前世鏡で、転生したら絶世の美少女
魔術師サイラスと過ごす日々の終わりは、突然訪れた。
「ミラー……!! 逝かないでくれ、俺を置いていかないでくれ……!!」
行使された魔術の失敗。
最硬度の宝石を作り出す秘法に挑んでいたサイラスであったが、生成された得体の知れない物質は、術師であるサイラスのいうことをまったく聞かず。
生まれ落ちた桶の中から跳ねて飛び出し、薬品のビンや実験器具の並んだ机の上を縦横無尽に跳ね回り、そのたびにガチャンガチャンと破滅的な音を響かせ。
ズバン、と壁を突き破り穴を開け。
ガスン、と天井まで跳ね上がって素通しの天窓を作り。
……ヒューンと勢いをつけて落下してきて最後に壁掛けの鏡であった私の体に体当たりしてきて動きを止めた。
鏡としてはごく普通の強度しか持たなかった私は、もちろんその一撃に耐えられたはずもなく。
砕け散って、床に落ちた。
「逝かないでくれ……。この賢者の石で君に命を吹き込もうとしていたのに」
さめざめと泣くサイラスの姿を欠片となった自分に映しながら、(いい男が……台無しですよ?)と思ったところで、私は意識を失った。
* * *
鏡としての私に、いったいいつから意識が芽生えていたのか。
自分でもその日のことはもう思い出せないのに、小さなサイラスの存在に気づいた日のことはよく覚えている。その頃のサイラスは、壁掛けの私のすぐそばまで来ると身長が足りなくて映り込まないくらい、小さかった。
蒼氷色の髪に、同色の瞳。色味の薄い白い肌に、天使か人形かと言われるような端正な面差し。
当時すでに老齢であった魔術の師匠ダリルのもと、日夜修行に励んでいたサイラスは、めきめきと実力を伸ばしていた。
研究室の壁にかけられていた私は、その様子を微笑ましく見守っていた。
やがて、ダリルが亡くなった。
すっかり身長が伸びて、見た目は大人に近づきつつあったサイラスも、そのときはまだ十代はじめ。
葬儀を終えたあと、ろくに食べることもせず、ただたださめざめと泣き暮らしていた。お目付け役を失ったこともあり、生活リズムは大いに狂い、命すらも危うかった。
“あなたまで死んでしまいますよ! まずはごはんを食べましょう!”
私はサイラスを体に映し込みつつ念じ続けていた。
その思いの強さが、サイラスの底知れぬ魔術感知能力に引っかかったらしく。
「……いまのは、君か……? 俺のことを、心配してくれている?」
見る影もなくやつれた着の身着のまま、おぼつかない足取りで私の元まで歩み寄ってきたサイラスは、私の体(※鏡面)に指先で触れた。
“はい、私ですよ!!”
「ああ……。俺にはまだ、こんなにも心配してくれる君がいたんだな……」
サイラスは私のつるぴかで冷たい肌(※鏡面)にすがりながら、きらきらとした綺麗な涙を零してむせび泣いた。
傍から見るとその光景は、サイラスが鏡に映った自分自身に語りかけ、抱きつき、泣いているという、曰く言い難い場面であったのは間違いない。お師匠様を失った悲しみで、少し動転してしまったのでは――同居人なり、部屋まで上がり込んでくる親切な隣人がいたらそう考えたことであろう。
しかし、館の奥まった研究室まで他人が足を踏み入れることは、まずなかった。
よって、サイラスが自分の姿の映った鏡に話しかけたり、ときには笑いかけたりしている姿は誰にも目撃されることなくその後十年の長きに渡って続いたのである。
私は声を出すことはできなかったけれど、心はいつもサイラスと通じていると感じていた。
“サイラス、今日も素敵ですね”
「ああ、君はなんて可愛いんだ。君なしには立ち直れなかったし、この先君なしに生きていくなんて考えられない」
私が一言何か言えば、サイラスは挨拶代わりのように愛の言葉を雨あられと降らせてくる。
のみならず、ある晩、思い詰めたような表情をしたサイラスは「本当に、君がいてくれたから、今日まで俺は」と言いながら私に唇を寄せてきた。私達は、その日はじめての口づけを交わし、関係性をまた一歩進めたのだ。
傍から見るとその光景は、サイラスが鏡に映った自分自身を愛のことばでかき口説き、あろうことか自分自身に口づけを――(以下略)
研究室が煮えたぎるほどの高温に包まれる研究をしていたある日、サイラスは「暑くて服など着ていられない」と言いながらローブを脱ぎ捨て、その下に身に着けていた袖なしの下着まで両腕でまくりあげて脱ぎ捨てた。普段研究にばかりかまけているように見えていたサイラスだけど、重い実験器具を運んだりと肉体を酷使することもあるせいか、ほっそりとした体は意外なほど筋肉質に引き締まっていた。
その裸体を晒してから、ハッと気づいたように私を振り返り「ごめん……! 暑くて頭ぼーっとしていたから、こんな。すぐに服を着るから。うわ、俺何やって」と焦って足元に散らばった服をかき集めつつ私に視線を流してきた。羞恥と熱気のせいか、目元から頬、耳や首までもが朱に染まっていた。
傍から見るとその光景は、サイラスが鏡に映った自分自身の裸を発見し、顔を赤らめながらも横目でチラ見をしている――(以下略)
十年、本当にいろいろありました。
そうやって少しずつ関係性を深め続けた私たちの日々は、私が砕け散ったところで終わってしまった。
“さようならサイラス……。また会える日まで”
終わった、はずだったのに。
* * * * *
(とんでもないことを思い出してしまいました……!!)
