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天使様へ  作者: 百合烏賊
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余命あと…

ひどく、胸が苦しかった。

その感情を僕は前から知っている。

この感情を感じたのは、きっと最初の時。

彼女の美しく広がる白い翼を見た時から。

そして、その白い翼に相対した綺麗な黒の瞳を見た時。

まだ、声が出るというのなら、僕は伝えたい。

ただ、今の僕では、それを伝えられないし、彼女の体温を知ることも出来ない。

ベッドの上で、ただ沈み込むことしか出来ない。

ふと、涙がほろほろと、目のふちから落ちては、頬をつたっているというのに気がついた。

ヴィータは、僕のベッドの隣に、常に置いてある椅子に座っている。

彼女は、僕が泣いているという事に少し驚きながらも、その手を僕の頬へと持っていき、

涙の跡を辿るように、するりと、撫でた。

僕は、涙で汚れてしまうという意を込めて、咄嗟に彼女の手を頬からはがした。

ふと、違和感を覚え、自分の意思で動かせられる手を眺める。

動いている。

バッと、ヴィータの方を向くと、ヴィータは照れたように笑い、口を開いた。

「…私の、なんと言えばいいのでしょうか。

奇跡の力を使っております。もちろん、ユウキ様の願い事の中には、それらを含めていません。

私からの、何気ない日常の贈り物だと思ってください。

声も出せますよ。」

「あ、あー…本当だ…。でも、なんで?」

「それは……、野暮なことを、お聞きになるのですね。」

「あ、ええと、ごめん…。でも、天使だからと言って、私的に奇跡という力を使ってもいいの?」「大丈夫です。あなたの、使うはずだった…未来の奇跡です。」

「そっ、か…、うん、ありがとう、ヴィータ。」

「っ…!はい」

嬉しそうに微笑まれる。しかし、その目には、どこか切なげな感情が含まれている感覚がした。

手を動かすたびに、声を出すたびに、小さいが苦痛を感じる。

やはり、身体的には限界が来ているのだろう。

「そういえば、昨日の雨は?」

「止みました、今は少し曇り空です。」

いつもの調子に戻ったヴィータは、天気の様子を伝えてくれる。

「桜が見たいなぁ、桜って知ってるかな。

花弁が落ちると、地面に桃色のカーペットができるんだ。

桜道を歩くと、気分が上がるんだ。」

「そうなのですか」

「うん、ヴィータも気に入るんじゃないかな。

いっぱい屋台があるんだ。」

「…屋台」

「綿あめとか…ヨーヨーとか、あとはね、りんご飴とか。」

「とても、楽しそうですね。」

うん、とっても楽しいんだ。

とっても楽しかったんだ。

「うん」

僕は、言いたかった言葉を飲み込んで、代わりに笑顔で答えた。



心臓部が痛くなって、頬が熱くなって、その人を見るだけで周りがキラキラしちゃうんです。

すると、彼は私のほっぺたをムニムニと指で遊びながら、答えてくれました。

それは、恋という病なのです。

すかさず私は、天使もかかるものなのですか。と質問をした。

そうだね、と彼は答え、少し悩んだ素振りをした後に、再度笑顔でこちらを向いた。

「そうだ、天使もかかる。」

「なぜ?不必要なものだと、私は考えます。」

「君は、感情を冷凍庫にでも入れてきたのか?

いや、こうして、恋を体験しているということは、解凍している途中なわけか。

はは、面白い。その相手は誰だい?」

「…黙秘させていただきます。」

「面白い、実に面白い。ここまで長生きするものだね」

「一体何年お生きになられたのですか?」

「数えるのは、やめたからね」

そうですか。と、私は彼に目線を向けるのをため、マグカップに入ったものを眺めた。

暖かく、湯気がさらに天へと上っていくのを見て、一体どこに行くのだろうかと、考える。

「ねぇ、ヴィータ。」

「次は、何だい?」

「私の名前」

「ああ、君の名前は、そうだね、こんな名前はどうだい?」

彼の口から紡がれた私の名前は、儚くきらめいていた記憶と共に消え去った。


「ヴィータ」

「お決まりに?」

「うん、でもその前に、僕は君が好きだということを伝えさせて。」

「はい」

「最初の夜から、その白い翼も、翼と相対した黒い瞳も、笑顔も、綺麗だと思ったんだ

話を聞いてくれてありがとう、ずっと好きだ。

返事はいい、今から言う願い事は」

「お待ちください」

そう言い、ヴィータは白い肌を赤く染めていた。

瞳は少しうるみ、表情からも嬉しいということがうかがえた。

しかし、その表情の中に悩みが見えた。

「大丈夫だよ、言ってごらん」

彼女が動かせるようにしてくれた手で、僕は彼女の手を取った。

彼女の瞳から、悩みの色は消えていた。

「…奇跡というものを信じますか」

「今、天使が目の前にいるんだから、信じるよ」

「私も、奇跡の力とは別の…本物の奇跡というものを信じます。」

「本物?」

「神が関わらない、私たち天使も関わらない、人の因果のみで形成された純粋な奇跡を。」

私たちからすれば、これらは人でいう、人工的なものでしかない。

ならば、本物の奇跡をどう捉えるか。

例えば、今にも死にそうな患者が医者の力のおかげで、奇跡的に生きれるということ。

例えば、困っている人を助けた後、お礼を言われること

例えば、そう、今、大好きだったあの人に似た誰かを好きになって、また出会えているということ。

「それら全ては、全て奇跡でしょう?

嗚呼、いえ、人間でいうならば…運命というものなのでしょうか」

「そのどちらでもあるって、僕は思うよ。どっちも、幸せな事っていうのには、変わらないからね。」

「…私の名前は、ヴィータではないのです。」

突然言われ、思わず目を見開いた。

が、すぐに僕は微笑みながら、できるだけ声音を優しくして、聞いた。

「じゃあ…本当の名前を教えてくれない?」

「私の…名前……ミハーチャ…本当のヴィータがつけてくれたんです。」

そうやって、僕を見つめて話をする彼女は、とても美しく、魅入ってしまった。

「本当は…この名前は、彼が消えたあの瞬間と共に捨てていたんです。

私は、ヴィータの…成りそこないに近いものなので。

ヴィータと名乗る、偽物のヴィータでありたかった。

けれど、ミハーチャという名前は、運命という意味がある、ヴィータはそう言ったんです。

だからこそ、私は、その運命を捨て切れなかった。

今、それを名乗れるというのは、とても心が温かくて…ええ、恋をしているような。」

そんな気分です。と言い、目を細めた。

虚空を見つめながらも、その瞳から溢れる感情に、僕は全てを察した。

ちょっと、コピペ用に

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