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その4

282 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: iGevxsc90





283 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: DJFCcNqx0


希望が・・・!?




284 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


「近くのお寺で、このようなことに詳しい住職さんがいらっしゃるようです」


この言葉で、俺はうつむけた顔を上げた。

なんでも、神社に務めてる人の中にその住職さんの知り合いが居たらしく、こういうことに詳しいらしいからそちらに相談してみては、という話を得られたとのことだった。


「お困りだと思いますので、勝手かとは思いましたが、すでにその住職さんにはお話させていただきました。今からこちらにいらっしゃるそうです」


俺はその時、マジに飛び上がらんばかりに喜んだ。

本当にその時は絶望してたんだけど、一縷の希望がつながったと知って本当に嬉しかった。

勝手だなんてとんでもない、本当に心の底から神主さんに感謝した。

まじでグッジョブだと思った。

泣きそうなほど嬉しかったよ。




285 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: DJFCcNqx0


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!




286 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: Nd7A91n/O


ナイス!




287 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: w8Z4S0qM0


神主さんステキ!!!!

143◆wr4Yp5tLbkもその神社には足向けて寝れないねww




288 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: j6AkMbAv0


いや、最初からそっち紹介しろよ




289 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: A8B3Z0Db0


寺生まれのTさん「破ぁ!!」




290 ケツ毛トリートメント(・∀・) 2008/03/19(水) ID: iuhBODLT0


 彡⌒ミ

(´・ω・`)俺の毛根にも一縷の希望が……!?




291 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: w8Z4S0qM0


>>290

ケツ毛でも頭に移植してろハゲ




292 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


>>287

全てが終わったあとで両親が菓子折り持ってお礼に行ったよ。


>>288

神主さんも最初から住職さんのことを知ってたわけじゃないから。

途中で席を外した時に偶然知ったみたい。



親子三人神主さんにお礼を言って、休憩所で待たせてもらうことになった。

しばらく待っているとさっきの神主さんが一人のお坊さんを連れて俺の元へやってきた。

「こちらの方がさきほど話した、✕✕寺のご住職のユウウンさん(漢字忘れた)です」

神主さんが紹介してくれて、俺たち三人はご住職に挨拶した。

ご住職は恰幅の良い50~60代くらいの方だった。

顔つきは厳しい感じで俺は少し緊張したんだけど、実際話してみると腰の低い丁寧な話し方をする方だった。

「ある程度の事情は電話で伺わせていただきました」

とご住職は言った。

「もう少し詳しい事情をお聞かせいただいてもよろしいですか?」

と、ご住職が言うので、神主さんのご厚意で社務所の一室をお借りして、俺たち家族に起こったことを話すことになった。




295 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


ご住職は席につくとまず荷物の中からお線香と灰受けを取り出した。

「こちらのお線香の煙は、悪い気を遠ざける働きがありますので、お話頂く間つけさせていただきますね」

ご住職がそうおっしゃってお線香に火をつけると、お線香からゆっくりと煙が立ち上った。

ちょっと新鮮な植物っぽいというか、普通のよりも何か爽やかな感じの香りだったな。いい匂いだった。


ともかくもそれで話す準備が整って、俺たち家族三人は代わる代わる自分の体験談を話した。

ご住職はふむふむと相槌を打って俺たちの話を聞いていたんだが、特に俺の話に興味を持ったようだった(事のきっかけなのでそりゃそうだって感じだが)。

「学校の裏に祠ねぇ……」

はて? と言った様子で顎に手を添えてご住職は唸った。

「私もね、この地に生まれ育って長いですから、この町については大抵のことはわかりますが、そのような祠には心当たりがありませんね……」

それでも俺は見たのだ、古臭く、長い年月そこに建っているように思われた祠を。

そのことを訴える俺の言葉を、ご住職は真剣な顔で相槌を打ちながら聞いてくれた。

ご住職は言った。

「もしかしたら、〇〇君はその黒目の何かに”誘われて”しまったのかも知れないね」




296 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: w8Z4S0qM0


煙は魔を払うっていう民話は結構あるよね

たぬきに化かされた人が煙草の煙で追い払ったりとか




297 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: iGevxsc90


「ユウウン」ってどんな漢字だろう

遊雲?悠雲?

