第二百十話 雪国の少女
炬燵で蜜柑を食べていたいと思う様な外の寒さ、
寒さが続き部屋で引き籠る日々が続いている流人は、
毎日ゲームばかりしている。
「そんなに楽しいのか流人?」
「毎日毎日、よく飽きずに続けておるのぉ」
「懐かしいのであろう?」
三賢者も呆れるほど、モンスターを倒し、
素材を採取したりするゲームにハマっていた流人。
「凄いなぁっと思ってね♪」
この世界に魔物やモンスターは存在しないと思うが、
人々の想像が生み出したゲーム内のモンスターは、
何処となく過去の異世界に居た魔獣に似ていて、
素材採取に明け暮れていた昔をを思い出していた。
「あれ? 蜜柑が無くなりましたね?」
「時期的にも終わりであろう、」
「春に向けて木々も目覚める時期だぞ、流人よ!」
「そうだぞ!
流人もそろそろ穴蔵から出て外の風にでも当たるが良いぞ!」
「外は寒いでしょう穴蔵が一番です。♪」
そんな戯れあいをしていた流人、
久しぶりにSOSの痛みが伝わって来た!
「SOSか?」
「どこの誰かのぉ?」
「行けば分かるじゃろうて♪」
三賢者も慣れた様子、そして流人は直ぐに転移して声の主へ向かった!
「何処ですか?」
「・・・国内じゃな」
「秋◯じゃな」
「東北じゃ! 流人都内より北東へ来た様じゃな」
重い雲に覆われ、雪は降っていないが周囲には高く積もった雪が残っている。
駅前の商業ビルと大きなバスとタクシーのロータリーが特徴的な場所、
綺麗に雪掻きが行われて歩きやすい道があるのだが人影が全くない!
「流人! 転移場所を少しは注意いたせ!」
「そうじゃ! この様な広い場所に転移したら誰かに見られてしまうぞ!」
「バレて騒ぎになっては困ろう・・・」
「誰もいませんね?」
「田舎だからな・・・」
「駅前だぞ! 普通はおるであろう?」
「天気もすぐれぬからのぉ、寒いしのぉ・・・。」
付与がある為、服は暖かいが露出している顔に、冷たく痛い風が当たる!
「どこだ? SOSの場所を探せ流人!」
「急いだ方が良いであろう?」
「凍死かもしっれぬぞ!」
「そんな感じではなかったのですがね・・・」
駅に隣接している商業施設の中へ入ると気配を感じるが、
建物の中には普通に人混みがあったので安心した。
「建物内だしな、営業中じゃ当然であろう。」
「それよりも、どこであろうな?」
「感じから女子じゃな♪」
エスカレーターで数回上の階へ上がり、
人気の少ない方へ歩むとトイレがあって、
そこからSOSを発した少女の気配を感じた流人!
なにも考えずに女子トイレに入ろうとするルートを止めて、
結界を張り、人の目を紛らわす様に三賢者が説く、
迷彩と認識阻害を発動させ中へ入ると、
7〜8人の女子が、一人の少女を囲んでいた!
「なんだぁ! おめぇ〜!」
「ここぁ女子トイレだぞ!痴漢が!」
今時の茶髪の若い女子が凄み、流人を恫喝していたが、
流人は無表情で構わず凄む女子の顔面を裏拳で払い飛ばした!
「流人! 相手は女子だぞ!」
「そうじゃ! 手加減をいたせ! 手加減を!」
「なにをそんなに・・・」
三賢者が流人の振る舞いに苦言を申していたが、流人の視線から・・・
真ん中で蹲っている少女の目元から・・・
大量の血が流れていた!
「な! なんと!」
「流人! それでも落ち着け、大丈夫じゃ、必ず助ける。」
「そうだ、落ち着くのじゃ!」
流人の視線が少女を囲んでいた女子達に向くと、
手にナイフを持った女性や、警棒を持った者達が見えた!
「てめぇ〜!」
「なにもんだ!」
「殺されてぇのか! ぎゃ!」
無言で囲んでいた女子達を殴り飛ばして行く流人!
殴られ倒れ込んだ女子達に容赦なく腹を蹴り上げ悶絶させていた!
あっという間にトイレ内が血だらけになって行くが、
構わず流人の攻撃は女子達に加えられていた。
「たすけて・・・」
「はぁ? ナイフで刺して・・・調子ぶっこいてんじゃないよ(怒)」
「ちがう・・・刺すつもりはなかった・・・ぎゃ!」
顔面を思いっきり蹴られ、女子の鼻から血が吹き出す!
怯え、慈悲を願う様に、女子達が流人に懇願する!
