第二百十一話 ストレスも使い様です。
放送局の買収問題で、中々手札が揃わない御隠居様、
忙しいと言うのに流人から願い事を持ち込まれ少々難儀していた。
「埋立地を丸ごとねぇ・・・」
「仲介、お願い出来ませんかね?」
都が行っている湾岸の埋め立て工事、
ゴミ処理の一貫だったが、長年の工事でかなりの面積が埋め立てられ
その土地の使用方法で今月末に会議が行われる、
流人達はその時に、プロジェクトRに借地、もしくは売却して欲しいと
都議会へ仲介を頼みに来ていた。
「出来ましたら購入したいのですが、如何でしょうかね?」
「(笑) とうとう買う土地が都内でなくなったのかい?(笑)」
「色々分散させるより、一つに纏まっていた方が都合がいいので、
お願いいたします・・・」
流人が御隠居様に頭を下げる。
「私もね、暇だったら協力してあげたいんだけどね・・・」
買収防止に苦戦している状況下、他に視野を向ける事が出来なかった御隠居様
流人の頼みだから、なんとかしてあげたい気持ちはあるのだが、
流人の願いも簡単な要件ではなかった為、苦慮していた。
「取り敢えず御隠居様、仲介料の前金を・・・」
「仲介料? そんな物・・・!」
中には3枚の小切手が! 大手メガバンクの小切手が1枚づつ入って
総額3,000億円の額面になっていた!
「流人!?」
「それだけあれば、買収の防衛も叶いましょう?」
「あんた・・・知ってたのかい?」
「ハイエナの為に、御隠居様の蓄えを使う物ではございませんのでね♪」
「流人・・・」
放送局を買収しようって相手、特に勢いのある新進企業のバブルドア、
時価総額1兆円を目指すと言うだけに資金も中々持っている上、
海外の金融機関、特にアジア系の金融機関から巨額の融資も受けていて
御隠居様達は資金面で苦慮していた。
「色々と売り出されると私共も、全ては買う事が困難なので、
出来ましたら纏めていただけたら幸いです♪」
御隠居様が保有する資産の一部を売り出せば、
直ぐにこの程度の資金は入手出来るが、流人達がそれを良しとは思わなかった。
「流石プロジェクトRだけど、一体どれだけの埋立地が欲しいのさ?」
「それは御隠居様にお任せいたします(笑)」
「任せるって・・・流人!」
「(笑)」
今月に埋立地の用途についての会議があるのは事実だが、
流人達は別に急いでいなかった、次回の埋立地でも構わなかったのだが、
御隠居様の苦戦に、手を出すなと言われている以上表立っての援護が出来ず、
程の良い当て馬であった事に御隠居が理解した。
「流石にこの額をお渡しするので、
そこらの猫の額では調査も不思議に思いましょう♪」
「・・・広さはいいんだね?」
「はい♪」
「このお金もいいんだね?」
「勿論、一部にございますから、必要でしたら何度でもご用意いたしますよ(笑)」
「呆れるね、この子は・・・」
ため息を一つ、深く吐いた御隠居様、
使用人を呼び、直ぐに行動に移った!
「誰かいるかい!」
「は!」
「これを銀行に持って行って現物を融資してもらってきな!」
「御意」
流人から受け取った小切手を渡し防衛資金にあてる様に命じた!
「それから、今から都庁へ行くから準備しな!」
「御大自らにございますか?」
「今の時間なら全員揃っているだろう、今日中に片付けるよ!」
「御意!」
「吉報 楽しみにお待ちしております♪♪」
渡邉の運転で都内に戻る流人達、相変わらず車内でゲームをしている流人を見て
陣内が渡邉と談議していた。
「先輩、 一体どっちが流人君なんでしょうかね?」
「あぁ? あぁ〜」
御隠居様の会っていた時の流人と、今、ゲームに夢中になっている流人、
とても同一人物には思えない陣内、それを理解した渡邉が悟った様に陣内に説く。
「深く考えるな! どっちも流人だ!」
「そうですけど・・・」
「いいんじゃねぇか、遊ぶ時は遊び、働く時は働く、そうだろ?」
「そうなんですけどね・・・。」
二人の会話を聞き流しながらゲームを続けていた流人が、急に渡邉に聞く!