雲って漢字は入ってそう

お坊さんによくある名前だし




298 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


>>297

普通はそういう読み方しない漢字だったと思う。

ウンも雲じゃなかったな。

父親に聞けば分かるかな……?

ちょっと今は思い出せない。



それで、ご住職に「祠に行く直前に何か特別なことはあったかな?」と聞かれたんだが、その直前までかくれんぼをしていただけだし、特別なことは何も思い浮かばなかった。

ただその時になって、まったく根拠は無いんだが、なんとなく直感的に「これはもしかしてかくれんぼなのではないか?」と思い始めた。

あの黒目の奴がかくれんぼのオニとなって、俺のことを探しに来ているのではないか。

そんな考えがぼんやりと思い浮かび、思わず俺は背筋をブルリを震わせた。


その考えを伝えるのは、あまりにも荒唐無稽すぎて正直迷ったんだけど、結局は心に思い浮かんだままを素直にご住職に伝えることにした。

「かくれんぼねぇ……」

ウウムとご住職は唸った。論理の飛躍した小学生の戯言だったが、ご住職は真剣に受け止めてくれているようで、俺はとても嬉しかった


この人ならなんとかしてくれるかもしれない。

この後どういうことになるかわからないが、最後まで諦めず、闘い抜いてみよう。


そんな心強い気持ちになった。




300 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: DJFCcNqx0


いいご住職さんだ・・・




301 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


「断言はできませんが」と一言おいて、ご住職が言った。

「今までの話からするとやはり狙われているのは〇〇君のようです。実際、〇〇君からはあまり良くない気配を感じますので」

それを受けて母親がおそるおそるといった様子で問いかけた。

「それで……その化け物から〇〇を守るには、一体何をすれば良いのでしょうか……?」

「根本的に対応するなら、〇〇君の見た鏡とやらを調べて見る必要があるでしょう。そうして、その黒目の何かが〇〇君を付け狙う理由を探り、根本から対処するのが正攻法です」

しかし、とご住職は腕を組んだ。

「とはいえ、そう悠長にしてられる事態でも無いようです。その黒目の何かは神域にも関わらずここにも入ってこれたということになりますから、かなりの力を持っていると考えます。この神社から出た途端〇〇君を襲ってくるということも考えられる」

そんな……それでは俺はここから一生出られないということだろうか?

「もちろんそんなことはありません」

ご住職は力強く断言してくれた。

「申し上げた通り、根本的な対応をするには時間がありません。ここは一つ対処療法といきましょう」

父親が対処療法? と聞き返すと、ご住職はゆったりと頷いた。


「身代わりの人形を作って、それを〇〇君と誤解させるのです」


ご住職曰く、化け物の類は目で見るというよりも、匂いや気配とかで相手のことを察知するそうで。

なので、俺の気配をまとうように作った人形を作り、身代わりとして差し出すことで、化け物を鎮めることができる、とのことだった。


ようは身代わり人形を生贄として差し出すという話だった。




302 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: iGevxsc90


黒目の奴を騙すってことか




303 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: w8Z4S0qM0


いわゆるヒトガタってやつかな?

ブードゥー人形とかも呪いのためだけじゃなくて、厄災の身代わりになってくれたりするんだよね




304 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: j6AkMbAv0


ファンタジーな話だな

そんなうまくいくのか・・・?




