第百五十一話 主導権はどっち?
希空達が帰って来て、土産話を楽しみにしていた流人、
然し、少々深刻な表情だった子供達に事情を聞く事にした。
「携帯ゲームとPCゲーム?」
「うん・・・。」
この国では、ゲームの主流が携帯電話で遊べるアプリゲームが主流となり、
去年のゲームショーでも多くの国内企業が参入していた。
「流人は、どっちが楽しいと思う?」
「どっちも楽しいけど、将来的にどっちが主導権を握ると思う?」
「如何だろうね?」
「私はゲームを殆どしませんからね・・・。」
流人が黒天や紅丸にも伺うが、無知な為適切な回答で返せなかった。
「分かりやすく説明するとね・・・。」
携帯電話の液晶画面は小さいので、開発コストが安価で、
課金システムで収益性も高いアプリゲームと、
ネット環境下で、大勢の人達が参加し一斉に遊ぶ事が可能なPCゲームは、
高画質で大両量な為、高機能なPCでしか遊べないが、
多くのユーザに支持され確実に成長していた。
「開発費は圧倒的に嵩むけどPCゲームの方が将来的には有望なんだ!」
「希空は如何したいの?」
「今はね、この国のゲーム機が世界の中心にいるけど、
このままだと、近い将来世界から見捨てられるんじゃないかなぁ?」
「見捨てられる?」
「うん・・・」
現在はどんなゲームでも、
国内企業の開発したハード機を使わなければ遊ぶ事が出来ないので、
必然的にこの国の言語対応を行っているが、
PCが主流になった時、小さな島国の言語対応など無駄で、
コストが掛かる対処を態々行わない企業が増えて来ると希空が説明した。
「プレイヤーが言語能力を多様化すればいいんだけどね・・・。」
「この国は、母国語だけって人が多いからね」
「せめて英語が理解出来れば問題ないんだけどね。」
「遊べないって事?」
「遊べるだろうけど、 言葉が理解出来ないから・・・」
「遊べるゲームの種類が限られて来るね・・・」
「興味があっても、意味が理解出来ないと面白くないだろうからね」
「この国も、PCゲームを開発した方がいいって事かな?」
「・・・難しいよね。」
「そうだね・・・。」
「環境が最悪だしね・・・。」
PCゲームを作るには当然プログラムが出来る事が必定、
だけど、そう言う人材は、高収入を求めて違う職業へ行ってしまう為、
安価で待遇の悪い開発会社などに就職する人は少なかった。
開発会社も、開発コストが掛かるPCゲームより、
アプリゲームの方が利益率が高い為、態々危険を犯すことはしなかった。
「希空達が作るの?」
「僕たちは・・・作りたくないよね?」
「自分達で作ったゲームじゃ楽しくないんだよね?」
「そうだね、内容が全部分かっているからね・・・。」
「なるほど・・・。」
「流人はゲームに興味があった様だけど?」
「興味ですか・・・多少なんですよね、
将来的には楽しそうだなぁって、思うのですが?」
「楽しいと思うけど・・・」
「そうだね・・・」
「でも、流人は英語とか理解出来るから大丈夫だよ♪」
「「そうだね♪」」
「出来ない子達は・・・ですか?」
悲しい顔、表情を浮かべる子供達、
「きっと、僕達と同じ様な環境で育った子供達は理解出来ないんだろうね」
「そうだね、学ぶチャンスが少なかったからね」
「僕達は出来たけど、それは恵まれていたからだよね」
生活環境が整っていない家庭で育った子供達は、
外国語を学ぶチャンスなど殆どない。
そんな子供が、娯楽、趣味としてゲームを始めた時、
果たして楽しめるゲームが存在しているのだろうか?
希空達はそれを心配していた。
「でもね、 現在でもPCの環境下ではこの国は劣等国ですよ?