「そうだ! 邉さん、今夜の夜食なにがいいでしょうかね?」
「夜食?」
「今夜何かあるのですか流人君?」
「あれ? 御隠居様の言葉、聞いてましたよね?」
同席はしていなかったが、縁側で話は聞いていたと思っていた流人、
実際二人は話を聞いていたのだが、流人の言っている意味が分からなかった。
「今日中に決めるそうですよ♪」
「あぁ〜、って本気にしているのか?」
「流人君、流石に埋立地の売却なんて1日じゃ決まらないんだよ(笑)」
御隠居が今日中に片付けると言った発言を鵜呑みにしている流人、
流石に方便と思っている渡邉と陣内だった。
「二人とも、甘いですね(笑)」
「いや流人、本気で言っているのか? 無理だぞ!」
「そうですよ流人君!」
「じゃぁ夜食の代金・・・いきましょうか♪」
「おぉ! 公務員に賭け事か?」
「先輩♪」
「流人、勝機は逃さないんだよ♪ 乗った!」
「先輩!」
「それじゃぁ、お肉買って焼肉しましょう♪」
「おぉ♪」
お肉と野菜を購入して本社に戻った流人達、
「先輩大丈夫ですよね?」
「心配いらねぇよ(笑)」
「負けたら二人で折半ですからね(笑)」
10万円分の夜食代金を賭けたのだが、
本社に戻ると様子が違う事に二人が気づく!
「なんか、慌ただしくねぇ〜か?」
「そうですね、如何したんでしょうか?」
「紅丸達が留守なんでしょう♪」
「どこか行ったのか?」
「(笑)」
夕食を控え、菓子と飲み物で我慢していた流人達、
20時過ぎに、紅丸と黒天が戻って来たので報告を受ける為会議室へ
「如何でしたか?」
「はい・・・流石御隠居様にございます。」
「想定以上の成果にございました。」
1,230万tのゴミで埋められた立地の中に、
110ヘクタール(1,100,000㎡ )の広さを
約5,000億円で利用権を売却する事が、都議会で決定する事に決まった。
「利用権?」
「はい、土地の売買は出来ませんが、
永久に利用する権利を買う事にいたしました。」
「お得なんだよね?」
「当然にございます、 100年使えば年50億の利用料にございます。」
「それ以上でございましたら・・・」
「分かりました(汗) それで建築基準は?」
「一応ございますが、問題がございません。」
「全部、造れるんだね?♪♪」
「「御意」」
「嘘だろう・・・」
「本当に今日中に決めましたよ先輩!」
「・・・」
流人達の会話を聞いて、権利の購入額や何に使うのかより、
これだけの大計画を1日で決まってしまい、頭が真っ白になっていた。
「邉さん♪」
「・・・分かっているよ! 月末まで待ってくれ!」
金欠で代金が払えないと渡辺が逆ギレを起こしていた!
「邉さん、ストレスの恐ろしさ、理解しましたか(笑)」
「ストレス?」
「如何言う事?流人君?」
年末から不快な思いを続けている御隠居様、
そのストレスは蓄積され続けて膨大な量になっているところへ、
流人からの資金援助と仲介と言うストレス発散の場所を与えられ、
見事発散出来た様子だと流人が二人に説明した。
「御隠居のストレス発散させる為に買ったのか?」
「逆ですよ、御隠居様の豪腕がなければこの話、
通るはずがないでしょう(笑)」
「それを利用したのか?!」
「凄い・・・」
「(笑)」
普通に考えれば、新しく整備された立地を民間企業に渡すことは無い!
公共事業などで、再開発を行うのに必要な無垢の土地なのだから、
それを今回御隠居様の剛腕で勝ち取ったのだから、
流人達の利益も美味しい物になっていた。
五人で購入した場所へ向かう、
道も港も何も無い場所に船を寄せて上陸する流人達、
「臭いはそれほど気になりませんね♪」
「冬にございますから」
「夏までには対策を整えたいと思っております。」
上陸して、バーベキューの支度を始める。
「流人! ここで食うのか?」
「流石に怒られますよ流人君」
「大丈夫でしょう、風が少し強いけど、燃えるものが何もないから♪」
「そうだけど・・・」
「大丈夫でしょうかね先輩?」
「邉さん達の奢りですからいただきましょう♪」
「おぉ〜渡邉殿が?」
「珍しい事もございますな♪」
「分かりゃぁしねぇだろ? 陣内食うぞ!」
「・・・はい」
「くそぉ、自腹かぁ〜・・・」
「先輩、僕も半分払いますからね」
「そうだった!」
真冬の埋立地でのバーベキュー、寒いが楽しい夜にございました。




