第六十五話 木霊達の力
2月も終わり3月に入ると
西の方から桜の開花宣言の便りが聞こえてくるが、
残念な事に、群◯県に植林した桜達に花芽が未だに見えなかった。
「遅いですね。」
「場所的に寒いですからひょっとするとGW辺りかと思います。」
木々に異常がないか慎重に調べていたが、
空っ風の冷たい風が、芽吹きを遅らせている様でした。
「招待客と一緒に花見を楽しめたらよかったのですがね」
残念そうに話す流人、4月中旬のオープン祭に満開の桜を期待していたが
今のままでは無理そうであった。
「木々の体質を改良すれば可能ですが、今年は間に合いそうにございません。」
「改良とかは好きじゃないです、一応桜爺の分家なのですからね(怒)」
「失礼いたしました。」
植物の管理に強い僕達と相談しながら様子を見ている流人
そこに小さな声が聞こえる!
「僕達に力があればね・・・。」
「もう少し成長出来ていればね・・・。」
「!!」
「桜の声?」
「声ですか? 我々には聞こえませんでしたが?」
「桜の木に力を与えるって出来るんですか?」
「力でございますか・・・難しいですね。」
「もう少し力があれば、なんとかなりそうですが?」
「木々が細過ぎる為に、強力な成長剤は樹が耐えられないので使えません。」
「なるほど、もう少し大きければって事だったんだね、」
「僕達の言葉が聞こえている?」
「人間に聞こえている?」
「流人だよ、 代理様だよ、聞こえるはずだよ!」
「聞こえているなら聞いて欲しい。」
「代理様なら手伝って欲しいい。」
「私だったら・・・手伝えるのですか?」
「手伝える・・・木霊達にお願いして欲しい」
「木霊達に?」
「木霊達は僕らを強くする事ができる」
「木霊達は僕らを大きくする事ができる」
「私が木霊達に願えばいいのですね?」
「そうすれば強くなれる!」
「大きく成れば、咲く事ができる!」
「なるほど、承知しました。」
承知したと言っても手段がわからず、桜爺の原木へ相談に行った!
勿論お酒と肴を持参してね。
「桜爺〜! いますかぁ?」
桜爺もまだ開花はしていないが大きくなった蕾が沢山枝に付いていた。
「流人! 久いのぉ〜! 花見の時期には未だ早いと思うたが?」
「うん下旬だからもう暫く時があるよ桜爺。」
「そうか、人と我等では時の流れが違うからのぉ(笑)」
「今日は相談があって来たんだ」
「儂に相談とな?」
「じつはね・・・。」
桜爺から頂いた枝を移植した木々が木霊の力を借りたいとの申し出が、
どうすればいいのか分からないので相談に来た事を話す。
「(笑)その様な事、誠に簡単ではないか。」
「そうなの?」
「周囲の山々や木々に向かって説き伏せればよい、
代理として命じればよいぞ!」
「命令は・・・好きじゃない。」
「それなら、土産でも持って行けばよい、今日の様にな(笑)」
「向こうの土地神様もお酒好きかな?」
「酒が嫌いな神はおらん、特に木霊は酒と食い物が大好物じゃ(笑)」
「ありがとう桜爺」
「ただし、公に行うなよ! 人々が驚くからのぉ」
「分かってます、浄化後の時にでも始めましょう」
「その時なら問題はなかろう」
酒を酌み交わしながら桜爺と一時を過ごした。
害獣や不審者の侵入を防ぐ為に、所有地である山々を全て囲んでいる。
塀は無粋なので支柱を打ち込み結界を張っていた。
流人は、侵入を拒む魔法陣の上で時を待つ・・・
丑三つ時から目覚め始める午前3時過ぎ!
流人は魔法陣の上に酒と肴と菓子を大量に持ち込み又時を待つ、
すると・・・!
「いい匂いだのぉ」
「酒の匂いがするのぉ〜」
「人の忘れ物かのぉ〜」
「来た様ですね」
「!!」
「私は流人、代理を努めているモノなり」
「人間!」
「人間が説いてきた!」
「代理と説いてきた!」
「流人だぁ! 間違いない代理様の流人だぁ〜」
「願いあって此処へ参ったのだが聞いてくれぬか?」
「流人だぁ〜」
「代理様が願うと言うぞ!」
「我等に何ようか?」
「命ずるのは好ましくないのでな、願うのだ!
この一帯に植えた木々に力を与えてくれぬかのぉ?」
「木々に力を?」
「我等に致せと命じずに願うのか?」
「願う代わりに、供物を持参した、受け取ってくれぬか?」
「いいのか! 命じずに願うのか?」
「供物が頂けるのか?」
「このいい匂いの供物を我等が頂いていいのか?」
「願いを受けてくれるなら構わない。」
「流人は変な人間だ!」
「そうだ変だなぁ 人間は威張る生き物なのに我等に願うと言う」
「そうだ命じれば済む事を供物まで用意して願うとは」
「これからも宜しく願いたいからね?」
「我等は受け入れる!」
「我等も示せねばならぬのぉ」
「「「代理様のお気持ち、確かに受け取りました。」」」
そう最後の言葉が聞こえた途端、供物が消えて周囲が地揺れを起こす!
「大丈夫でしょうかね?」
地揺れが収まると植林した大地が狐火の様に淡く光り出す!
「大地の地脈を練り上げて、大地に木々に分け与えよう。」
「木々が肥えれば、我等も安泰、強い森は我等を守る。」
木霊達の声が聞こえる。
淡い光が周囲を惑わすが、木々が太く大きくなっているのが伝わって来る!
「流人の思いを叶えよう」
「流人の願いに応えよう」
「命じず願う流人の気持ちに我等は報いよう!」
時を忘れ日の出の時刻が迫っていた頃には、
淡い光も消えて薄靄と寒さが未だ3月だと肌に伝えて来る中
流人の見ている景色は、流人と同じ胴回りの桜の木々が、沢山花芽を付けていた!
「流人の願いは叶ったか?」
「流人の求めに合っておるか?」
「ありがとう、出来ましたら花は4月頃に願いたいのですが?」
「承知した、毎年4月に咲きはじめよう」
「毎年この時期に供物を捧げますので宜しくお願いいたします。」
「流人の思い、我ら受け入れよう。」
「柵を作っておいてよかったですね。」
「御意、不審者の警戒を怠らぬ様に命じておきます。」
「お願いね。」
汚れ無き美しい景色がそこにあった。
木霊と書き込んでいる筈なのに、言霊と勝手に変換されてします。
誰かの悪戯でしょうか?




