第二百二十九話 ロストテクノロジー
過去に存在したが、
現代では、素材が枯渇していたり、
技術を継承した者がいなかったりして、
造る事の叶わぬ物が存在する。
この国で例えるなら、
大戦中に建造した巨大戦艦の砲塔だったり、
古来の刀剣だったりする・・・が、
いま、
職人組の若者達が真剣な眼差しで脳裏に技を焼き付けていた!
「こんな感じで、木目を揃えるです♪
そして、小槌で軽く叩いて凹ませて嵌め込み、水分を与えてあげると・・・
「「「おぉ〜!」」」
桜花の仕事を隈無く記憶しようと必死な若者達が、
指物師としての才能を持つ桜花の仕事を注視していた。
昔は職人の技量で役割が決めれら、
各々が団結して一つの物を組み上げる文化があったそうで、
職人組でもそれを採用したいと思っていたが、
素質のある若者ばかりを引き抜いて来た為、全員のレベルが高かった。
職人組では一つのルールが決められていた、
それは流人の存在を公言してはならないと言う物で、
職人全てが流人を名前で呼ぶ事も控えていた。
「ぼん! 欄間の彫りは如何いたしましょうか?」
「普通は、どの様な物を掘ったりするのでしょうかね?」
「そうですねぇ・・・風景や神話、童謡ですかね」
「風景・・・京の四季なんて表現出来ませんかね?」
「四季でございますか、それでしたら・・・」
数枚に分けて表現するのではなく、廊下に使われる予定の
一番長い欄間に京都の四季を彫る事となった。
他にも、玄武、青龍、白虎、朱雀の四神など
職人組の技を全て出し切る勢いで派手にならず、
木目と光の当たり具合での表現を大事にして下準備を進めていた。
「桜花、 大河の様子は?」
「師匠は、まだ考えております。」
大河が居た時代は既に幕府が国を納めていた為、
使用する玉鋼などの素材は統一されて、
古刀の様に素材の個性刀に表現する事は叶わなかった。
然し、流人の力で、望みの玉鋼が手に入ると、
己の技量とセンス、そして用途によって打ち方も考慮していた。
「まだ早かったかね?」
「! これは流・・・ぼん、 なにかご用でしょうか?」
「地鎮祭で一振り欲しいっと思ったのですが、時期早々でしたか?」
「そうじゃねぇ〜んです・・・」
自分が今まで打って来た刀は反りの少ない直刀と言われる部類に当たり
地鎮祭で使う刀とは類が違っていた。
「形はこだわりません、力さえ発揮出来ればね♪♪」
「それなんですよ・・・」
流人に呼び出された大河達は、流人の力をある程度知っている、
知っているからこそ、求められている力に耐える刀を難儀していた。
人を斬る為の刀を打って来た興里にとって、
流人が求めているのは太平を願う刀、切れ味を追求するのではない・・・。
「大河、考え過ぎておりませんかね?」
「考え過ぎにございますか?」
「人を斬る道具として追求するのも、太平を願う道具を追求するのも
結局は同じですよ♪」
「同じに・・・ございますか?」
「守られてこその太平です、では何から守るか?
それは、人であり、自然であり、邪気から守る、斬り払う事に、
興里の刀と違いはありますか?」
「・・・」
人殺しを望んでいたわけでは決して無い、
購入者を守る、家族を守る為の、鈍ら刀では守れぬ故、
斬れ味を追求した興里は、流人の言葉に感化して、
見えぬモノも斬れる刀を打つ決意をする。
「ぼん、 願いがあります。」
「なんでしょうか?」
「刀に想いを込めて打ちたくぞんじます。」
「・・・妖刀って事?」
「おらに妖刀は打てませんが、邪気を払う気持ちを込めて打ってみたい。」
「いいんじゃないでしょうかね?」
「ありがとうございます。」
埋立地に出来た鍛冶場で、大河と桜花が刀を打つ、
気が散らぬ様、遠巻きから勉強する若者達に良い影響を与えていた。
「流人様!」
「なんだ♪ 黒天かぁ〜」
「なんだとは酷い言いようにございますなぁ」
「だってみんな私の事をぼんって呼んでるし・・・」
大河や桜花は、流人の事を主人と呼びたかったが、
他の若い職人達への影響を考えたら他の呼び名が適当となり、
若様や坊っちゃまなど、敬意を込めた呼び名が上げられたが、
全てしっくり来ず、最終的に「ぼん」に落ち着いたのだった。
「宜しいではございませんか(笑) ぼんぼんのぼんで(笑)」
「洒落ていると思ったのですがね、実際呼ばれると照れますよ!」
「最近、マスコミでも流人様の存在に気付く者が出て来ております、
秘匿の為にもぼんで我慢してくださいませ。」
「わかってます。」
建築用の資材が整い、設計も流人が書いた原案に沿う形で決まり、
地鎮祭を行えば一気に改築出来る準備は整いだしていた。
「あの場所って、 穴掘ったりしたら遺跡が出て来ませんかね?」
「心配ないでしょう、遺跡級の建物が建っているのですから」
「・・・なるほど」
「大河の一振りが出来たら地鎮祭を申請いたしましょう。」
「承知いたしました。」
テレビで見た刀匠達は、身体を清め、食を絶ったり、寝ずに打ち続けたり、
一振り打つのに一週間とか?・・・よくお腹減らないよね(笑)
大河も一心に打ち続けていたけど、直ぐに完成していた!
