表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
間章 魔女達の夜と流星の姫巫女
99/230

③流星の姫巫女 1 「笑顔を咲かせる魔法使い!」



「う、うう、ぅぅぅ……ひっく、ひっく……」



 とある森の中。血まみれ、泥だらけになって泣いている少女がいた。

 自分の服や顔に付いている血は自分のものではない。自分の「両親」のものだ。



 父も母も殺された。「人間」に。



 旅行へ行くためにマナダルシアを出た矢先、「ハンター」に見つかり、自分達が「魔人」であることがバレてしまった。


 そこからは信じられないほど、淡々(たんたん)と、命が消えていった。


 最初は父、次は母、と。2人のおかげで森の中に身を隠せてはいるが自分の命が消えるのも時間の問題だ。今もハンター達が逃げた自分を(さが)している。



 グルルルルル…………!



 そこに、人間以外の声─獣の(うな)り声が。

 目を向けると、こちらに獰猛(どうもう)な牙をチラつかせる「ウィンドタイガー」が。


 車のようなデカさの体。剣のごとき(するど)さの牙。そして「風属性の魔力」を携えて周囲の木の葉をまき散らしながら進んでくるその姿は強者であることを誇示(こじ)しているようだ。

 ランクBに(ひょう)されるこの「ウィンドタイガー」はそう簡単にお目にかかれない魔物だ。だが、出会うとするなら第一に浮上してくる理由が1つある。


  「それはここが奴の縄張(なわば)りだから」


 ウィンドタイガーは好戦的な魔物ではない。無駄な争いはしない。しかし、自分の居場所を踏み荒らす者には容赦(ようしゃ)しない。

 少女は逃げることに精一杯でウィンドタイガーの縄張りに入っていたことに気づいていなかった。知らぬうちに奴の機嫌を損ねてしまっていたようだ。


 少女は「魔法使い」だ。だが、魔法を上手く使えない。魔法の学校で戦闘魔法の練習なんてほとんど習っていないし今は「杖」も持っていなかった。

 そんな彼女にこの獣に抗う術があろうか。次には腹を食い破られ、手足を噛みちぎられ、顔面を噛み砕かれるだろう。


 嫌なイメージが頭を流れる度に吐き気がこみ上げてくる。自分が目を背けたくなるほどのグチャグチャとした肉塊(にくかい)になるのかと思うと眩暈(めまい)がしてきて泣き出す余裕すらなく、ただただ荒い呼吸を繰り返すばかりになってしまっていた。


 かくしてウィンドタイガーは飛びかかる。少女は腕で無意味な防御をとる。




 ……。…………。



 あれ?



 痛みが……来ない。まさか痛みも感じないくらい素早い攻撃だった?

 いや、体を確認してもどこにも傷はない。腕もしっかり繋がっている。場所もまだ森の中。死んだわけでもない。


 なら……どうして自分は無事で─



 気づくと、目の前には首が切断されて血のシャワーを噴き出すウィンドタイガーの体が転がっていた。



「え……」



 それだけではない。少女が驚いたのは実は、そちらではなかった。


 そのウィンドタイガーの体と、自分との間に立っている1人の少年。


 きっと同じ歳だろう。それなのに歳とかけ離れた一人前の戦士である雰囲気を漂わせている。

 少年の手には光り輝く「白銀の剣」。ウィンドタイガーを亡き者にしたのは彼の仕業だ。


「あ、あの……あなた、は……?」


 目前の恐怖から解放されたせいなのか、呆然(ぼうぜん)としている自分の口から自然と言葉が()れた。まだ彼が味方と決まったわけではないのに。


「大丈夫か?」


 自分の言葉なんか無視してその少年は安否(あんぴ)なんかを聞いてきた。


「大丈夫……ですけど……」


「そうか。なら、この先を真っ直ぐと進め。そうすれば魔物と出会わずに森を抜けられる。それと、これを持っておけ」


 そう言って少年はある紋様が刻まれたメダルのような物を渡してきた。それは()()()()()()()()()()()()()()()()である。これがなんだというのか。


「俺の家の……家紋のようなものだ。それを見せればハンターには(おそ)われない。安心して逃げろ」


 ハンターには(おそ)われない。なぜこの少年がそんな代物(しろもの)を持っているのか。しかし、それよりも気になったことは、


「あなたも、ハンター……じゃ……」


 魔力を一切感じないところかして人間なのは確実だ。そしてウィンドタイガーを一撃で(ほふ)るほどの実力。明らかに普通の人間ではない。

 ハンターなら、どうして自分を殺さないのか。自分の父と母を殺したハンターと同じようにしないのか?



