第百五十四話 養殖場の視察と手違い
直径50m、深さ50mの円柱形の巨大水槽が3つ、
魚を養殖する為に設置した巨大水槽が、
見た目でも理解出来る程強固な建物の中に収まっていた。
「50mでもかなり大きいですね♪」
「はい、内部は空間拡張を付与しておりますので、
10倍の広さとなっております。」
「10倍!」
紅丸の言葉に驚く流人!
「内部は直径500mって事ですか?」
「はい、深さも500mです。」
「深過ぎませんかね?」
「蟹の養殖には必要と意見が出ておりましたので♪」
「蟹も養殖するのですか?」
「はい、流人様の友人は蟹がお好みと伺っております。(笑)」
「あ! 師匠は好きだね♪♪」
「是非、感想を聞かせていただきたく(笑)」
「楽しみですね♪♪」
3つの内、1つは鰯の循環飼育場として使用、
残りの2つには回遊魚を中心に様々な魚が育てられていた。
「ここの魚達は全て品種を改良しておりますので、
飼育は簡単、成長もよく、味もいい最高の品種にございます。」
「改良して問題ないの?」
「全てを管理しておりますので、流出は無いと確信しておりますが、
万が一を考慮して、幾つかの結界と、
この水槽自体を離島へ転移させることとしております。」
「そこまで?」
「自然環境を変えてしまいますので、関係者は全て僕と眷属が務めております。」
「地元住民からは採用しないの?」
「そちらの方は、川魚の養殖に参加していただいております。」
「川魚も養殖するの?」
「はい、土地が余っておりますので(笑)」
二重の隔壁がゆっくりと開くと建物内に日差しが差し込む!
「警備の為、普段は隔壁自体を開閉する事はございません。」
どこかの国の核施設の様な厳重な造りに、流人は戸惑っていた。
「ここまでする程の品種改良をしたのですか?」
「恐れながら申し上げます、この備えは、天変地異に備えた造りにございます。」
土地神や山神が鎮めようとしても、暴れる時は来る。
そんな大事に備えた施設であると紅丸が説明した。
「神々から知らせがございますので、それなりの準備はでいると思いますが、
移動出来ぬもののございますので。」
扉が開き止まると、野外施設が一望出来た!
コンクリートで造られた生簀が数カ所小分けに、
そこに山から流れ出る清水が段々畑の様に下流へ下って行く。
「ここでは鱒類を養殖しております。」
「鱒? 虹鱒って事でしょうか?」
最上部の生簀には小さな小魚が多数泳いでいるが、
なんの魚かは分からなかった。
「岩魚? 山女?」
流人が鑑定を行うと2種類の魚が判別出来た。
「はい、稚魚の内は一緒に育てております。」
「それがいいのですか?」
「いえ、生簀が足らなかったので・・・申し訳ございません。」
「共食いとかは?」
「それはございませんのでご安心を♪」
一段下がった生簀2つには、其々岩魚と山女が分けられて育てられていた。
「綺麗な水を好みますので、この様な配置になっております。」
2つの生簀から一段下ると、更に2つに別れ4つの生簀が!
「ここは?」
「はい、大虹鱒を2つの生簀で育てております。」
「残りの2つは?」
「候補として鰻、もしくは伊富などが上がっておりますが、
どちらも飼育が難しい様にございます。」
「ここは地元住民からも採用するのでしょう?」
流人が周辺を見渡すが、人間の姿は見えなかった。
「道路の整備が整っておりませんので、就職希望者は誰も来ておりません。」
「確かに・・・大変だよね(汗)」
「はい(汗)」
「あの広場は?」
「あ! キャンプスペースにございます。」
「キャンプ?」
「はい、一般には開放しておりませんが、
従業員達が家族で遊べる場所とさせていただいております。」
「なるほど・・・いいね♪♪」
綺麗に整地され、芝が生えテントが張れる状態になった場所と、
調理用の木造の小屋が設置してある。
「ゴミなどの回収が来ませんので、大勢でのキャンプは出来ませんが、
2〜3家族程度でしたら楽しめると思います。」
「私も使えるの?」
「勿論にございます、いつでもお申しください。」
大虹鱒の生簀を覗くと! 1m近い魚影が見える。
「大きくないですか? 虹鱒ですよね?」
「正式にはスーパーレインボートラウトと言うそうで、
米国で改良された品種にございます。」
「へぇ〜・・・美味しいの?」
「育て方次第と聞いておりますが・・・」
「楽しみだね♪」
「御意。」
「でも、台風や大雨で増水したら逃げるよね?」
「ご安心ください、
生簀毎にシェルター用のシャッターが設置しておりますので、
大事の時は生簀を封鎖いたします。」
「その間の餌などは?」
「1週間程度でしたら問題ないと認識しております。」
「お腹・・・減るだろうね・・・。」
「魚も大人しくしているので、我慢出来ると思いますが・・・」
「役人の検査は済んでいるんですよね?」
「勿論にございます、先月の稼働前に全ての認可をいただいております。」
「水槽とか大丈夫だったの?」
「役人ですから、中に潜って調べたりはいたしません(笑)」
「油断しない様にお願いしますよ。」
「御意!」
「肉と魚が入手出来たら、やはりお酒をなんとかしたいね」
「杜氏ですか?」
「僕達も頑張っているけど、抑々未経験ですからね酒造りなんて!」
「ドワーフでも居ればよいのでしょうが・・・。」
「ドワーフかぁ〜 頑固だからねぇ〜・・・あの種族は・・・」
「如何いたすおつもりでしょうか?」
「取り敢えず、秋までは我慢します、新米で造ってみてから判断しましょう。」
「今の時期は酒造りに適しておりませんからね。」
「そうだよね、それでも僕達は頑張っているからね・・・。」
本社に戻り、色々書類の整理をする流人と紅丸、
「お帰りなさいませ流人様、」
「ただいま黒天、何かあった?」
「はぁ・・・流人様のブランドで少々ございまして・・・。」
「私のブランド?・・・societyRですか?」
皇室も使用する商品に注目が集まっているが、抑々販売店が無い!
