お祓い
俺はトラックドライバー、今心霊スポットとして名高い某山の旧道を走っている。
深夜に出る事で有名なこんな道を走りたくは無い、けど、朝一で糖久野県のお得意様に荷物を届けなくちゃならないからな。
高速は帰省する人たちの車で十数キロの渋滞、国道は旧道がある山の下を貫いているトンネル内で、トラックや乗用車十数台が絡む大きな事故が発生していてこちらも十数キロの渋滞が発生している。
トラックとトラックの間に挟まれた軽自動車が乗員共々ズタズタになっていたり、乗用車数台が炎上したりして重軽傷者だけで無く死亡者も出ているらしい。
「南無阿弥陀仏」
それでこの山に出るっていう幽霊は昔の陸軍兵士。
米軍の本土上陸に備えて松本大本営とかがが造られていた頃、この山でも要塞が建設されていたらしいのだが、落盤事故が発生し兵士が1人生き埋めになったにも拘わらず、要塞建設を優先して救出せず未殺しにしたんだって。
あー止め止め、気分を一新するためカーラジヲのスイッチを押す。
『……ガガ、ザザザアアー、ク、クルシイ、タスケテ』
え? ラジヲのスイッチを押したら雑音がして、人の助けを求める声がした。
『ジョウトウヘイドノ! タスケテクダサイ! クルシイー』
こ、これって、見殺しにされた兵士の声か?
俺は慌ててチューナーを回す。
でも無駄だった。
『タスケテ、タスケテ、クルシイ』
回しても回しても、聞こえて来るのは兵士の助けを求める声。
ラジヲを消そうとスイッチを押しても駄目。
声が聞こえなくなったのは旧道が国道に合流してから、でも、なんか身体が重い、憑かれてしまったのか?
だから帰社してから自宅のアパートの近くにある神社の神主さんに頼んで、お祓いをしてもらった。
お祓いをしてもらってから10日程過ぎ、お盆も終わり高速や国道の流れがスムーズになり、今夜も糖久野県のお得意様の下にトラックを走らせている。
でも今、トラックもお祓いして貰えば良かったのではと後悔している。
だって、国道のトンネルに入った途端、ラジヲから流れていた音楽が途切れ、あの兵士や兵士の霊に引き寄せられたらしい多数の死者の声がラジヲから流れて来ているんだ。
『クルシイ、クルシイ、タスケテ』
『アツイヨー!、ドアガアカナイアカナイ、タスケテー!』
『オレノクビハドコダ、ナイナイナイ』
『イタイー! カラダガツブレルー』
『ココカラダシテクレー!』