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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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85話 紅の舞踏会


「一々うるさいぞ」


 アレンは虚空へ手をかざす。もう「魔王の力」の発動条件はアストが満たしてくれていた。

 「死を感じる」という条件を。



「顕現せよ! 絶望の渦から一片(ひとひら)の勇気を照らし出す魔法陣!!」



 城の天井に黒の魔法陣が出現する。



「来い、我が眷属。『漆黒竜 バハムート』!!」




「グギャガアアアアアアアアアアアアア!!!!!」




 黒の魔法陣から王の呼び声に応じて漆黒の竜王が馳せ参じる。シャンデリアを破壊し天井を突き破りながらその巨体を現した。


「俺に力を寄越せ」


 命令と共にバハムートは漆黒の剣となる。特殊魔法武器【竜王剣 バルムンク】に。



「人間で、魔王後継者……! ベルベットが気に入るのもわかりますわ。これを魔人の世界に連れ込むなんて大問題ですわね」



 リーゼは真紅の剣を生成してそれを掴む。ここからは剣の舞踏会だ。



「さぁ、嫌いな方のアストさんはどんな風に私と踊って─」



「お前と踊るつもりはない」




 ズパッ!……と何かが切断された音。リーゼの剣を掴んでいた腕が宙を飛んでいた。


「あらぁ……? ……くふっ!!」


 片方の腕を失ったことで左右のバランスが崩れてよろめくリーゼに容赦なく2つ目の斬撃。しかも今度は首を切断された。


 目も当てられない姿になったリーゼ。しかし、首から噴水のように出る血が腕の形となって転がった首と腕を掴む。そのまま巻き戻しでも見ているかのごとく修復されていった。


「嫌ですわね。これじゃ私が化け物みたいですわ。あんまりこんな再生をさせないでほしいのですけれど」


 また傷1つ付いていない状態に戻った。アレンの最悪な相手であるのは確定だ。


 それでも続けるしかない。同じことを。



 リーゼとアレンは剣を交える。リーゼの体がまた斬られる。体から出血するが、その血が棘の形となってアレンに襲い掛かる。

 アレンはそれを楽々躱す。わかっていたのではなく「見て」から簡単に避けられた。


「なら、これはどうですの?」


 リーゼは下がる。アレンがそれを追おうとするとベシャっと何かを踏んだ。それは……リーゼの血液。眼球を深く切断した時のもの。



「『ブラッディ・カントレス』」



 アレンの踏んだ血液が鋭い棘となって上に噴き出す! これを踏んでいた者は下から串刺しになる技だ。


 ……アレンの姿はもうすでにそこから消えていたが。



「がっ!!」



 リーゼは腰を斬り裂かれる。アレンは攻撃を避けると瞬時にリーゼの死角に移動していた。


 が、すぐにその傷は修復。それどころか一瞬溢れ出た血液で新たな技を使う。



「『ブラッディ・レクスワイア』」



 血液が増殖してアレンよりも3倍ほど大きな蝙蝠の形となった。それは吸血鬼を思わせる鋭い牙を見せてアレンへ襲い来る。



「『ブラックエンドタナトス』」



 『ファルス』を吸収させ、発動した闇魔法により漆黒の大剣と化した【バルムンク】がその大蝙蝠を即切断。血液で造られた怪物はなんの活躍もできずに消えた。



「人間が魔法……! 興味深い武器ですわね……」



 戦闘中に探求心を見せてしまう。そんなリーゼに当然の罰がくだる。


「かふっ!!!!!」


 リーゼの口に【バルムンク】の蒼く発光する刃を突き入れられる。後ろまで貫通した後に引き抜かれるが……それも修復。



 

 全ての致命傷が……無駄に終わっていた。




「やっぱり貴方の方のアストさんは嫌いですわぁ……。全然お喋りしてくれませんもの」


 リーゼは2つの真紅の剣を掴み、さらに空中に10本の真紅の剣を血液で生成した。

 それら全てを操ってアレンを攻めたてる。アレンの武器は【バルムンク】のみ。それでも12本の刃を相手にしてまったく表情を崩さない。どれもカスリもしない。

 それどころかリーゼばかりに切傷が増えていた。


「くっ……ああ、2人のアストさんでこれほどに違うなんて。でも、残念ですわ。今のアストさんに私を殺す手段がない。いえ……『手段はあるけど今は使えない』って顔ですわね」