「俺は自分の『敵』しか斬らない。もう嫌なんだ……何も考えずに斬って、大切な物を失うのは……」



 その声からは……過去を後悔しているような。そんな気がした。


「あなたは……強いんですね。羨ましいです。私も、もっと強ければ……」


 それなら、父や母もハンターから守れただろうに。そう思うと悔しくて、涙が(あふ)れてくる。

 その様子を見た少年は


「強くなることなんて簡単だ。もっと大事なのはそんなことじゃない」


「もっと……大事な?」


「ああ。誰かを笑顔にすること。強くなるよりもそっちの方が何倍も難しい。努力するなら、復讐を望んで強くなるよりも、世界の平和のために誰かを笑顔にする力でも身に付けろ」


 その少年にも思うところがあるのだろうか。どこか自分の経験からくる言葉は自分の心に深く刻まれた。


 少女は受け取ったメダルを握りしめ……立ち上がる。



「私……は、ミー……ティア。『ミーティア・メイザス』。あなたは……」


「俺はアレ─」




「おい! そこに誰かいるぞ!」



 突如、こちらに気配を発見した者の声が。少女─ミーティアは体を震わせる。

 いくら持っていればハンターに(おそ)われないという彼の家紋があったとしてもこんな森の中でハンターに見つかれば逃れることも難しい。


「早く逃げろ。俺が奴らを引き留めておく」


「あ……」


 彼の名前を聞けなかった。けど、今はそれどころではないとわかっている。

 ミーティアは彼に背を向けて歩き出そうとした。でも、それでも……一言だけ。




「また……どこかで会えますか?」


「さぁな」




 その少年は素っ気なく、それだけ言って自分とは別方向に歩いて行った。追ってくるハンターを引き付けるために。


 どうして「人間」の彼が「魔人」の自分を助けてくれたのかはわからない。今は前に進もう。

 復讐に生きるんじゃなく、誰かを笑顔にする。そんな未来を手にするために。




   ♦




 昔、昔、あるところに人間の男の子と羽の生えた不思議な女の子がいました。

 その2人は「種族」こそ違えど、偶然な出会いから「友好」が生まれました。


「……ティア」



 いつしかその2人の「友好」は「愛」へと変化しました。

 2人が住んでいた国はその「愛」を祝福します。それが、「種族の友好」になると信じて。


「……―ティア! おい!」



 しかし、突然それらの国同士で争いが起きてしまいます。

 子の血は流れ、負けた者の尊厳(そんげん)は踏みにじられ、絶望の(うず)と化しました。

 そして、人間の男の子が愛した相手の種族の女の子も、その例外ではありませんでした。

 人間の男の子は怒りました。争いを続ける「世界」に、間違いを選んでしまったバカな「種族」達に。

 そして、人間の男の子は─



「ミーティア!!」


「うわわっ!」



 突然、自室の扉を勢いよく開かれて少女はベッドから転げ落ちる。


「まーた物語の本を読んでたのかい。ほら、朝ご飯の時間だよ」


「ご、ごめん。おばあちゃん……」


 自分の祖母にあたる彼女は怒っていた。それもそのはず。せっかくご飯を作ったのに呼んでも部屋から出てこないとなれば怒るのもわかる。しかもそれがほぼ毎日となれば……。

 自分は物語の本を読むのが大好きだ。だが読むのに集中しすぎて周りの音をシャットアウトしてしまう癖がある。

 そのせいでよく祖母からは今回のように怒られるのだ。


 それに……



「人間が主人公の物語なんか読んでると変な目で見られるわよ?」


「えー! でも面白いもん!」



 これだ。これのせいで自分の趣味は祖母からよく思われていない。


 物語ならば主人公が「人間」だろうが「魔人」だろうが関係なく読むのだ。だって面白い物は面白い。人間だって主人公が人間じゃない物語も読むはずだ。それと同じ。


 ただ、人間と魔人の仲を考えれば……普通でないこともわかる。


「ほどほどにしなさいよ」


「むー……はい」


 ほどほどにしろと言われてほどほどになるなら毎日怒られはしない。きっと明日も同じだ。