「もぅ〜う出来ちゃったんですか?」
「?
集中しませんと、槌が狂いますし、長時間の集中は人には無理ですから(笑)」
少し厚めで歪みがあるが、これから研いだり、鞘を拵えたりするので
更に一週間程掛ると知らされ現代の刀匠と違うのだなぁと思っていた流人に、
遠くから見聞していた若者達の声が聞こえて来た!
「どうやったら、あれほど正確に打ち込めるんだ!?」
「それより、あの集中力は! 鬼神の如き凄みだったな」
「火花の色が一瞬で変わっていったもんな、
どれだけ、正確に強く打ち込んでいるんだ?」
「刀が好きで、刀匠を目指したけど、あの人達は別格だろう?」
「そうだな、呼吸が、まさしく阿吽の呼吸だったし・・・」
「その相槌が、どうして最後まで続くんだよ?」
「夫婦だからじゃないのか?」
「そんなわけないだろう!」
「抑々、女人禁制だろ?・・・」
様々な意見が、言葉が入って来た事で安堵した流人、
あの2人、そして現代の刀匠達との違いがある事に・・・。
手続きが順調に進んでいたが、地鎮祭当日に問題が発生した!
当然と言えば当然なのが、陛下と殿下、皇后様まで出席している。
その為に大勢の宮内関係者や政府関係者達が揃い、
とても流人で出て行ける感じではなかった。
「如何いたしましょうか?」
「私が代わりに・・・少々問題がございますな・・・、」
「衣装を変え面を被りますので、繋ぎをお願いいたします。」
「「御意」」
「一体どうやって運んだんだ?」
「たった数日で解体を終えるなんて・・・」
古く、耐震には適していないが、素材としては十分使える木材や、
歴史と趣を感じる建物の一部をそのまま別の場所まで移動させ、
数日で何もない空き地となっていた。
宮司や神主を呼ばずに地鎮祭を行う事も異例で、
宮内庁や政府関係者達の不満が満ちていた中、地鎮祭が行われた。
建設予定地の中央に素焼きの杯が置かれ、
代表して陛下に杯に酒を注いでいただく・・・零れるほどなみなみと注ぐ!
そして紅丸の機転で鬼門の牛虎の方角に霧を起たせる!
「おぉ〜!」
「な!なんだ!」
白式尉の翁面を被った流人が現れて、ひとつ舞を披露する。
「泰平の世、安楽求め棟を築く・・・
土地神の加護があらん、庇護があらん・・・
悪しき邪を、穢れを祓いたもう・・・えぃ!」
基礎工事の地盤に真剣を刃元まで突き刺す!
「2005年皐月・・・願いたもう!」
突き刺した刀から波紋の様に波が広がると、
普段、自然や神々などに興味のない政府関係者達でも、
空気が浄化した感じを受ける事が出来るほど周囲が清められていた。
「なんだったのだ?」
「どこへ行った?」
「・・・人だったのか?」
「・・・」
「「「(笑)」」」
皇族の優しい笑い声が静まり返った空気の中を広がっていた。
地鎮祭が終わり翌日から一気に建設が進む!
檜には見えない程真っ白な木材を、次々と運び込んでは組み立てて行く、
一切、鉄釘は使わず、つなぎと組み込みを使って1日で外観を完成する。
純白と言っても疑わない程、真っ白な平家の建物、
屋根は特殊セラミックを使用して重さと強度を改善し、
釘や溶接を一切しない建築で全方向からの揺れにも強い建物とした。
内装には、京都特有の冬は寒く、夏は蒸し暑い環境を改善する為
空気の流れる隙間を床や壁、天井にも細工して、
夏は冷たい風が、冬には暖かい風が霊石を使って可能にしているが内緒だった。
「あとは内装です。」
「細かい作業がございますので、3ヶ月程時間をいただきます。」
「噂には聞いておりましたが、ここまで早いとは・・・」
「これだけの作業をたった1日で済ましてしまうのに、
内装には3ヶ月も費やすのですか、楽しみですね(笑)」
「翁さんにも感謝をお伝えください。」
「「ありがとうございます。」」