ここから如何したらいいと考えているのですか?」
世界シュアの99%以上が海外のOSを使っていて、
PC本体も殆どが海外製品で、流人達も外国製のPCを使っており、
国内生産の部品は殆どなかった。
「MODを上手く使いたい。」
「そうだね、それなら解決出来るよね」
「大変だけどね」
「MOD?」
PCゲームの開発費を抑える為に、プログラムデーターを公開して、
グラフィックの向上や、MODオリジナルのシナリオなど、
プレイヤー参加型でゲームを開発して行く方法だった。
「言語変換MODを作って、日本語対応にすればいいんだけど・・・」
「それ自体は違法じゃないんだけどね・・・」
「問題も多いんだよね・・・。」
「問題?」
ゲームプログラムを公開すると言う事は、不正に改造も出来ると言う事で、
武器を異常なほど強くしたり、不死身のキャラを作ったりする事も可能で、
全てのメーカーがMODを公認もしくは容認している訳ではなかった。
「なるほど・・・そう言う事は紅丸の分野だね?」
「交渉でしたらお任せください。」
「希空達が作ったMODに悪意はないって事で
公認して頂ければいいのでしょう?」
「うん」
「データーを公開していれば問題ないんだけど、
してないのにMODを作ったら問題にならないかな?」
「そうだよね?」
「そうですね・・・心配しても仕方ないですから、
公開しているゲームを中心に言語MODを作って行きませんか?」
「そうだね♪」
「でも・・・まだ日本語対応しているんだよね」
「そうだね(笑)、ゲーム機が強いからね(笑)」
「強いゲーム機ですか・・・作れませんかね?」
「作れない事はないけど・・・」
「多分売れないね。」
「そうだね、圧力が掛かるからね。」
「圧力?」
昔、この国のゲームの主導権を握る為に、
アーケードゲームの最大手と音響機器や家電を販売していたメーカーが、
其々のゲーム機を売り出し対立した。
その時、ゲームソフト会社に、
ライバルのゲーム機にゲームソフトを提供しない様に、互いが圧力を掛け合い
結果、ゲーム市場では有利と思われていた最大手敗退、
家庭用ゲーム機から撤退を余儀無くした。
「私達では勝てませんか?」
「う・・・ん無理かな?」
「流人じゃ安価に出来ないしね(笑)」
「そうだね、価格と面白そうなソフトの数が重要だからね♪」
「そうですか・・・。」
残念そうな流人を見て、焦る希空!
「本当にゲーム機を作るの?」
「難しいよ」
「そうだよ、人材も少ないし今は止めた方がいいよね?」
「今は?」
現在は、ゲーム機が3万円前後で、PCの価格が30万円以上するので、
殆どのゲームユーザーはゲーム機で遊んでいる為に、
日本語にも対応しているけど、将来的にPCゲームの需要が増える時は、
PC自体の価格もゲーム機に近い値段まで下がると予測する。
「逆に、ゲーム機が高騰するかもね?」
「ありえるけど、それじゃぁ〜子供は遊べないよね?」
「そうだね、5〜10 万円が限界だと思うよ?」
需要が増えれば価格は下がる、PCの部品も下がれば需要が増える
この繰り返しが続けば、
流人が納得するゲーム機も家庭用ゲーム機と大差ない値段になると予測していた。
「如何でしょうね・・・」
「心配?」
「大丈夫だと思うよ」
「ネット環境が落ち着く迄は、参入しない方がいいと思うよ」
「確かにその通りですね。」
流人の脳裏には、現場でもPCの価格には大きな幅がある、
高性能なPCは100万以上する、需要が高まれば価格は下がるだろう
然し、それ以上に高性能なPCは高額になるのではないかと心配していた。
「大丈夫だよ流人!」
「そうだよ、その時は流人が安価で高性能なPCを出せばいいんだから♪」
「そうだね、無駄を省いてゲーム専用のPCにすれば安くなるよね♪」
「なるほど、では我が社でも、CUPとGPUの開発をさせましょう、
キットお願いしますよ?」
「承知致しました。」
「流人、その2つは重要だけど、冷却システムも重要だよ!」
「PCは熱に弱いからね、冷やさないと性能が落ちるんだよね」
「最近は水冷の開発が進んでいるらしいよ♪」
「水冷ですか? バイクのエンジンみたいですね(笑)」
「原理は同じだからね」
「冷やして使わないとオーバーヒートを起こすからね」
「熱で壊れちゃうよね」
精密な部品が多く、熱に弱いPCなので大型のファンで冷却したり
一部では循環型の水冷式冷却ファンもあるそうだ。
「冷却ですか、室内温度を下げればいいのでは?」
「そうだね18度くらいだったらPCにはいいかな?」
「人間が風邪ひいちゃうよね(笑)」
「そうだね(笑)」
「希空も希陸も希海も、体調管理には気をつけてください!」
「「「はぁ〜い♪」」」
流人達は、ゲームの将来は、PCゲームが中心となると考え、
それに対応すべく、そしてこの国の子供達にも遊べる環境を守為に
MODの開発やPC機器の開発にも力を入れて行く事を確認した。
「土産話が・・・聞きたかったなぁ・・・」
「お土産?・・・はいこれ!」
「なんでしょうか・・・使用許可の契約書?」
「流人が欲しがっていたでしょう?」
「そうだよ! ゲーム内で使う為の使用許可?」
「僕達を子供と思って油断してたよね♪」
「そうだね♪10年後僕達が作ったゲーム内に御社の商品を使わせてください!」
「君達が作ったゲームなら、特別に許可するよ♪」
「「「やったね♪」」」
世界で有名な飲料メーカーと、世界で有名なスポーツメーカー、
世界で有名なファーストフード店の使用許可が書かれていた・・・。
「子供は恐ろしいのぉ」
「この契約を幾らで行って来たのだ?」
「すまん流人、あの子達のイメージが壊れて行く・・・」
三賢者と同じ意見だった流人でした・・・。