ミラーさん改、現在の身分はこの国の第三王女、名前はレオノーラ。
前世自分が鏡だったのを思い出したのは十六歳の誕生日を迎えた朝。
(あれからどれくらい経ってるの? 少なくとも十六年は経過しているはず。というか、サイラスの住んでいた家ってどこ? そもそもあの場所がこの国かどうかもわからない……。私、壁掛けの鏡で、部屋から出たこともなかったですし……!)
それでも、彼の姿だけは全身余さず鏡に映し出して隅々まで見ていたので、よく覚えている。人間となったいま改めて思い出してみても、寒気がするほどの美青年だった。
「私、あの方の裸も見たし、口づけもしてしまったわ」
思わず口をついて出たかつての記憶。
向かい合って座っていた兄である第二王子のリンドが、飲みかけのお茶を吹き出しました。
げほ、がふ、ごほ、と気の毒なほどむせながら、その合間に「いま、なにを、なにを言ったんだ、可愛いレオノーラ?」と尋ねてきました。
「なんでもありません」
きっぱり答えた私に、リンド兄様は翠の瞳を細めて、「本当に?」と念押しのように重ねて聞いてきました。私は微笑んでみせてから、お茶のカップを手にして粛々と飲み干しました。
(言っても信じられないと思うのです。私の前世が「鏡」で同居の美形魔術師と浅からぬ関係だったけど、割れて生涯を終えただなんて)
思い出せば思い出すほど、師匠であるダリルに続いて心の拠り所である鏡まで失ったサイラスが、あの日以降どんな生活を送ったのか、気になって仕方ないです。しかし、これまでそちら方面に関心がなかったので、全く心当たりがありません。
カップをテーブルに戻して、私は兄に向き直りました。
「兄様、折り入ってお願いがあります。手がかりは名前しかないんですけど、ひとりの魔術師を探し出すことは可能でしょうか」
「うん、レオノーラ。その探したい相手が君に裸を見せて唇を奪ったということなら、兄さんも話したいことがたくさんあるから協力は惜しまないよ」
リンド兄様は鋭いのです。私の提案と数秒前の話を結びつけるなど、造作もないことのようです。
とはいっても「前世が」と言ってどこまで信じるかは微妙なところです。私は考えあぐねて、苦肉の策として情報を濁しつつ提示することにしました。
「夢の中でのことなんです……。すべてがおぼろげで……」
「魔術師なら、人の夢から夢を渡って狙い定めた美少女に裸を見せることもできるだろうさ。許せん」
「できるんですか」
「できるに決まっている。それで、その魔術師の名前は?」
顔は笑っているのに、目は笑っていないリンド兄様。この分ではサイラスを見つけてもどんな報復をされるかわかったものではありません。保険をかけて、私は違う名前を告げることにしました。
「ダリルです」
「なん……だと……?」
いきなりの好反応。手応えありです。私はテーブルの下で拳を握りしめつつ、さらに踏み込んで尋ねることにしました。
「ご存知ですか」
「ご存知も何も、かつて我が国最高の魔術師として名を馳せた人物と同名だ。昔はこの王宮で宮廷魔術師として国内の魔術師を束ねる立場にあったが、引退してずいぶんたつし、三十年くらい前に亡くなっているはず……。とても今を生きるお前の夢の中に出てくるとは。しかも裸で」
ちらっと視線を流されて、私は「裸は良いですから」とその視線をかわしつつ、前のめりになってさらに尋ねました。
「その方、引退後どこかに隠居しつつ最後に弟子をとっていませんでしたか」
「それなら……、しかし相手は『氷結のサイラス』だ……。慇懃無礼にして恋情を寄せてくる相手はことごとく無惨に振る孤高の魔術師。師匠であるダリルのことは絶対者として信奉しているとも聞くから、滅多なことを言ったら国を焼き払われるぞ」