306 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


>>303

人形って書いちゃったけど、そのヒトガタで発音合ってる。


>>304

言いたいことは分かる。

正直それを聞いたときは俺も半信半疑で不安になった。

両親もちょっと微妙な顔してたな。


それでもご住職は真剣な顔でそうおっしゃるし、他にどうしていいかも分からないし、とりあえずご住職に全てを任せることにした。

「それでは、私共のお寺に場所を移しましょう。いろいろと準備が要ります」

とおっしゃるので、俺たちは神社をあとにすることにした。


神社を出る前に、ご住職から何かいい匂いのする袋(正体不明)を渡された。

曰く、「悪いものの目と鼻をくらませるため」とのこと。

ついでにお線香の煙も全身に浴びるように言われた。


それのおかげがあったのか、車で移動するときもアイツは襲ってこなかった。


ご住職の車を追うようにして車を走らせていると、ほどなくご住職のお寺に着いた。

お寺に着いたのはだいたい昼頃だったんだけど、ここで住職は「神社での祈祷の疲れもあるだろうから、しばらくはゆっくり過ごしてくれ」と俺達に言った。

なんでも、化け物が活発になるのは夕方~夜にかけてなので、その時間になってから行動に移すとのこと。

俺はすぐになんとかしてくれるのかと期待していたので、ちょっとはしごを外された気分になった。

ともかくも、俺たち家族三人はお寺の中でしばし待つことになった。




308 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


夕方、日も沈みかけてあたりが暗くなってきた頃になって、ようやく住職から俺たちに声がかかった。

まず体を清めてくれとのことで、浴場で体を洗わされた。

それが終わると、今度は作務衣(修行してる坊さんたちが着てるアレね)が用意されてたので、それに着替えた。

子ども用のものは無かったので、お寺にある中で一番小さい作務衣の袖や裾を折って着ることになった。

かなりぶかぶかだったな。


その後は本堂に通された。

本堂は横長に広々としていて、真ん中に金色に輝く祭壇が設けられていた。

灯りはぼんぼりとロウソクのみ、ぼんぼりも電気じゃなくてロウソクが中に入ってたみたいだった。

ロウソクの火で照らされたお堂は、全体が水の中みたいにゆらゆらとほの暗く揺らめいて、ちょっと怖い気持ちになったな。


そこでまず一番最初にやったのは「俺の髪の毛を刈る」ことだった。

身代わり人形を作る際に「呪術的な意味で」俺を模して作る必要があるとのことで、髪の毛はその媒体になるらしい。

白い布を俺の目の前に敷き、「それじゃあ〇〇君、頭を下げてもらえるかな」と言ってご住職がバリカンにスイッチを入れた。

用意のいいことで……。




309 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: Nd7A91n/O


もともと143が坊主だったらどうしたんだろ・・・?




310 ケツ毛トリートメント(・∀・) 2008/03/19(水) ID: iuhBODLT0


>>309

ケツ毛でいいのでは?(・∀・)




311 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: w8Z4S0qM0


>>310

よくねーよハゲ

てめーのケツ毛引きちぎるぞ




312 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: DJFCcNqx0


>>310

化け物ブチ切れそうwww




313 ケツ毛トリートメント(・∀・) 2008/03/19(水) ID: iuhBODLT0


>>311

それもまたよし……(*´Д`)ハァハァ




314 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


>>310

小学生だったのでケツ毛は生えてないw


頭を丸めると目の前に大量の髪の山ができた。

ご住職はそのうちから一房分取ると、白い紐でぐるぐると巻き上げ、髪の束を作った。

すると手元からなにやら板切れのようなものを取り出した。

「これが〇〇君の身代わりになるヒトガタになります」

それは頭にあたる部分が丸くなってて、肩から足の方に向けて次第に細くなる形をしていた。

男性用トイレのマークって言えば分かるかな?

