第百三十二話 のどかな一日
鎌◯の御隠居様へ色々な便宜を計らって頂いた件で
改めてお礼を述べたいと流人は鎌◯へ来ていた。
「今年はよく顔を見るね流人、」
「はい、色々お世話になっておりますので、
改めて感謝を申し上げたく参りました。」
新年の音楽祭、皇室での無礼な発言、
その他にも、法務省へ審議の迅速化を提言して頂いたり、
判決後の仲裁に御足労願ったり、蔵元の用地を貸して頂いたり、
大変お世話になっていた。
手土産に、シャンプーとトリートメントの試作品と、
入浴剤の詰め合わせ、そして和菓子職人となった僕達が作った桜餅を持参した。
「また色々持って来たね、流人♪」
「新しい商品と季節がら職人が作りました菓子を持参致しましたので、
皆様でお召し上がり下さいませ。」
「職人? あぁ〜! 美食倶楽部とか言う職人かい?」
「はい、」
「誰か、新しいお茶を!」
「御意!」
お茶が用意されるまで、御隠居が流人に尋ねている。
「住まいを変えたそうだね?」
「はい、前の住居は再開発の為立ち退きました。」
「あの場所が、再開発するとは私も意外だと思ったよ♪」
「そうすると・・・やはり嫌がらせでしょうか?」
「どうだろうね・・・っで、新居はどうだい?」
「まだ慣れませんが、快適に住う事が出来ると思っております。」
「まぁ〜、色々あるからね(笑)」
「?」
御茶請けとして桜餅が御前の前に差し出されると、
「東と西の2種類あるんだね?」
「はい、私は薄皮の方が好みですが♪」
「いい香りだね♪」
「葉も吟味しておりますのでお召し上がりください。」
普通の塩漬けの葉より小さめで、桜の花弁の様に5枚の葉で包んであった。
食した御隠居が驚く!
「小さい葉が柔らかく、そして香が強いが落ち着いているね♪」
「好んでいただけたご様子。」
「薄皮も実にもっちりしているね♪」
「上新粉と白玉粉を混ぜて蒸し焼きにしております。」
「小麦を使わないのかい?」
「アンパンではございませんので・・・。」
「(笑) 本家に怒られるよ流人!(笑)」
本家の桜餅は小麦粉で作っている事を承知で、否定した流人、
価格を無視して食べ比べてみれば、どちらがいいかは・・・っであった。
「あんのバランスもいいね、甘過ぎず上品だね♪」
「上質の小豆と黒蜜と和三盆で練り上げた漉し餡にございます。」
「・・・美食倶楽部ならではっと言う事だね。」
「はい、食糧不足の時代でしたら質より量を選びますが、
今の時代、そしてこれからも上質を求める世の中にしたいと願っております。」
「御大層な想いが込められていたんだね・・・。」
戦後の困窮した時代を経験した御隠居にとって、
美食や贅沢は好ましく思わなかったが、流人の意志は確りと伝わっていた。
もう一つ、西側の桜餅を食す御隠居様、
「こちらも5枚かい?」
「はい、塩梅を考慮致しますと5枚になるそうです。」
「なるほどね」
感心しながら食べるとこれもびっくりする!
「半殺しだね?」
「はい、関東は滑らかな舌触りを、
関西は粒の存在と食感を楽しんで頂きたく、
敢えて秋田の製法を用いて半殺しにしたそうにございます。」
「なるほどね、切りたんぽに食感が似ているのはそう言うことかい!」
更に中に入っている餡は粒餡で、
こちらも粗めの潰し方で確りと粒が残っていた。
「完全に東西で風味を変えたんだね(笑)」
「はい・・・♪♪」
「酒造りもこだわるのかい?(笑)」
「勿論にございますが・・・優秀な杜氏がおりませんので・・・。」
「杜氏かい・・・流石に私でもそれは用意できないね。」
「承知しております、優秀な杜氏は蔵元が手放しませんから」
「そうだね・・・っでどうする?」
「暫くは社員達の努力に頼ろうかと」
「その社員の実力が侮れない様だねどね(笑)」
「お褒め頂き、ありがとうございます。」
雑談と近状報告を済ませ、御隠居様から「好きにおやりなさい!」っと、
お許しも頂いたので、気分良く自宅へ帰る。
途中、新しく見つけたイタリアン系のカフェで休憩、
邉さん達と自宅周辺の探索をしていた。
「オープンテラスだっけか? 小洒落た場所は苦手なんだけどなぁ」
「気にせずに、お茶をしましょう邉さん(笑)」
道路に面したテラスで軽食を頼んだ渡邉、周りを気にする光景が滑稽だった。
「この近くはこの様なお店が多数ありますね?」
「そうだなぁ、表参道はお洒落な店が多いからな」
「激戦区ですよ流人君」
「なるほど、カフェを出店するならここですか?」
周りを確認する流人、整備された道に、歩きやすい歩道、
その合間に、テラスがあるカフェやレストランが並んでいる!