 アレンの表情からリーゼは事細かに読み取る。別に表情に出てはいなかったがこれほどの実力を持っていたとしても、再生能力を前にして余裕の表情を保っているのは普通ではないからだ。


 そしてそれは当たっていた。アレンにはリーゼを殺す手段を持ち合わせていたのだが都合により「今は」使用できないものだった。



「あと勘違いをしてもらっては困りますわ。私が今のアストさんを殺せない……と思っているんでしょうけれど、先程までの攻防で私は手加減をしていましたの。具体的に言えば貴方が攻防の中で見せていたわずかな隙を『わざと』見逃していたんですのよ? 数で言えば4回ほど」



 リーゼはアレンの完璧に見える攻防に隙を見つけていた。それも4回。全てを見逃して殺さなかったんだぞと言い張る。


 アレンはそれでも表情を崩さない。


「そう思うのは勝手だが俺も気づいているぞ。お前は何かの理由で今は『属性魔法』が使えないんだろ?」


「! へぇ……なぜそう思いますの?」


「俺はお前ほどお喋りじゃない。自分で気づけ」


 そうまで言われると、リーゼはすぐに気づいた。アレンが見せていた「4回の隙」。あれは全て「わざと見せられていた隙」だったのだと。

 思い出せばそれらの隙は全て、吸血鬼の「特性」では仕留めきれない、何か別の攻撃─「魔法」を使わないと当てられないような絶妙なタイミングと位置だった。



 

 ─試された?




 リーゼの属性魔法は不明なままだった。その属性魔法が自分にとって致命的なものである場合を考えてアレンは早々にその正体を暴こうとわざと隙を見せた。

 そこでもリーゼは属性魔法を使わなかった。本人は「見逃した」と言っているがそこまで頑なとして属性魔法を使用しないとなると答えはただ1つ。



 リーゼは何かの理由で「属性魔法」を使用できない状況にあるということだ。



「バレましたのね……。ええ、その通りですわ。私の属性魔法は色々と事情がありまして今は使えないんですの」


「本当によく喋るな。お前は」



 簡単にバラしてしまう。今、自分は属性魔法を使えないと。

 なぜ、そんなことをわざわざ言ってしまうのか。リーゼにはアレンについて気づいていることがもう一つあった。



「だって……これが貴方と最後の会話になるかもしれませんもの。ねぇ?」



「!」


 アレンの攻めはあまりに急ぎすぎていた。決着とまでは言わないまでも、早く自分を弱らせよう、とにかく攻撃を当てよう、と。



 まるで「時間制限」でもあるかのように。



 これはアレンが未熟だったからバレたわけではない。アレンは元々時間制限を抱えて戦うことなど経験がほとんどなかった。そのためか無意識のところで戦闘に出てしまっていたのだ。


 時間を気にして戦う心が。



 そして、リーゼの言葉を合図とするように。


(ここまでか……!)


 アレンは意識が闇に塗られていく感覚を得る。これは人格が代わる予兆だ。



 15分のタイムリミットが……来てしまった!



 アレンは一度たりともリーゼの攻撃は受けなかった。逆にリーゼへ当てた攻撃は数知れない。それこそ致命傷の数を見れば何度相手を屠ったか数えきれない。けれども、リーゼを仕留めることはできなかった。


 異能をフルに使用せず、「魔王の力」も見せすぎないようにしていたこともあって全力とは程遠いがそれでも「勝負に勝って試合に負けた」という言葉がこれほど当てはまるものはない。



 そして意識が闇の中に沈み切った時、そこに立っていたのは……



「リーゼ……!」


「クスクス♪ アストさん。お久しぶりですわね……!」


 魔法も異能も使えない、アスト・ローゼンだ。



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