あれがもっと細長くなった形。


そのヒトガタになる板に続いて、今度はすずりを俺の目の前に取り出した。

「〇〇君、今度は君の血と唾液をここに貰えるかな」

そんなことを言い出すので、俺はちょっと面食らった。

それも髪の毛と同じで、俺を模すための媒体になるとかで、俺とヒトガタに「縁」を繋ぐために必要らしい。

あまり理屈はよく分かってないが、ご住職はそんな感じのことを言っていた。


俺はもらったカミソリで指の先をちょっと切って、血を一、二滴すずりへと垂らして、唾液もそこに落とした。

するとご住職はそのすずりで墨をすり始めた(子供心にちょっと汚いなと思った)。

俺の血と唾液を混ぜた墨を作ると、その墨でヒトガタに俺の名前を書いた。

さらにその周りに梵字みたいな文字で、びっちりと何かを書き込んでた

それが終わると、白い布で髪束ごとヒトガタをぐるぐると巻いていった。


「これで出来上がりです。これを〇〇君の身代わりに差し出すことになります」


ご住職はそう言いながら、そのヒトガタを漆塗りの台へと置いた。


こんなもので上手くいくのかなと、不安な気持ちがほろほろと胸の内に溢れた。

でも今はご住職の言葉だけが頼りだったし、他に方法があるわけでもなかった。

なんとか不安の胸の内だけにとどめながら、ご住職のやることを見守った。




319 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


ご住職はその台を本堂のすぐ外へと置くと戸を閉めた。

「これで準備は整いました」

ご住職は俺の目の前に座りながらそう言った。

「あとは〇〇君を狙っているものをおびき出し、あのヒトガタを身代わりに持って帰ってもらいます。そうなれば〇〇君本人をつけねらうことはなくなるでしょう」

「おびきだす……ですか?」

と父親が聞くと、ご住職は「はい」と頷いた。

「今のままではその化け物がここまでやってくるかどうかわかりませんから、こちらからおびき出します」

「それは具体的にどうするのでしょう?」

「あまり難しいことはありません。〇〇君にはここでお経を唱えてもらいます。私が一緒に唱えるから、〇〇君は発音とかは気にせず、とにかく大きな声で元気よく読み上げて欲しい。すると化け物は〇〇君の声と気配を嗅ぎつけてここまでやってくるでしょう」

と言って、ご住職が懐から小さくて薄い本を取り出した。

渡されたそれには経文がびっしりと記されていて、ご丁寧にルビまで振られていた。

「こちらの経文は『魔を祓う』ための言葉が載っています。ですから化け物が寄ってくると言っても、それで〇〇君に危害が加わる心配はありません」

「ですが……それだと化け物も寄ってこなくなるのでは?」

父親がもっともな疑問をぶつけると、ご住職は「いいえ、逆です」と首を振った。

「神社でのご祈祷の際、化け物が嫌がらせをしに来たと聞き及びました。あれは〇〇君の御魂が清められる気配を察知した化け物が、なんとかお祓いをやめさせて、〇〇君を神社から引き離そうともがいた結果なのです」

つまりご住職の見解だと、神社のお祓いには一応の効果があって、それを阻止しに化け物がやってきたのだ、ということだった。

「ですが、神社は聖域ですから、化け物も直接は手出しが出来なかった。結果的に、神社でのご祈祷は化け物を寄せ付けもしたが、〇〇君に直接の手出しもさせなかったと、こういうことになるわけです」

あの神社での祈祷は、図らずも化け物のマッチポンプのような構図になっていたわけだ。ご住職は続けた。

「今からやろうとしていることも、それと同じです。〇〇君のお経で化け物を引き寄せつつ、魔を祓うお経で〇〇君を守る。守りつつ引き寄せることをやろうというわけです」




320 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: iGevxsc90


つまり、143自身を餌に化け物をおびき寄せて、ヒトガタで騙すと

そんな感じか




322 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


>>320

そんな感じ。言ってみれば釣りだな。

俺自身が撒き餌になって、ヒトガタというルアーを喰わせる感じ。



さて、これからやることも理解して、いよいよアイツをおびき出すことになった。

正直言って恐怖心はずっとあったが、ここまで来たからにはやるしかないと腹をくくった。

絶対にやりきってみせる。あとは野となれ山となれ、という気持ちだった。


「長い闘いになるかも知れないから足は適当に崩して良い。最後まで頑張りましょう」

そう言って、ご住職は祭壇の前に座り木魚を叩き始めた。そして読経が始まった。



俺はなるべく声を張ってお経を読んだのだが、読み続けているうちに喉がガラガラになった。

ずっと声を張り上げるのも重労働なもので、汗は噴いてくるし、肺のあたりは疲れてくるし、かなり辛い時間だったよ。

ご住職の低く唸るような読経と、自分の甲高い声が頭の中で混ざり合って、頭がくらくらした。

頭がぼーっとして、現実なのか夢なのかも定かにならない。

本当に無心という感じでお経を読み続けた。


読経を始めて一時間くらいが経った頃だろうか。

不意に、お堂の外に気配を感じた。




323 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


最初はほんの微かなものだったが、次第にその気配はだんだんと存在感を増していった。

やがて本堂の中にラップ音がピシピシと鳴り始めて、外からもドタドタという音が響き始めた。

微かに生臭い空気も漂い始めた。


「来たな」と思った。


これまでだったらその時点でビビリまくってたかもしれない。

でも今回は違った。

読経で無心になったのが良かったのか、ご住職の存在が心の支えになったのか。

「負けてやらない。負けてやるもんか!」という強い意志が自分の中に湧き上がってくるのを感じていた。

化け物め、くるなら来てみろ!