懐かしの名前がリンド兄様の口から出てきたことで、私は熱くなった目頭を指でおさえました。サイラス、生きてる。
「国を焼き払うくらいお元気でいらっしゃるのですね、サイラスは」
「うん……うん?」
「それを聞いて安心しました」
「安心要素どこにあったかな?」
私はこうしてはいられないと、素早く立ち上がりました。
「そのサイラスさんにお会いしたいのです。いまどちらに?」
「サイラスなら、月に一度、三日間王宮に出仕して滞在している。ちょうど明日来るはずだから、面会の希望を出しておけば会えるかもしれないが……。ダリル導師の裸を見たとか口づけをしたなどと妄想を伝えるのは危険だ。国土が焦土になる」
「大丈夫です、そのようなことを申し上げたりしません。こうしてはいられません、今から手続きをしてきます。サイラスさんに会えるなんて、最高の誕生日プレゼントです……!」
「レオノーラ、しかし明日は」
リンド兄様が何かを言いかけていましたが、そのときの私の耳には届いていませんでした。またサイラスに会える! その一心で、私は事務手続きのため文官たちの詰め所へと、いそいそと向かったのです。
* * *
(私がほとんど間をおかず転生したとして、サイラスは今頃苦み走ったおじさまでしょうか……。若い頃の姿しか覚えていないのでドキドキします。今生での私は初恋もまだですが、前世の私は初恋も純愛もすべてサイラスに捧げていましたから……)
恋愛表現といえば口づけだけ。それだって、傍から見るとその光景は、サイラスが鏡に映った自分自身を愛のことばでかき口説き、あろうことか自分自身に口づけを――(以下略)
それ以上に進みようのない関係ながら、満たされていたのだ、あの頃の二人は。
もっとも、会えぬまま経過した時間の長さはいかんともしがたく、鏡であった自分は一国の王女となり、そろそろ婚約の話も出てくるはず。
(サイラスは……『氷結のサイラス』という異名で女性を寄せ付けないと、兄が言っていましたが。私の前で上半身裸をさらしただけで赤くなって慌てていたサイラス……あのあと、誰とも恋をせず?)
サイラスには幸せになっていて欲しかった反面、どこかほっとしている自分の気持ちも認めずにはいられない。醜いとは思うものの、そんな自分だからこそあのとき割れてしまって良かったとも思う。
意識が芽生えていたとはいえ、しょせんどう見ても自分は鏡でしかなく、実際に鏡だった。
もしあるとき突然サイラスが「鏡と気持ちが通じているだなんて、そんな馬鹿なことを」と我に返り、二人で過ごしたあの場に人間の女性を連れ込んで睦まじくすることなどがあったら……。その光景を自分に映し込みながら眺めることしかできないとあっては、あまりの嫉妬に心が砕けてしまったかもしれない(※全然別の理由で物理的に砕けました)。
気持ちの上では離れがたく結ばれていたとはいえ、強制的に別れることができて良かったのだ。
自分に言い聞かせるものの、いざサイラスに面会の約束を取り付けた当日、その時間が迫ってくると胸がドキドキと痛いほど鳴り、サイラスへの恋心はまったく風化していないことを思い知らされてしまう。
待ち合わせの場所は、前日兄とお茶会をしていた、王宮中庭の薔薇園。
お茶を飲みながら誕生日プレゼントに魔術の講義を少し、という申し出をサイラスは快諾してくれたとのこと。快諾って。それだけでもう惚れる。もともと好きなのに。
緊張と期待が高まりきった頃、刈り込まれた灌木の間の道を通って、紺色のローブ姿のサイラスの姿が見えた。
ローブのフードから、見覚えのある蒼氷色の髪が胸元へと流れている。背が高い。体の線は見えないが、機敏な動作から相も変わらずの引き締まった体つきが推し量れました。