「おうミーティア。また本を読んでたか!」


「うん。おじいちゃんがくれたあの本すっごい面白いよ!」


「そうかそうか。そりゃ良かった」



 リビングに降りると祖母に怒られた自分に祖父が笑いかける。

 祖母と祖父で反応がまるで違う。その理由は簡単だ。なんといったって自分に物語の本を読むことを(すす)めてきたのは祖父なのだから。


 本の世界は良い。自分が見られない素晴らしい景色。魅力的な主人公。胸躍るような冒険。全てがそこにある。


 その祖父の言葉が心に響いた。数年前に両親を失った自分には光り輝く()り所となっていた。

 祖父のせいで自分がこうなっていれば祖母も頭を痛めるのも仕方ないが……。



「あ! そういえば今日の分まだ出してない!!」



 朝食を終えるとミーティアは思い出したように席を立って自室に飛び込んだ。それに祖母は「またか」と顔を(しか)めた。


「あの……なんじゃったか。動画を出すやつじゃろ……ほら……」


「『マジック☆チュービー』でしたっけ? 若い子がハマる物はよくわかりませんねぇ」


 マジック☆チュービー。それはマジックフォンの中にある動画共有のアプリ。ユーザーがアップロードした動画を無料で見られる、マジックフォンを使う者なら誰もが使っているものなのだ。


 面白い動画を出せば「いいぜ!」がつけられ、さらには自分のアカウントを専用チェック─「チャンネル登録」されるようにもなる。

 さらには動画に広告をつけて、多くの人に見てもらえればお金だって手に入るのだ。

 そして、その中でも動画を投稿して広告収入を得る者を「マジ☆チューバ―」と呼ぶ。



「はいはーい! ミーティアチャンネルの時間でーす! 今日は~『絶対に炎を鎮火させる水を出す魔法道具』と『絶対に鎮火させられない炎を噴き出す魔法道具』をぶつけてみたいと思いまーす!」



 ミーティアはカメラの前で笑顔を見せる。本の虫のような彼女だがここでは明るく、だ。



 そう。何を隠そう。私こと、ミーティア・メイザスは……「マジ☆チューバ―」なのだ!






「さてと……編集編集。あ~絶対あの『絶対に鎮火させられない炎噴き出すマン』とかいう魔法道具不良品だよ……服ビショビショになっちゃった……」


 部屋の中では危ないので件の動画は外で撮ったのだが……例の炎を出す方の魔法道具がどう見ても売り文句ほどの力はなく数秒で鎮火した。それよりもその相手となった「絶対鎮火させる水を出す方」の水の威力が予想より何十倍も強くて全身びしょ濡れになったのだ。


 ともかく動画は撮れた。あとはこれを上手く編集で面白く加工して、「マジック☆チュービー」に投稿すれば出来上がりだ。広告はつけやしない。

 自分の目的は皆を笑顔にすること。この動画で誰かが笑顔になってくれればお金なんてどうだっていい。


 ……といっても、自分のチャンネルの登録者数はまだ50人ほどだが。これで皆を笑顔にするとは胸を張って言えない。



(い、今はまだまだだけど……いつかは登録者100万人の人気者マジ☆チューバ―になるもん!)



 そしてゆくゆくは超人気マジ☆チューバ―の頂点に……!


 人気になった自分を想像するとニマ~とだらしなく笑ってしまう。物語を読むようになってから身に着いた想像力の豊かさがこんな意味のないところで発揮される。


「それに……いつかあの人に会えた時に見せてあげたいし」


 自分を救ってくれた人間の男の子。名前は聞けなかったけど今でも彼との再会を望んでいる。その時に言われた「誰かを笑顔にする力」を身に付けようと頑張ってもいる。

 彼と再開した時、恩返しというわけではないが……自分の撮った面白い動画を見せたいのだ。


 そして笑ってほしい。まるで笑うことを忘れてしまったかのような冷たい顔をした彼を笑顔にしてあげたい。


 そのために自分はマジ☆チューバ―になったのだ。……今はまだ弱小だとしても。



 ……が、有名マジ☆チューバ―になる前にならなければいけないものがある。


 それはなにか?