そんな強い気持ちで迎え撃つことができた。


俺は一段と大きな声でお経を読み始めた。

ちょっと興奮しすぎて、読経じゃなくただ喚き散らしてるだけのようになってしまったが、お堂の外の存在には効果てきめんらしかった。

とたんに外の騒音が激しくなった。

ドンドンドン! と何かを叩くような音が連続して鳴り響き、それとともに生臭さが一段と増した。

負けるか! 負けるか!

そんな気迫でお経を読んでいた、その時だった。



ンェェェエエエエエエエエ……!



不意に外から叫び声が聞こえた。




325 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


上手くいえないんだが、赤ん坊とヤギを混ぜたような、高いのか低いのかも定かじゃない、今までに聞いたことが無い不気味な声。

あの黒目の奴の、初めて聞く声。

想像の中の奴がニタリと嗤って、その真っ黒い洞穴のような喉の奥から……。



ンェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!



再度、一際大きい悲鳴がお堂の中に響いてきた。

流石に背筋が震えてしまって、読経を一瞬途切れさせてしまった。

その瞬間、


「続けてっ!!」


ご住職が怖気づいた俺に一喝してきた。



そうだ、アイツに負けちゃ駄目だ、ここで飲まれちゃ駄目だ。

あんな奴に負けちゃいけないんだ!!



気を取り直した俺は、もはや応援団かと思うような絶叫で読経を再開した。

アイツが来てもこのお経で追い返してやる!!

それくらいの気持ちが詰まっていた。

俺は無心でお経を唱え続けた。


それからも、お堂のあちこちからドタドタやバンバンなどの音がなり響いた。

火が灯っていたロウソクのうちのいくつかが消え、生臭い空気がねっとりと鼻についた。

あの不気味な声も合間合間に聞こえてくる。


俺と奴との闘いはそれからも小一時間は続いた。




326 本当にあった怖い名無し 2008/03/19(水) ID: DJFCcNqx0


壮絶だ・・・





327 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


そうやって闘いを続けていたのだが、ふとした瞬間、もう喉が限界だったんだろうな、俺は咳き込んでしまった。


ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ!!


時間にして4~5秒程度の一瞬の出来事だったんだが、その瞬間だった。


俺と両親の座ってる後ろの戸、つまり本堂の正面口が、バンッ!! と叩かれた。


俺はビクッと身体が跳ねて、またもや読経を途切れさせてしまった。

そのほんの一瞬の短い静寂の間に、俺は奴がこう呟くのを確かに聞いた。



ミ  ツ  ケ  タ




328 143◆wr4Yp5tLbk 2008/03/19(水) ID: z5QDCdkZ0


その言葉と同時に、


バギャアッ!!


と何かが壊される音が聞こえた。


「〇〇君!!」


ご住職の一喝で、慌てて読経を再開した。

喉もガラガラになり、幾分声も震えてしまったが、もはや意地で声を張り上げた。

どこかへと追いやったはずの恐怖心が再び自分の胸に舞い戻ってきたのを感じた。


すぐ後ろに奴がいるかもしれない。


すぐ後ろから俺のことを見ているかもしれない。


そう思うと怖くて仕方なかった。

こんなことがいつまで続くんだ、みたいな雑念も湧きあがってきて、目尻に涙も浮かんできた。



それでも必死になって読経を続けた。

化け物去れ、化け物去れ、化け物去れ、と心の中で念じながら。



…………



どれくらい時間が経ったか、頭も朦朧とする頃になって、ふとある変化に気づいた。


外の騒音が止み、生臭さも消えてきている……。

外に何者かがいる気配もなくなった気がする……。


いつのまにか、外は静かになっていた。


住職の登場により、化け物との壮絶な闘いが繰り広げられた。

果たして、143◆wr4Yp5tLbkは助かったのか、それとも――。

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