「サイラスさまがお見えです」
そばに控えた侍女に告げられ、私は椅子を立ち、自分から進んで迎えに行く。
小径を抜けて歩み寄ってきたサイラスは、持ち上げた指で軽くフードを払い、私へと顔を向けてきました。
「お待たせしました、レオノーラ姫。サイラスです」
(ああ、この声。こういう声だったのね、サイラス。何度も聞いていたはずなのに、いま自分の耳で聞くと本当に良い声をしてらして……)
それだけではなく、白皙の美貌にも時間経過による大きな変化は見られない。弾けるような若さとまでは言わないまでも、滴るような瑞々しい空気感をまとっていた。
周囲の侍女たちが目を奪われているのが気配で伝わってくる。
「立派な大人になりましたね、サイラス……」
万感の思いを込めて私がそう言うと、サイラスはやわらかな微笑を広げて「ありがとうございます」と品よく答えた。
(いまのは第一声としてはおかしいですよね。でも、サイラスがあのまま俗世間とのつながりを断った偏屈ではなく、こうしてひとの間で生活している姿が嬉しくて)
またもや目頭が熱くなりかけたそのとき、いまひとりが小径走り抜けて近づいてくるのが見えました。
「レオノーラ姫! 会いたかったよ!!」
* * *
婚約も結婚も、王族として生まれたからには避けて通れない定め。
栗色の髪を爽やかに乱し、息を弾ませて現れたのは、隣国の第三王子ネイサン。甘く整った顔に愛想の良い笑みを浮かべて、不必要なほど親しげに話しかけてきます。
「誕生日に遅れてしまったけれど、今日の晩餐会ではよろしく。僕たちの仲の良さは両方の国も認めるところだし、そろそろ公認の関係となっても不思議はないよね。ふふっ」
王族用語で言うところの「いつまで婚約から逃げているんだ」です。私はこの王子が苦手で、いつも婚約の話が持ち上がるたびに「まだ早いです(絶対嫌です)」と言い続けてきたのです。
何しろネイサンは女性とあらば口説くのがマナーと思っているらしい方なのですが、社交辞令でとどまらなかった相手とは遠慮なく火遊びしているともっぱらの噂です。その上、私に関しては「顔と体が好み」と言ってはばからないそうです。なんでも男性たちの間には「抱きたい姫ランキング」があり、「絶対にレオノーラは自分のものにする」と吹聴しているのだとか。兄のリンド情報です。烈火の如く怒っていましたが、現状婚約には釣り合い的に申し分ない相手でもあり、どうしても候補から外れてくれません。
それだけでも鬱陶しいのに、まさかサイラスとの面会の場に現れるとは。
私は扇を開いて自分をゆるく扇ぎながら「何か御用ですか」と慇懃に尋ねました。
「御用も何も、君の顔を見に来たんだよ。一緒にお茶をしよう?」
「招いた覚えはありませんし、私はこれからこちらのサイラス導師と過ごすんです」
「僕がいたって構わないだろ。まさか逢瀬でもあるまいし」
すごく久しぶりのサイラスとの再会を邪魔しておいて、この言い草。
「姫、お邪魔であれば……」
状況が飲み込めていないなりに、サイラスが気を使って言ってくる。
(それはそうよね、顔見知り同士の若い王族が自分抜きに話を進めていれば、帰った方が良いかと勘違いしてしまう……)
どうにかしてサイラスを引き留めたいと思いつつ、私は何も言えずに心の中で念じました。
“ネイサン王子には迷惑しているんです。私が好きなのはサイラスだけなのに”
途端、サイラスがびくりと肩を震わせました。そのまま、すうっと視線をあたりの木立から空へと向けます。
(もしかして、魔術感知で私の念が伝っているの……?)
“ミラーさんです、ミラーさんここにいます!! 気づいて、サイラス、私がミラーさんですよ!!”