 それは……「一人前の魔法使い」だ。




「あ……明日、アーロイン学院の試験だ……」


 ミーティア・メイザス。人生最大の危機はそこにあった。




   ♦




 魔法使いは7歳~10歳までの3年間は「魔法使い養成学校」で基本的な魔法を学んだり魔力の扱い方を訓練したりする。つまり「戦い方」を覚えるのだ。


 そこからさらに16歳までの6年間は「アーロイン学院付属学校」で魔法を学ぶ。ここでは魔法使い養成学校で練習した魔法を実戦で使用する訓練が主だ。


 いくら魔法を覚えても敵を前にして怖気(おじけ)づいたりしては意味がない。魔物を相手に魔法で攻撃したり防御したりの訓練をみっちりと行っている。それと将来の進路を考える時期でもある。 



 そして……アーロイン学院。



「や、やば……」


 ミーティアはアーロイン学院を前にして顔を青くしていた。


 アーロイン学院付属学校を修了してから数カ月あった休みの期間。その間に動画作成や物語の本を読んだことは幾度(いくど)とやってきたが肝心の進学のことを考えていなかった。アホすぎる。


 といってもアーロイン学院の試験は自分が入るコースによって異なる。


「魔工コース」なら筆記試験と技術試験。

 筆記試験は魔法道具や魔法武器の知識に加えて、自分が専門とする分野の魔工の基本的知識に関する問題。技術試験は簡単な魔法道具の基礎となる部分の作成だ。


 「魔法騎士コース」「魔女コース」のような戦闘が視野に入るコースに筆記試験は存在していない。代わりに討伐試験がある。

 用意された別空間に配置されている魔物を倒し、それによって得るポイントで優劣を決めるのだ。


 普通はアーロイン学院への受験が迫るとマナダルシアを出て魔物を魔法で狩ったりと練習をするのだが……



(わたし……なにもやってない!!)



 受験を前にして受験勉強を一切やっていないと言っているのと同じ。それだけでもヤバイことだが、ミーティアはそれとは別に「致命的な問題」を抱えていたりもする。



 それのせいで……付属学校時代は苦労したことも。



「とにかく……な、なんとかなるっ!」



 今更焦っていても仕方ない。とりあえず学院の中に入らねば。そう思って進むと……


「あっ、ごめんなさい!!」


 ドン!と人とぶつかってしまった。そのせいで自分と相手の持っていたカバンから中身をぶちまけてしまう。


「いえいえ……大丈夫ですよ」


 怖い人だったらどうしよう……と受験で青くした顔をさらに青くさせていると、相手はとても優しそうな青年だった。それでミーティアは安心する。


「もしかして受験生ですか?」


 お互いに荷物を回収していくとその青年が問うてきた。アーロイン学院前にいる若い魔法使いならそう思うのも不思議ではない。


「は、はいっ! 受かるかは……わかんないですけど……あはは……」


 ミーティアは苦笑いでそう告げる。これは謙遜でもなんでもなく正直な答えだ。受からなかったらまた来年である。


「君ならきっと受かるよ。自信もって。……はい。荷物拾っておいてあげたよ」


 青年は勇気づける言葉を送りながらミーティアが落としていたカバンを渡してくる。なんと心優しい人だ。


「ありがとうございます!! あの……お名前はなんて言うんですか?」


 これも何かの縁だろう。名前を聞いておこう。受験が無事終わった後に会うことがあれば挨拶するくらいには親しみたい人でもある。



「名乗るほどの者でもないけど……僕の名前は『ディバイン』。君は?」


「ミーティア・メイザスって言います! えへへ……ディバインさんっていうんですね。では、また会うことがあれば!」



 ミーティアは手をブンブン振りながら笑顔で別れる。まさか受験を前にしてこんな出会いがあるとは思わなかった。良き出会いである。そう本当に……




()()()()()()()()()()()()()()()()()。君ならきっと……試験を突破するさ。君ならね」




 ディバインは薄く笑って……その場を去った。彼の持っていたカバンは()()()()()()()()()()()()ようにも見えた。




   ♦




 その後、わたしは受付を済ませて受験番号を受け取り待合室に行った。番号は「777」。ラッキーセブンだ。やった。


 カバンをどっかりと机の上に置いて席に座る。周りを見渡すと……色々な魔法使いがいた。


 魔術書を読んでブツブツと呟いている女の子。杖を磨いて試験を待ちわびているような女の子。魔女といっても女だけではないので詠唱を確かめている男の子もいる。


 中でも一番目を引いたのは……



(わぁ……この子綺麗……)



