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第五十四話 真夜中に少女が覗き?

 クリスマスが終わり、年末までの忙しさが一休みしていた夜中、

誰かが助けを呼ぶ声とは違う少し変な感覚を覚えた流人、

その感覚の方角へ向かうと大きな公園に着いた。


「どうしたのだ?」「公園らしいの?」「SOSかの?」

 「少し違う感覚なのですがね。」


 周囲を見渡すと、とても一人で入り込む場所ではなかった!


一定の距離を保ち、ベンチや木陰でカップルが・・・。


「流人!」「変質者だぞ!このままでは?」「通報されるぞ!」

 「そうですね、帰りますか・・・!」


 流人達以外にも一人で公園に来ている人がいた!

 「あの人の様ですね!」

「性欲の信号だったのか?」「宜しくないのぉ」「!よく見ろ!女子じゃぞ?」


 16歳の少女が隠れて覗きをしていた!

 「若いのに、面白い趣味をしていますね?」

「あの少女!」「◯◯プロの子じゃな!」「この間の綾と言う子の後輩じゃな」

 「何かありそうですね?」


 流人は気配を消して少女に近づく、

少女はカップルを見ながら「あぁ〜見えない」っ呟いていた。


 「何が見えないのでしょうか?」

「キャ!」

 「お静かに・・・。」

「すみません。」

 「綾ちゃんとこの後輩だよね?」

「綾? あっ!はい、そうです。」

 「流人って言います、こんばんは(笑)」

「流人さん、はじめまして。」

 「若いのにマニアックな御趣味をなされているのですね(笑)」

「マニアックな趣味? 違います!」

 「? 覗きしてましたよね?」

「・・・してましたけど違います。」


 この子、今年グランプリを受賞して、

女優として仕事が来年早々から入っているそうです。

 「仕事の為? 覗きが?」

「・・・違います。」

 

 ドラマの役で、キスシーンの撮影があるが、

未経験でどうしたらいいのか分からなかったので、

覗きをして参考にしたいと思っていた様ですが、

 「参考になったの?」

「それが・・・暗くてよく分からない。」

 「(笑) 凄いね、熱心なんだね(笑)」

「なにがおかしいんですか?」

 「だって、初めてが撮影って、普通はそっちを気にするよね?」

「確かに・・・でもお仕事だから、これからだって・・・。」

 「なるほどね、 その覚悟があるんだったら付き合うよ。」

「え!」

 「相手役の代わりに練習台になるよ」

「いいんですか?」

 「いいんですよ(笑)」

「それじゃぁ、お願いします。」


 少女が目を閉じて構えるので、軽く口づけをする。

 「こんな感じだけど?」

「・・・なんか変な感じです。」

 「おかしかったかな?」

「頭の中で勝手に膨らんでいた何かが一気に消えた感じ、

握手と変わらない気がする。」

 「握手かぁ、 まぁ肌と肌が付いただけだからね?」

「そうなんです、なんだぁそうなんだ考え過ぎていた私。」

 

 選ばれた才能の持ち主ってこんな感覚なのかと流人は感心に思っていたが、

伝わって来たイメージは少々違うシーンの様だった。

 「ごめん、少し聞きたいんだけど?」

「はい、なんでしょうか?」

 「彼氏がキスして来るんだよね?」

「!!  違います!私からするんです。」

 やっぱり伝わって来たイメージは、階段で彼女が彼氏にする感じだった!

 「それじゃ! 練習になっていないよね?」

「確かに、 私からしないと・・・お願いできますか?」

 「それは構わないけど?」

「・・・どうすればいいの?」

 「だよね(笑)」

 

 少し考えてから流人が手を差し出す!

「え!?」

 「握手! さっきキスと一緒って言ってたでしょう?」

「握手?」


 握手をする行為も、キスをする行為も同じ、

手を握るタイミングが、キスをするタイミングと流人が説明した。


 「リード出来る分、自分のタイミングで行えるから、慣れかな?」

「慣れですか?」

 「握手も色々な仕方があるでしょう? 両手で掴んだり、

 強めに握ったり、揺すったりリードする側の個性が出るよね。」

「個性ですか?」

 

 リードの仕方が多々あるのだから、

そこで表現をするのが演者の醍醐味だと思うと説明している流人。

 

 「どの様な役か分からないけど、男の子に迫るんだから、

 多少は強引でもいいんじゃないかな?」

「強引ですか?」

 「そう。」っと言って、流人が少女の手をいきなり掴んで握手する。

 「こんな感じかな?」

「あぁ、なるほどそう言うことですね。」

 「待つよりアプローチ出来る方が、

 自分のタイミングで行えるから楽だと思うよ」

「そうですね。」

 そう言いながら、少女は流人の手を握って来た。

「こんな感じでしょうか?」

 「会話の流れからいい感じだと思うけど、あくまで(ぼく)は素人だからね」

「はい。」

 何かを掴んだのか、少女の顔が生々として来る。

「あのぉ〜・・・」

 「なんでしょう?」

「届かない時はどうしたらいいのでしょう?」

 

 流人の身長に150cm台の女の子では少々無理な高さが残っていた!

 「相手の俳優さんって大きいのかな?」

「流人さん程は無いと思います。」

 「そうすると、階段の段差を使うとか? 椅子に座らせるとか?」

「なるほど」と言いつつ少女が流人をベンチに座らせようとする。


 「介護じゃないんだからね(笑)」

「でも・・・流人さんも手伝って下さいよぉ」

 

 流人が代わりに少女の腰を両腕でぐぃっと引き寄せ、

そのままベンチに腰掛けさせる。

「え! どうやったんですか?」

 「重心を考えるんだよ。」

「重心ですか?」

 腰の位置をずらすだけでバランスが崩れやすくなるから、

倒れない様に優しくサポートを入れながらベンチへ誘導する。


「なるほどぉ、勉強になります。」


 一瞬、少女になにを教えているんだろうと流人は悟りそうになるが、

こんな、たわいのない素人のアドバイスを、

真剣に受け止めている少女の姿が眩しく思えた。

 

 既に、周りにはカップルなどいなくなっている時間だが、

明け方まで流人と少女は公園で練習を重ねていた。



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