第百六十九話 前兆
8月にある企業が上場して話題になっていたのだが、
その企業の株を保有していたプロジェクトRは、代表として紅丸が、
上場企業へ出向き協議を行い帰国していた。
「会見は無かったのですね?」
「はい、
少々曲者の匂いがいたしましたので、手の内を隠し帰って参りました。」
本当はこの企業株を流人達は20%以上保有しているが、
巧妙に振り分け1%以上の保有と隠蔽していた。
「それで、相手側の反応は?」
「はい・・・。」
企業家としての才能は素晴らしいと評価、
然し乍ら長期的発想は薄く、後者に託すタイプで不安定と流人に説明した。
「よく分かりませんが、それほど重要な企業なのでしょうか?」
「キットの分析ではSランクの5! つまりSSSSSランク企業だそうです。」
「冗談でしょう?」
「本当ですよ流人♪」
紅丸達との会話に混ざって来たキットが更に付け加える、
「今後20年でネット業界はこのglobeが世界最大の企業になるはずだよ!」
「世界最大ですか・・・」
「影響力を考えると今の内に判断した方がいいと思う。」
「判断?」
流人の判断との言葉に、今度は紅丸が流人に説明する。
「我が社と共存出来るか?否か?にございます。」
「なるほど・・・それで結果は?」
「中立で無害だと判断いたしました。」
「中立?」
「はい、敵対する意思は無いようです。」
「敵対もしないけど味方にもならないってことね♪」
「御意。」
「ベストな判断だと思うよ流人!」
キットも賛成しているようだ。
敵対しない程度に距離を置いて、関係を継続し続ける事で
globe側にも我々にも理に適うと説明していた。
「それでは出資量は増やさず現状維持でしょうかね?」
「それが宜しいかと思います。」
現状維持と言っても、
売買を行い利益をあげる為三賢者やキットの管理下に置かれている。
「それからもう一つございます。」
紅丸が小口だがベンチャー企業に出資して来たと言う
「こちらもキットの指示でしたが・・・」
動画を共有するプラットフォームを開発しているベンチャーに、
2,800万ドルを出資しして来たと流人に説明する。
「既に、三賢者経由で200万ドルの出資をしておりますので、
今回で投資総額は3,000万ドルになります。」
「三賢者!いつの間に?」
「流人と渡米した時じゃな(笑)」
「あの時になぁ・・・」
「流人が遊んでおった時じゃな(笑)」
「遊んでた時って(怒)・・・遊んでましたけどね(笑)」
会社の設立資金として200万ドルを出資したそうで、
今回の追加融資では出資比率の固定を認めさせたそうだ。
「よく承知しましたね?」
「元々出資額の90%が我々ですので、
今後他の企業からどんなに融資を受けても我々の権利を50%認める。」
「90から50に譲歩したのですか?」
「それについてはキットの方が詳しいかと・・・」
キットが代わりに流人に説明した。
プラットフォームを作るのにこれ以上予算は必要ないだろうが、
完成し、運用を開始すれば、サーバー回線の維持や管理コストが増えて行くので
更に数千万ドルから1億ドル以上必要になるとキットが予測した。
「ですから現段階で固定を認めさせれば我々の利が固定出来るので
リスク回避に繋がり安全出資となります。」
「長期的に考えれば・・・大丈夫かな?」
「数年以内に大手企業に買収されるでしょうから、
膨大な追加出資は無いと予測しています。」
「買収されちゃうの?」
「恐らくは・・・。」
「うちが買収したら?」
「必要ないかと思います。」
全ての料理を食べたいから、全ての国の料理人を召抱える必要はない、
必要性に応じて、外食なり出張なりを対応出来るのと同様と説かれた。
「完全な投資対象って事なのかな?」
「そうですね・・・でも・・・」
「でも?」
「流人が興味を持ちそうな分野ですから、
面識や繋がりがあった方が宜しいかと思います。」
「私の為ですか・・・。」
「「「「御意」」」」
キットと三賢者が揃えて答えた。
流人の御守りで残っていた黒天が、
紅丸の活躍にやっかみ、流人に報告する。
「流人様! 国内の報告は私が申し上げます。」
「黒天、お願いします。」
「はい♪」
酒米の収穫が終わり新酒の作業が始まった事と、
台風などの水害で養殖場の近隣から色々申し出があった事を報告する。
「水害! 養殖場は無事なんでしょうね?」
「ご安心ください、養殖場は無地にございます。」
流人達の養殖場がある場所は山々に覆われた場所で、
多くの支流が流れている。