 自分の横に座っている女の子だった。雪のように白い肌と髪。蒼い海のような深さのブルーの瞳。そして纏っているのは……確か「日の国」にある服だっただろうか。下がスカートのような丈にまで切れている珍しい和服を着ていた。

 さらには魔女には珍しく……腰には棒のような形の細い剣を提げていた。魔女だというのに「杖」以外の武器を持っているのは本当に不思議だ。


 そして、物語の中から出てきたかのような綺麗なその女の子につい目を奪われてしまった。そのせいだろうか。


「……何?」


 こちらの視線に気づかれてしまった。


「へ!? いや~その……なんでも……ないです」


 見ていたのはこちらだがいきなり話しかけられるとは。ビックリしてしまい不審な態度を見せてしまう。


「そう……」


 何もないなら、と自分から興味を失くしてその子は別の方向を向いてしまった。そんなことや容姿のことでも気になり……机の上に置かれていたその子の受験番号の書かれた紙を見る。


 そこには、



「745  ヒョウカ ヒイラギ」



 と書かれていた。


 ヒョウカ……ヒイラギ。変な名前だ。ああ、でもこれで納得がいったかもしれない。この子は服といい、名前といい「日の国」の出身だ。


 「日の国」とは人間の主要国の1つ。……が、それでも魔法使いがいないわけでもないのだ。

 国の中、もしくは近い別の場所に独自の生活圏を確保している魔法使い達もいる。それは魔法使いの国から離れて移り住んだ魔法使い達。移住には色々と理由はあるだろうがそれはここで語ることでもない。

 その結果、「日の国」の文化を取り込んだ魔法使いもいるとかいないとか。それをこんなところでお目にかかれるとは。結構珍しいことなのでそのことに一番驚いてしまった。


(わたしも何かした方がいいのかなぁ……)


 周りの試験に備えている様子を見ると自分も何かしなくちゃと思えてくるが……



『7番の部屋にいる試験生はDルームに移動してください』



 魔法による放送が部屋に流れてきた。7番……これは自分達の部屋である。

 その放送と同時に部屋の中にいた者達はゾロゾロと移動していく。横に座っていた和装の女の子も席を立った。自分もこれに続かなくては。



 とても広いDルームに7番の部屋にいた試験生が集まる。そして集まった80人ほどの試験生の前には1人の女性が。



「集まったわね。私は『マルタ・カライン』。アーロイン学院魔女コースの教師、そして試験官を任されているわ」



 眼鏡をかけたスタイル抜群の女性である。しかし、ここの試験生はそんなところに目を見張るよりもまず注目する部分がある。



(すごい魔力だ……!)



 ほとんどの試験生はゴクリと喉を鳴らす。

 アーロイン学院の教師ともなれば魔力量は生徒のそれと比べ物にならない。魔女コースに入る魔法使いは皆、魔力感知を得意とする。だからこそ目の前にいるマルタの魔力を感じるだけで相当の実力を測ることができた。


「試験内容は討伐! 今から学院が用意した別空間へと行ってもらい、そこにいる魔物を討伐してもらうわ。制限時間は1時間。討伐数ではなく魔物の強さによって決められているポイントの総数で合否を決める。だから強い魔物を倒せば一気に逆転も狙えるわね」


 この試験内容はどの年も同じ。魔法騎士の方の試験とも同じだ。試験生達はそのために準備を済ませてきている。


「あなた達の合格を願っているわ。じゃあ行くわよ……『ラーゲ』!!」


 (まばゆ)い光に包まれて……目を開けると、そこは広大な世界。ゴツゴツとした岩や綺麗な大空が広がる大地のフィールド。これこそが学院が試験のために用意した魔法空間だ。


 この空間に移動したことが試験開始の合図でもある。試験生は杖を取り出して走り出した!



「わ、わたしも……!」



 自分も準備しなきゃとカバンから杖を取り出す。……が!



「あれ……?」



 取り出した杖は……黒色に塗られ、先の部分には眼のような模様が描かれた不気味な物だった。

 自分の杖はたしか木で造られたベーシックな形のどこにでも売っているような杖だったはず。間違ってもこんな物ではない。



(あ……まさかあの時に……!!)



 ディバインという青年とぶつかった時に持っていた「杖」が入れ替わってしまった!?



「え、えええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?」



 まさかの慣れていない初めましての杖を握ったまま立ち尽くすミーティア。


 もう試験は、始まっている……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