サロンなどで販売はしているが、商品だけを買いたい人はお断りしており
店内に入る事が出来ないので購入出来ないでいた。
「代表の名前も秘匿でございますし、直営店も無いのでは流石に騒ぎに・・・。」
「なるほどね(汗)」
「如何いたしましょうか?」
「手続き上はどうなっているのでしょうか?」
「代表は・・・?」
「紅丸?」
「えぇ〜っと・・・?」
元々は紅丸と黒天が代表だったのだが、
眷族を迎える為にゴードンと一時的に合併した為、
代表はティナさん達になっていた。
そしてsalon of sister’s を設立する時に、全てを流人に授けたので
代表責任者は不在となっていた。
「どうしましょうかね?」
「salon of sister's の責任者は誰でしょうか?」
「確か流人様のご要望で、四姉妹の精霊眷属が選ばれたはずですが?」
「あれは広告塔ですよね? 責任者では無いでしょう?」
そんな話をしているとティナさんが現れた!
「すまん流人! 私の手配ミスだ!」
「ティナさん、落ち着いてね♪」
「神のご意向故甘えておったが、どうするか?」
「全ての代表をティナさんが勤めればいいのでは?」
「私がか!?」
「ミスだし・・・ねぇ?」
「くぅ・・・三席様と同じ事を申すのだな・・・」
「やっぱり(笑)」
圧倒的女性層の支持が多い為、代表者も女性の方が便利だし、
ティナさんだったら色々問題があっても力がある為都合が良いと流人は考えた。
「私だけと言うのは狡くないか(怒)」
「サフィーさんとエメルさんですか?」
「そうだ! 二人も同罪であろう?」
「そうですね、二人には別の会社を就任していただきましょう(笑)」
「おぉ♪ まだあるのか?」
「はい♪ 私兵部隊、アイアン・ブルの代表とか?」
「おぉ〜♪ 是非サフィーに任命させよう(笑)」
ティナさんが大喜びて決定しようとした時、
サフィーとエメルの二人が飛び込んで来た!
「待て! 聞いておらんぞ!(怒)」
「そうだ! 私も聞いておらん!(怒)」
「そんな事ないでしょう(笑) 慌てて来たんですからね(笑)」
「「な!」」
「そうじゃ! お前達も何か役職に着くが良いぞ♪」
「ティナ! 何を勝手な事を!」
「そうだ、私達は忙しいのだ!」
「兵士の訓練にご熱心だと聞いておりますが?」
「「そうだ! か弱い兵士を使える様に鍛えておるのだ」」
「でしたら・・・代表としてお願いします♪♪」
「な!・・・くぅ・・・謀ったな!」
「私はなってもいいぞ! アイアン・ブルならな♪」
「エメル! 裏切るのか(怒)」
「考えてもみろ! 代表なら堂々と扱けるぞ♪」
「・・・確かに!」
「では共同代表としてお願いしますね?」
「「承知した。」」
「ジパングの代表は誰にするのだ?」
「・・・クロウでしょうかね?」
「「え!」」
流人からクロウの言葉が出て慌てる黒天と紅丸だった。
「流人様?」
「クロウにジパングの代表をさせるのですか?」
「駄目でしょうか? クロウも准将を授かっていましたよね?」
「はい、確かに・・・。」
「だったら問題ないと思いますが?」
「流人様が納得なされているのであれば・・・」
「我々に異議はございません。」
「そう♪ それじゃぁ決まり決定です。(笑)」
裏社会、影の仕事を務めていたクロウが、まさか表の職務を与えられるとは
クロウ本人も驚いていた。




