4:無条件の降伏
薄暗い部屋。目につくのは黒曜石の円卓。一塊の大きな黒曜石から切り出されたもののようで、一体いつ作られたものなのか、現代の家具には持ちえない異質な存在感を放っている。
円卓を囲うように、12の席が配置されていた。この時間、本来は十二使徒、暦史書管理機構の実権を担うその全員が座っているべき席だったが、今はニ名のみが離れて座っている。そしてそのうちの一名が、歳を経て重くなった腰を庇いながら、ゆっくりと席から立ち上がるところだった。
立ち上がったヨーロッパ人らしき老婆は、その閉じているようにも見える瞼を薄く開き、未だ座っているアジア人の男を一瞥する。男は年齢を感じさせない中性的な顔立ちであった。
男は老婆の目線にすぐに気がつき、笑みを作って軽く会釈する。その表情はどこか寂しげでもあった。その顔を見た老婆は鼻で小さくため息をつくと、薄暗い部屋の出口へと向かう。
老婆が部屋を出てしまって、しばらく有栖川ユキヒトは視線を円卓に向けて座っていたが、堪えきれなくなったように目を閉じて息を大きく吐く。
「こんなことに、もう意味はないのかもしれないな…」
少しの間、彼は目を閉じて座っていたが、諦めたように席を立つと、彼もまた部屋から去っていった。