5。おもちゃみーっけ
とまあ、たった数言で、父親の方は大体分かった。
出世欲が無い人間が場違いな所に呼ばれたら、失礼にならない範囲で気配を消しつつとっとと用件済ませて帰りたいということなのだろう。分かる。
となると、重要なのは娘らしい。
父親の黒っぽい色と違って、夕日色というか、元の世界は私みたいな鮮やかな色の髪の人は居なかったから、あっちで言う赤毛に近い。同じような色の瞳も合わせると、母親というのはうちの縁戚なのだろう。まあ、南方は大体どこかで繋がってるけど。
「ユリアーナ様、おたんじょうび、おめでとうございます。ライラともうします。よろしくおねがいします」
「ええ、ありがとう」
父親に似たのか、年齢の割には良く通る声でこちらも型通りの挨拶をする。
にっこりと社交辞令の笑顔を浮かべると、ライラはほっとしたようにクロード男爵を見上げようとして、やめた。事前に注意されてたのだろう。話の途中で主賓から目を離すのは失礼だと。
さて、改めてライラを見てみた。
そこそこ可愛いけど、そこそこ。平民なら文句なし。でも、美男美女の血を入れてきた高位貴族の令嬢に比べると見劣るというか、視界に入らない。
そんな子。
じーっと見てると、少し眉根を寄せた。
更にじーっと見てみる。
僅かに口を尖らせた。でも、目をそらさない。
更に更に見つめる。
ぷるぷる震えてるけど、まだ頑張ってる。
うん、君が失敗すると婉曲的に父親の首が飛びかねないからね。
健気に頑張るところはちょっと可愛い。
「ねえ、お父様。わざわざライラさんを紹介してくださるのは、私の侍女になるの?」
視線を逸らしてあげるために、お父様に尋ねてみる。
お父様はよくできました、という表情を浮かべた。
「侍女のようなもの、かな」
軽く眉を上げる。我が父ながらこういう所作がいちいち男前だったりする。
「行儀見習いでもう少し大きくなったら我が家に住み込むことになるが、まあ、友達だと思って仲良くしてあげなさい」
うーん。益々分からない。侍女ならこんなに早く紹介しなくても家でいいし、『お友達』ならもっと相応しい身分の子供たちが今日のパーティーにも来ているし、本人が侯爵令嬢とお近づきになったことを喜ぶよりもビビってるし。
見所が魔力がちょっと高いかな-、というくらい。
ま、政治的な何かなんだろう。
ということで、お腹が空いてきた。
茶番は早めに終わらせよう。
「はい、なかよくしてね、ライラ!」
ぎゅっと手を握ったら、この子はビクッとして反射的に手を引っ込めようとして、耐えた。前世にも居たなぁ、こういう人見知り。大丈夫か。
面白いので、両手を離して腕に絡みついて、ちゅっ、とほっべにキスしてみた。
呆然として、次に赤くなって、また呆然としている。
初々しいなぁ。
両方の父親はおやおやという表情で微笑ましい視線を投げかけてる。いや、貴方の娘、ものすごくキョドッテマスヨ?
「それでは、失礼します」
親同士の挨拶が済んだら、はっとライラは我に返って、クロード男爵にしがみついていた。あ、でも、ちゃんと退室の礼は取った。
あの子がこれからも遊びに来るなら、とてもおもしろ......いや、愉しそうな予感がした。