葬儀
明けましておめでとうございます
本年もよろしくお願いしますm(__)m
8話一時間毎に投稿です(7話~14話)
その日は青い空が広がっていた。
小さな棺を見送る人の数は多くない。それでも由緒ある侯爵家の葬。まだ社交界デビューしていない子供でもそれなりの人数は集まっていた。
「旦那様、奥様から屋敷に戻ってほしいと」
執事のウォルスが屋敷からの使いの者からの伝言を小声で伝えた。使いの者は申し訳無さそうに身を小さくして分かりきった答えを待っている。
「葬が終わるまでは」
「畏まりました」
喪主ガリレイの冷たい声にウォルスは一礼をして、使いの者に遠回りをして帰るように伝える。早く屋敷に帰ればまたここに使いに出されるからだ。
一人、また一組、参列者たちが申し訳なさそうに喪主に頭を下げて馬車を止めてある方に歩いていく。まだ葬は終わっていないのに。
「では、お別れを」
長い祈りの言葉を終えた司祭がすっと横に移動した。
深い穴に置かれた小さな棺に向かって喪主であるガリレイは手に持っていた花を投げ入れた。そして、隣に立つ銀髪の少年の肩をそっと叩き横にどく。
少年は三輪の花を手にしていた。二輪の花を足元に落とすと、残った一輪だけを棺に向かって投げ入れ、父であるガリレイの隣に移る。
参列者たちが順々に花を投げ入れていく。その列は短くすぐに終わった。
小さな棺の上にはバラバラと花が乗っており、まだまだ黒い棺が見えている。少し離れた場所にある篭には参列者だった者たちが戻していった花が山となっていた。
穴を覗いたガリレイは肩を落としながら息を吐いた。
花に埋もれて逝かせてやりたかった…。
「旦那さま、この者たちが…」
ウォルスの声にガリレイは苛つきをもう隠せなかった。
「あと少しだ」
「花を、ノア様に花を贈りたいと」
その言葉にガリレイは視線を上げウォルスの後ろにいる者たちを見た。
ウォルスの孫ウェンターと馭者見習いのトマスが篭を背負って頭を下げていた。トマスは頭を下げすぎて篭の中に入った花がバラバラと落ちて慌てて拾い集めている。
「ここに来ることが出来ない者たちに代わって花を贈ることをお許しください」
ウェンターの言葉にガリレイはただ頷いた。
「庭師ジョンから、弟子のラル、クウ、ホアラ………」
「部屋係のメライ、クララ、アリ、ロアンヌ………」
二人は背負っていた篭を下ろすと一輪ずつ手に取って、屋敷にいる使用人たちの名前を言いながら穴に投げ入れていく。
「パン屋のスタおばさんがノア様にこれを」
トマスは紙に包まれたパンをガリレイに見せた。
「カイル様とお忍びで出かけられた時です」
ウォルスが怪訝そうな顔をしているガリレイにそっと耳打ちする。
トマスは花と一緒にパンを投げ入れた。
「雑貨屋のジョー婆さんが」
トマスが布で出来た小さな人形を取り出した。
ガリレイはもう黙って頷いた。天国で遊ぶ物も必要だろうと。
「では、私たちもよいかな」
女公爵であるヨシュアが花を持って立っていた。その後ろにはヨシュアの次男ケルサが参列者が置いていった花が入った篭を持っている。
「ほんとは新しい花がよいのだが、仕方あるまい。
ノア、我が屋敷のヤーマから、テハから、アマタから……」
「馭者のジョジョから、サマから、ツサから……」
ヨシュアの三男イリウスも母親にならって、使用人の名前を次々と言いながら投げ入れていく。
「おや、花が足りぬ。後日、飾らせてもらうがよいか?」
ガリレイは棺の上で山盛りになった花を見て喉を詰まらせた。もう黒い棺は見えない。
「か、かんしゃ、いたします…」
ガリレイの前にウォルスが、銀髪の少年の前にウェンターが立った。
「ニア様とノア様がお生まれの時に植えられた薔薇の花です」
ウォルスが赤いの薔薇をガリレイに差し出した。
「カイル様とノア様がお世話をしていた薔薇の花です」
ウェンターはまだ固い薔薇の蕾を銀髪の少年に差し出した。蕾が開けば薄紅色の花が咲くはずだった。
「カイル」
ガリレイは銀髪の少年の肩を抱き、二人一緒に薔薇を投げ入れた。一礼をした工夫たちがゆっくりと花に土をかけ穴を埋めていく。
「これでノア様の霊は天に、肉体は地に帰られました。」
銀髪の少年は天に帰る魂を見つけたくて青い空を見上げた。




