第十話 求めた土地は・・・。
都内から西に50㎞程離れた隣の街、
長閑な畑や田んぼが一面、目に入る場所です。
「黒天!随分田舎の様ですが?」
「流人様、これでも都心から電車一本で1時間程の距離、
国民達の間ではベットタウンっと呼ばれているそうです。」
「住宅街って事かな?」
「購入した場所は更に奥地へ入った農地で御座います。」
「農地!畑がある場所かな?」
「如何にも、精霊樹にとって良い土と思いまして。」
「確かにね、それで畑地。」
「御意。」
「それにしてもこの電車速いね。」
「はい、このスピードですから、時間の通勤圏内と言う訳に御座います。」
黒天が何故か誇らしげに説明してくれたけど、
「紅丸は如何しているの?」
「奴は先乗りして掃除をしておる筈に御座います。」
「掃除?」
「はい流人様がお越しになるので、周囲を綺麗にして来ると申してました。」
「綺麗にねぇ」
駅を降りると都内と見間違える程栄た街並みが!
「凄いね、高い建物は少ないけど十分街として機能してそうだよ♪」
「お褒めに預かり恐縮にございます。」
「で此処から近いの?」
「いえ、更に数時間掛かりますので、転移致します。」
「転移?それだったら、自宅からでよくなかった?」
「電車に乗る経験も必要に御座います。」
「確かにね・・・。」
電車に乗るには切符なる板紙が必要で、
自販機なる魔道具から購入出来るのだが、料金のシステムが難しいのだ。
然し、乗り物用のクレジットカードが有れば簡単だと、
乗る前に黒天が教えてくれた。
「おぉ〜!改札口に添えるだけで扉が開いたぞ!」
「お見事に御座います。」
「ありがとう、これは便利だな。」
「はい、先に金を入金して置けば、入金額まで乗り降りが出来ます。」
「銀行で自動引き落としではないのだね?」
「はい、その様なカードも御座いますが、利用頻度が少ないと思いますので。」
「必要無いか!」
「御意。」
黒天が認識阻害の周囲魔法を発動、空間移動のゲートが開いた!
「良いタイミングであったぞ!紅丸。」
「我を侮るな黒天!」
「紅丸、ご苦労様。」
「有難きお言葉、さぁ、ゲートの中へ!」
「うん。」
出口は一面の畑で覆い尽くされた、何も無い、畑だけの空間だった!
「さっきとは別次元だね?」
「はい、この先は国有公園で人は余り来ませんが、
開発される事も御座いません。」
「そうかも知れないけど紅丸、人が来ないのも寂しいと思うよ。」
「はい、三賢者とも話し合いましたが、
此処に新たな拠点を築くつもりに御座います。」
「拠点?」
「はい、美しい空気と爽やかな風、大地からは温泉が湧き出て、
寛ぎの場として最高の場所に御座います。」
「温泉かぁ、寒くなったら入りたいね。」
「御意、そして、この地がこの国で1番の地脈の溜まり場に御座います。」
「溜まり場? 富士の御山じゃ無いの?」
「はい、此処には幾つかの山々へ流れる地脈が集まっております。」
「へぇ〜よく調べたね?」
「はい、何でも此処は最も脅威な震源地となる場所だそうです。」
「脅威な震源地?」
「はい。地揺れに御座います。」
「危ないでしょう?」
「ですから土地神様にお願いするので御座います。」
「大丈夫かな?」
桜の木を未だ植えず、取り出して土地神様に尋ねてみる
「土地神様、この地で如何でしょうか?」
「おぉ〜着いたのか?! これはまた田舎じゃなぁ」
「はい、50㎞ほど西へ移った場所です。」
「おぉ〜!大山に富士の御山が見えるぞ!」
「如何でしょうか、気に入って頂けると嬉しいのですが?」
「良いのか?本当にこの様な場所で根差しても?」
「はい、何でもこの国1番の脅威な震源地だそうです。」
「1番の・・・脅威な・・・震源地・・・確かに恐ろしい地脈じゃな」
「御守り頂けますか?」
「うむ、誠心誠意努めよう。」
「ありがとうございます。」
とてつもなく広い!
何でも地主が冗談で所有する畑地を全部買うならサービスすると言ったそうで
かなり安く購入出来たそうです。
「紅丸、かなり広いけど、大丈夫?」
「ご心配なく三賢者! 何か考えがあるそうだな?」
「勿論!」「あるぞ!」「これじゃ!」
現在、畑地として使われている場所は元地主の農家に、暫くの間委託する。
国有林との間の雑木林を整地して霊木を植え御神木として守って頂き、
後に温泉と保養所を霊木の近くに建てたい。
「農地要らないよね?」
「「「今はのぉ、だが、誰かに買われ荒らされる前に先行買いじゃ!」」」
「それにしても広いよね・・・。」
「うむ、広いのぉ」「誠にのぉ」「大農園じゃな」
元地主に挨拶をして、今度の予定を話、承諾を得る。
「中々良さそうな人だね、あの老夫婦は?」
「子供がいるそうですが、皆、職に着いているそうで。」
「継ぐものが居ないそうで、相続で争う様なら現金が一番じゃと仰ってました。」
「なんか世知辛い世の中ですね。」
「きっと御存命中は農家を続けたかったのでしょうね。」
「そうじゃな」「渡りに船じゃな」「出来た作物を分けて貰いたいの」
舗装された道路から砂利の土道に変わる中、森の方へ向かうと
「此処だ」「此処が良い」「霊木は此処に植えよ」
「土地神様、此処で宜しいでしょうか?」
「うむ、良い土じゃ地脈も強く感じ取れる、温泉が近いな」
「はい、温泉を掘って後に保養所を作りたく思っております。」
「おぉ〜、是非春には皆で温泉に入りながら、我が桜を愛でて欲しいの♪」
「分かっておる」「その為にここにしたのだ」「温泉に入りながら桜を愛でる」
「「「最高〜♪♪♪」」」
三賢者の言葉が脳裏で響き渡っていた。