その支流には何箇所も砂防ダムと言う、土石を止めるダムが設置され、
下流の町などの安全を守っているのだが、
養殖場近辺にある砂防ダムには土砂が溜まっておらず、
ダムの状況を視察した町の職員が不思議に思っていた。
「傾斜の山ごと削り取って設置した施設って事説明したよね?」
「はい、県の職員や町の町長も一緒に建設を見学しております。」
「だよね? どうして不思議なの?」
「我々も調べたところ・・・」
僕を使い近辺を調べたところ、
建設の為に山を崩し、再度植林した場所の木々が異常に根強く、
保水効果が高いと結果が出ていた。
「納得出来ないでしょうね、職員じゃぁ・・・。」
「はい、木霊の力など信用しませんから・・・」
地元の山神様に認められた場所で行った工事、
そして、好意的な木霊達が木々を育て山を復活させようと協力している為、
流人達の保有する敷地以外の木々も影響を受けて水害に強い山、森になっていた。
「もう少し、神や精霊を信じて敬っていただけると宜しいのですがね・・・。」
「いかがいたしましょうか?」
信仰を強要したくない事を説明して、山に感謝し、木々に感謝する事で、
絆が出来ると信じる事を町の職員達に説明する事で様子を見ることにした。
「なにかを感じ取っていただけると宜しいのですが・・・」
「そうだね、呉々も強要だけはしないでくださいね。」
「御意。」
定例会議が終わり流人は蔵元の様子を見に渡邉達と共に向かう。
「新酒ですかぁ♪♪」
「すまん流人、詳しくないんだ?」
新酒の意味が分からない邉さんが流人に問うと、流人が説明する。
「その年の新米で造る初めてのお酒で、
初物の様に縁起がよいと言う蔵元もありますよ。」
「邉さん達に分かりやすい例えは・・・ご飯です♪」
「ご飯?」
「新米ってテンション上がりませんか?」
「「あぁ〜♪♪」」
「そんな感じですね♪」
「「なるほど・・・!」」
「なんだ陣内も知らなかったのかよ!」
「僕は、どちらかと言うとビール派なので・・・。」
「それで言うと俺は・・・」
言葉を止めた邉さん、透かさず流人が突っ込む!
「なんですか邉さん!」
「いやぁ〜・・・酒だったらなんでもいいんだけどなぁ♪」
「先輩はアルコールに寛容ですからね(笑)」
「なんだよ!」
「でも残念ですね邉さん、」
「残念?なんでだ流人?」
「運転するから飲めませんよ(笑)」
「・・・」
「(笑)」
「(怒) 大丈夫だぁ流人、帰りは陣内が運転するからな(怒)」
「先輩!」
「ビール奢ってやるから!」
「そんなぁ〜」
楽しく向かう流人達に、浮かばない顔で迎えた蔵元の僕達・・・
「ようこそおこしくださいました。」
「新酒の仕込みに入ったと聞きましてね♪ 」
僕達に導かれながら貯蔵室へ向かうと、
数ヶ月前とは違い、独特の匂いが広がり、
木の樽は角が取れ深みが増し、室内には見えないが酵母菌が多数漂っていた。
「大分馴染んでいるように見えるのですがね?」
「はい・・・」
「設備が整いますと尚更、自分達の未熟さを知らされております。」
「経験値がこれほど深いとは・・・」
季節が変わって気温が落ち着いても、発酵の難しさは変わらなかった。
「とりあえず試飲したいのですが、叶いますか?」
「それでは・・・」
庵の方へ移動すると直ぐに3つの酒が運ばれて来た。
「お待たせいたしました。」
「最初は前回、最後にお出しした品種にございます。」
純米生酒が出されたが、前回より精進した結果が口の中に広がっていく!
「香りが増していい感じですね♪」
「ありがとうございます。」
「甘味と香りは上々ですが・・・余韻が薄いのは発酵ですか?」
「・・・はい。」
「それでも・・・前回より前進していますよ♪」
「ありがとうございます・・・」
「次は・・・」
この場所で、何度も何度も造り続け得た経験から造った純米生無濾過を出す!
「なんだこれ!」
渡邉が驚くのも無理はない、
13%まで磨き上げた酒米をあえて低温で管理発酵させた為、
発酵時間は掛かるが、しっかりとした強さが口の中で広がった!
「13%まで磨きましたか?」
「はい、一切の雑味を取り除き、旨味だけを残しました。」
「強さもいい感じですが・・・アルコール度数は?」
「・・・はい8%です。」
「8%!」
「低温では発酵が進みませんからね、管理は出来ても・・・」
低アルコールな為飲みやすいが、日本酒としては否定するしかなかった。
「流人!」
「流人!」
「代理様!」
木霊達が一斉に騒ぎ出す!
「「「「「!!」」」」」
「なに!?」
夕方の17時56分に大地が大きく揺れた!