たとえ氷結の男と言われていても、昔なじみのお願いなら聞いてくれるかもしれない。だいそれたことではなく、この場に現れた邪魔な男を排除して、二人で少しの間過ごしたいという、それだけの願い。
高く遠くを見ていたサイラスの目がゆっくりと下りてきて、私の顔をじっと見つめてきました。
「レオノーラ姫……?」
サイラスのひどく固い声。私が答える前に「姫、僕を無視しないでよ」とネイサンが不躾に会話に割り込みつつ、二人の間に体をねじ込んできます。
サイラスが片手を上げて、ネイサンの額に人差し指を突き立てました。
その次の瞬間、ネイサンの体が吹き飛んで、離れた位置にある木に打ち付けられ、地面に落ちました。サイラスの目はそちらを見ることもなく、私を見ています。
「姫、いま何を考えていましたか?」
「ごめんなさい」
「なぜ謝ります。聞いたことに答えては頂けませんか?」
「ごめんなさい、とても言えない」
「どうしても……? 自白を強要する魔法くらいわけないんですよ、言ってください」
精巧な美貌にひんやりとした空気をまとわりつかせながら、サイラスは恐ろしいことを言ってきます。
私は浅い呼吸を繰り返しつつ息を整えて、意を決して告げました。
「裸を思い出しちゃって。あなたの」
「妄想ではなく、確実に『見た』様子ですが、どこで見たんですか?」
「あなたの家です」
「へぇ……どうやって入ったの? どこからどんな風に見たの? 怒らないから言ってごらん?」
怒らないというわりに、口調がすでに怒っています。
私は緊張で体をがちがちにしながら、なんとか言いました。
「鏡から……鏡で……あなたを私に映して見てました」
サイラスは骨ばった長い指で私の顎をつまみあげ、自分の方を向かせて視線を合わせて口を開きました。
「いま、すごく懐かしい声が聞こえた気がしたんです。ミラーさん、そこにいるんですか? どんな邪法でその体の中に俺の愛しいミラーさんを留めたんですか?」
「違っ……私がミラーさんなの。人間に生まれ変わったの……! 私はあのとき割れたあなたの鏡です!」
途端、サイラスの痛いほどに食い込んでいた指が外れて、顎が自由になりました。
サイラスはといえば、なにやらものすごく落ち込んだようにその場にしゃがみ込みました。「サイラス……?」と私が声をかけてしゃがもうとしたところで、立ち上がったネイサンが突進してきました。
「お前、ふざけ」
皆まで言うことができず。
一瞬サイラスが顔を向けただけで再び吹っ飛び、遠くの生け垣にお尻から突っ込んで「ぐふ」と声を上げて動きを止めていました。
サイラスは自分が一瞬前にしたことを忘れたかのようにすみやかに立ち上がると、私の手を取って目を見つめてきました。
「疑ってごめんなさい。生まれ変わってくれてありがとう。結婚しよう。今度は割らない」
「私、今は鏡の姿ではないですけど大丈夫ですか?」
確認した私をしげしげと見て、サイラスは「俺は鏡に映った自分の姿に惚れたわけではなく君の心が好きだったし、今の姿も好きだよ」とあの頃と同じような熱烈さで愛を囁いてから、頬に唇を寄せてきました。
レオノーラ「前世は鏡で、割れたときに意識を失って人間に生まれ変わったみたいなんですけど、鏡時代の恋人に再会したので結婚します! ちなみにこの人に割られました!」
サイラス「もう二度と割るものか。ミラーさんのいない人生がどれほど味気なかったことか……!」
レオノーラ「今生の私は人間なので、割れませんよ! ご心配なく!」
リンド「……父上に言う前にその結婚、考え直せって言いたいけど、どの時点まで考え直したら違う結論になるかわからない……。私がおかしいのか?」
追記。
◆感想欄で、「生まれ変わったミラーさんはかつての自分の死体(破片)を見ることになるんでしょうか?」という質問を頂いていました(※サイラスさん絶対捨ててないですよね、という視点がすごく鋭いです)。
サイラス「お墓を作った。『ミラーさんここに眠る』……いつ見ても泣けてくる」
レオノーラ「サイラス、お墓はゴミ捨て場じゃないですよ? なんでも埋めれば良いってものではないです!」
リンド「『お墓はゴミ捨て場じゃない』正しいことしか言っていないのにパワーワード感あるのは何故なんだ…….」
★お読み頂きありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧
ブクマや★、いいねを頂けると次の話も書こうって元気が湧いてきます!!
どうぞよろしくお願いします!!
★先月書いた短編、たくさん読んで頂きありがとうございました!
連載版:政略結婚で冷遇される予定の訳あり王妃ですが、「君を愛することはない」と言った堅物陛下の本音が一途すぎる溺愛ってどういうことですか!?
完結まで書いています!
読んで頂けると作者が泣いて喜びます!!
よろしくお願いします(๑•̀ㅂ•́)و✧
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※こういう場での宣伝文句、嫌味なくさわやかにどう言えば良いんだろうって今日一日長々と考え続けていたんですけど「せっかく書いたからもっと読んで欲しいんじゃ」以上の言葉が思い浮かびませんでした……作者の気持ちでした(๑•̀ㅂ•́)و✧