お店の前に高級車が止まる!
「なんだ?」
「なんでしょうね?」
車のドアが開くと子供と犬が飛び出して来た!
「まぁって!」っと言いながら小さな少女が追いかけていた!
「ここみ! 危ないから飛び出しちゃ駄目!」
「だって!・・・ごめんなさい。」
運転席から母親らしい女性が降りると、車内から赤ん坊の泣き声が!
「あぁ〜! どうしたのかな?」
赤ん坊を抱き上げあやす母親を見て、流人が哀れに思う!
「大変そうですね?」
「助けてやれ! 流人!」
「そうじゃな、子供達が心配じゃ!」
「取り敢えず、逃げた犬だけでもなんとか致せ!」
「そうですね・・・」
「邉さんちょっと行って来ますのでお留守番お願いします。」
「了解だわん♪ っておい!」
「流人君手伝いましょうか?」
「大丈夫です♪」
席を立つとす〜ぅっと移動して小型犬を捕まえる!
そのまま少女に犬を渡して母親の様子を見る。
「大丈夫ですか?」
「あ! 大丈夫です、有り難うございます。」
「買い物?」
「え! ちょっとケーキを・・・」
「それだったら、子供と犬を見てましょうか?」
「え! そんな・・・」
不審者と思われている流人を不安に思う母親だったが、少女が母親に言う。
「ママ! お兄さんと待っているから早く買って来て?」
「え! ・・・それ、それじゃお願いします?」
「はい、宜しくね(笑)」
母親から赤ん坊を預かり少女と犬と一緒にテラスの席に戻る流人、
その様子を確認した母親が急いで店内に入って行った。
「大事な家族だけど、一緒に飛び出しちゃ駄目ですよ」
「はぁい、ごめんなさい。」
「はい素直で宜しい♪ わかりましたか? わんこ!」
「・・・ワン!」
「宜しい♪(笑)」
「(笑)」
流人に抱かれている赤ん坊も大人しく、数分が過ぎて母親が店内から出て来た!
「有り難うございました。」
「気を付けて下さいね♪」
「はい・・・帰りますよ! ここみ」
「はぁ〜いママ♪」
車内に荷物を置いて、流人から赤ん坊を受け取り車内へ、
「またねお兄さん♪」
「お気を付けてね♪」
車内で母親が再び礼をして車が走り出す!
見届け、再びテラスの席に戻った流人、
「大変ですね母親は♪」
「あれ・・・九堂静香じゃぁなかったか?」
「先輩もそう見えましたか?」
「だよな?」
「??」
「流石東京だな・・・」
「何言ってるんですか邉さん?」
「いやぁ〜・・・芸能人だよ♪」
知っている芸能人に会った渡邉と陣内は、暫く興奮状態が続き、
流人に、あの母親と父親の偉大さを教えていた。
「へぇ〜・・・トップアイドルでしたか・・・」
「そうだ!特に父親は今でも大人気なんだぞ!」
「そうですよ! 僕も憧れていますからね♪」
「おや、母親の方に憧れていたのでは?(笑)」
その夜、ある家庭のお話・・・
「そんな事があったんだぁ」
旦那さんが奥さんから昼間の出来事を優しく聞いていた。
「最初は変質者か記者だと思ったんだけどね・・・」
「気づいてなかっただけだろう、親切な人でよかったじゃん♪」
「びっくりしちゃった、ここみがその人に懐いちゃうんだもん!」
「子供だから良い人って分かるんじゃないかな?」
「そうなのかなぁ・・・」
二人が娘の顔を見ると娘が答えた。
「わたしねぇ〜、 あのお兄さんのお嫁さんになるの♪」
「え!」
「あぁ〜!(怒)」
知らないところで、流人に敵意を持った父親が誕生した。
「ワン ♪♪」




