プロローグ 明けの明星が輝く時
――――サイレンの音。
耳をつんざく悲鳴と、全てが焼け落ちていく視界。
目の前を包むのが、いっその事真っ赤な炎と、それに従って崩れていく建物だけならば良かった。
父が言っていた、外からの敵なのだろうか。
母が言っていた、かの悲劇の再現?
青白い煙を、目の前の黒い山は吐き出して、全てを邪魔だと言わんばかりに蹴散らしていく。
僕は、ただ破れかけた防災頭巾を被りながら、弟を連れて、今まで世話になっていた筈の日常の後から逃げていった。
迫り来る山は、地響きを立てながら僕らの生存を許さないように追いかけてきていたと思う。
ガレキに躓いて、三歩分開いてしまった距離を戻して、僕は弟の手を取った。
上から迫り来る、影。
もう駄目だ。
視界が、暗闇に包まれた時。
明けの明星が、やって来た。
夜の闇を切り裂く、光がやって来たんだ。
――――196×年、巴谷新聞社に寄せられた目撃譚
【196×年7月某日 山の黒鯨現ル】
【196×年9月某日 印度の巨大蛾、黒鯨ヲ屠ル】
【196×年10月某日 巨獣事件ハ社会的混乱ノ原因ト見タリ。防衛省ハ秘密防衛組織ノ結成ヲ検討カ】
【196×年某月某日 秘密防衛組織、結成。以降巨獣ノ情報無シ】
【196×年某月某日 快挙! 超常的怪異、現ル。防衛組織、是等ヲ打倒セリ】
【196×年某月某日 防衛組織、無念ノ撤退。異星人ノ攻撃ニ止ム無ク】
【196×年某月某日 明ケノ明星ノ化身、確認セリ――“ルキフェル・ゼクス”ト呼称】
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【2023年 7月17日、さらば、ルキフェル・ゼクス】
手に取っていただき、ありがとうございます。