「本当に違う・・・髪を切ろうとして・・・この子が動いたから・・ぎゃ!」
「人形だと思ったの? この子は人間だよ(怒)」
「たすけて・・・ぎゃ!」
鮮血のトイレの床に醜く震えるいる女子達を無視して、
流人が、怯えながら傷を抑えて蹲っている少女に歩み寄る。
「君、希ちゃんだよね?」
「・・・はい。」
「もう大丈夫だよ♪」
流人が少女に優しく笑顔を向けると、
安心したのか大粒の涙を流し泣き出す少女だった。
流人が少女を抱き抱え、トイレから出て行き、
人に見られない様に非常階段へ向い建物の外へ出る。
「なんじゃ! 流人の知り合いだったのか?」
「それで、あの怒りか!」
「しかし、儂らは記憶にないがなぁ、誰じゃな?」
「この子はモデルさんですよ・・・。」
「モデルのぉ・・・」
「若い様じゃが・・・」
「そんな子が如何して?」
「分かりませんが、兎に角、病院へ連れて行きましょう。」
流人が三賢者との言葉に反応した少女が頑なに拒む!
「駄目! 病院は駄目!」
止まる気配のない目元の傷から血が流れている
それでも病院を拒む少女に流人は不思議に思うが強制はしなかった。
「病院に行って傷口を縫わないと、その流血は止まりませんよ?」
「それでも。病院は駄目! 親に・・・心配かけたくない。」
「そう言われてもね・・・。」
制服にも大量の血が、どう見ても親に内緒にはできない状態だった。
「この前、心配かけたばかりだもん・・・
折角、東京に行っていいって許してもらえたのに・・・」
「そう言う事ですか、それなら協力するしかないですね♪」
「え!」
「希ちゃんには早く東京に出て来て欲しいですからね♪」
「タオルとお湯と冷水が必要なんですが? どこかで入手出来ますかね?」
「家だったら・・・」
「親にバレちゃうでしょう?」
「働いているし、お婆ちゃんは今日はパートだから・・・」
「それじゃぁ、希ちゃんの実家にお伺いしましょうかね♪」
少女は頷き自宅へ案内する、
田舎の古民家と言う感じの一軒家で2階に少女の部屋があるので急いで向かう
台所の湯沸かし器で洗面器にお湯を調達して、
保冷剤を冷凍庫から拝借して部屋に戻る。
「かなり沁みますよ!」
「痛い!」
「ですから病院に行きませんか?」
「やだ! 病院は行かない! 我慢出来るもん!」
「結構な、頑固者ですねあなたは(笑)」
「・・・」
健気に意地を張っている少女を見て、少しだけ愛おしく思った流人、
「それじゃぁ〜・・・ 私が治療しますが如何します?」
「お医者さんなの?」
「違いますよ! だから困っているんです。」
「・・・?」
「無免許ですからね、警察に言わないでくださいよ(笑)」
「(笑) はい♪」
まずお湯で、顔に付いた血を洗い流す、
沁みるはずなのに、我慢して顔を洗う少女が健気に見えた。
その後、暖かいタオルで一度目元の傷を拭う、
そして直ぐに保冷剤で冷やしたタオルで傷口を押さえる。
冷やして血流を弱めてますので我慢してくださいね?」
「はい・・・」
タオルが体温で暖まるので一度外し、
保冷剤をタオルに包んで再び押さえる。
「思った以上に傷が深いですね、 縫うのが一番なのですが・・・」
「(怒)」
何故か怒れている気がした流人、仕方ないですね。
タオルを退けて、目元の傷口に流人が口を当てる!
そして、何か小声で唱えていたが少女には聞き取れなかった。
「付き合いが浅いので、やはり傷が残ってしまいましたね?」
ぬるま湯でタオルを絞り、少女の顔を拭いたが、シワの様な傷が残っていた。
「鏡、ありますかね?」
「!」
直ぐに鏡を取り出す少女、それでも直ぐには確認する勇気が出て来なかった。
「目の充血は数日で無くなるでしょう、でも、傷跡は・・・」
勇気を出して確認する少から安堵の雰囲気が漂う!
「これ位なら・・・」
「そうですね♪
なんでしたら私のサロンに通っていただければ完全に消す事も出来ますよ♪」
目元の傷を確認して、安心したのか再び涙を流し、流人に感謝を告げる
「助けていただきありがとうございました。」
「強いんですね、希ちゃんは♪」
「雪国の人間は、我慢強く、少々の事は気にしませんから♪♪」
事情は聞けそうもないが、少女の気丈な態度に安心した流人だった。
「それより、どうして私の名前を知っているのですか?」
会った事もない流人に、ここまで親切にしていただいた事よりも、
抑々なぜ自分の名前を知っているのか? 不思議でしかなかった。
「あぁ、希ちゃん、芸能事務所から誘い来ているでしょう?」
「はい・・・でもまだ秘密だって、
色々問題があるから解決するまで秘密にしてくださいって言われました。」
「そうなんだ、 でも、木村さんの後輩になる子だからね(笑)」
「木村さん・・・あ! はい。」
「多分また会えると思うよ♪」
そう告げて流人は少女の家を出て行った!




