夕食
マクラシミン侯爵家長男カイルには、二歳下の双子の妹がいた。
カイルと同じ蜂蜜色の髪をした上の妹ミアはカイルより明るい青い瞳、下の妹ノアは緑がかった青い瞳をしている。
二人ともカイルにとってとても可愛い妹だった、あの時までは。
ミアは生まれてすぐに大病にかかった。そのためか、母のラミラはミアは病弱で弱々しいと思い込んでいる。だから、ミアばかり可愛がり、ノアのことなどおざなりだ。
必然的にカイルは、一人でいるノアにかまうようになっていた。それでも二人はカイルの可愛い妹だった。
「明日、ピクニックに行きましょう」
七歳となり、年が明ければ子息たちが通う寄宿学校に行くことになっているカイルは夕食の時にそう提案した。
妹たちと出かける機会も少なくなる。
もうすぐ五歳になる双子の妹たちの反応は正反対だ。
外で汚れるのが嫌いなミアはムスッとし、外に出掛けられるとノアは期待に瞳を輝かせている。
「カイル。外なんて体の弱いミアが心配だわ」
「母上、外に出ないと体が丈夫になりませんよ」
カイルはミアが体が弱いなんて思っていない。
外に出ないから色白で、そのために顔色が悪く見えるだけだ。
「それにこの前も行けなくなりました」
ノアが楽しみにすることは、そのほとんどか話だけで実行されたことがない。ラミラが病弱なミアが出来ないのにノアだけするのかと、ミアが可哀想だと思わないのかと泣いて反対するからだ。そのわりに外に出られないミアが可哀想だとラミラはお店などにミアだけを連れて行く。ノアはいつでも出掛けられるのだからと屋敷で留守番をさせている。必然的にノアより出掛ける回数がミアの方が多いことに気付くこともない。
「明日は必ず行きます。私も寄宿学校に行く準備があります。次回が出来るかどうか分かりませんから」
カイルはそう宣言した。カイルが居なくなったら、ますますノアは外に出られなくなる。
「でも、カイル…」
ラミラはピクニックに行ってミアが体調を崩すのを恐れていた。兄妹仲を深めるのはいいけれど、体調を崩させてまですることではないと思っていた。
「母上、先月、ノアが楽しみにしていたことがどれだけ出来たか知っていますか?」
突然変わった話題にラミラは瞬きを繰り返した。
そんなことは知らない。ミアとはケーキを食べに街に出掛けたり、宝石を見に店に行ったりしていたけど。
「ピクニックはもちろん、乗馬はミアが出来ないからとなくなり、私と街に降りるのも、父上の視察に付いて行くのも全て無くなっています。
反対に母上はミアと何回お出かけになりましたか?」
ラミラは困ったように首を傾げた。
そんなことを言われても病弱なミアに無理なことをさせられない。だから、近場で疲れない所に連れて行くだけなのに。
「ピクニックが中止になったのにミアだけ連れて宝飾店へ、ノアも乗馬が出来なかったのにミアの分だけドレスを作り、父上の視察には私しか付いて行かなかったのにミアだけ連れてケーキを食べに。ノアは楽しみにしていたことが出来なくなったのにミアだけ母上に何かをしてもらっています」
ラミラはミアだけ優遇しているつもりはない。
ミアが病弱だから、何も出来ないから、可哀想だから、連れ出しているのに。
「し、仕方がないでしょう、ミアは体が弱いのだから」
「では、何故、ノアだけ出掛けたり、乗馬をしたりするのは駄目なのですか? それに結局ノアも出来なかったのです。ノアもミアと一緒に連れていくべきです」
「ノアだけ色々するのは出来ないミアが可哀想だとカイルはお思わないの?」
「じゃあ、ミアだけ母上と出掛けて、出来るのに出来なかったのに留守番させられているノアは可哀想ではないと!?」
ラミラにはカイルに責められる理由が分からない。双子なのに片方だけ出来るのは狡いとは思わないのか。もう片方が可哀想だと感じないのか。ノアが可哀想と言うカイルの思いが理解出来ない。
「カイル」
ガリレイが熱くなっている息子を諌めた。
「明日はピクニックに行こう。ミアは体調次第とする。それでいいな」
カイルは父の言葉に渋々頷いた。ミアは多分ピクニックには参加しないだろう。そうなるとラミラもピクニックには来ない。
明日はノアを思いっきり甘やかそうとカイルは決めた。
その直後だった。ミアが食事に手をつけなくなったのは。
ラミラは直ぐ様、体調が悪くなったのだと騒いだ。
けれど、カイルは知っていた。夕食前にミアが使用人に無理を言ってケーキを食べていたことを。
ミアはラミラに連れられて食堂を出ていった。その場に居た者たちに夜の騒ぎを予感させながら。
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