へと閉ざしていった。

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