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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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81話 ブレイドフェアリー


 ~ミルフィア・ライハside~


 リーゼの魔法道具によりアスト達と分断されたミルフィアとライハは結界の中でベリツヴェルン家長男のロシュと対峙していた。


「貧乳とチビか。……こりゃハズレ引いちまったなー」


 ロシュは2人の体をジロジロと気持ちの悪い目で眺める。

 元々感情の薄いライハ、そして戦闘になるとスイッチを入れるミルフィアはそんな汚いロシュの視線にも動じない。


「ライハ様。先に言っておきますがフィアはベルベット様の使用人の中でも諜報・暗殺の仕事を行っています。正直、このような正面からの戦闘はあまり得意ではないです」


 ミルフィアの仕事は諜報活動と暗殺。敵に見つかるまでに相手を仕留めることは得意だが相対しての戦闘は不得意だ。

 ミルフィアにとっては敵に見つかることこそが失敗になるのだからこのような形での戦闘は好ましくなかった。


「フィアが時間を稼ぎますのでライハ様はその間にどこかへ逃げて隠れてください。命は保証できません」


 これは決してライハをバカにしているわけではない。ミルフィアにとってアストの友人は守らなければならない対象だ。自分がロシュに勝てるかどうか確定しない以上はライハの命を危険に晒すことはできない。


「それは無理。わたしも一緒に戦う」


 かといってそれで了承するライハではない。ここには戦うために来た。ましてや仲間を置いて逃げることなんてできるはずもない。


「……わかりました。では、後方からの援護をお願いします」


 ライハの武器は銃。後方からのサポートに優れている。前衛がベルベットの使用人というなら弾が間違って当たることはない。安心して援護ができる。


「何をごちゃごちゃ喋ってんだ。来いよほら、ガキ」


 ロシュは相手を見下し挑発する。ミルフィアもライハとの相談も済んだのでそちらに向き直る。

 ミルフィアは虚空に手を添えると別空間にストックしていた自分の「魔法武器」を引き寄せる。



「【ミドラージュ】」



 アストの【バルムンク】と同じ剣型の魔法武器。金色の柄に、鞘から引き抜くと銀に輝く刃。その刃には幾何学模様が幾重にも刻まれている。

 変なところはない。どこにでもありそうな魔法武器。それなのにライハはこんな魔法武器を見たことがなかった。


 魔法武器にも魔力が流れているのだが、【ミドラージュ】に流れている魔力は酷くグチャグチャで流れも不規則。形状は「普通」なのに「普通」ではない異質さがその剣には込められている。




「ベルベット使用人序列7位、ミルフィア・シルヴァッド─参ります」




 ミルフィアは戦闘が苦手と言っていた。ライハはすぐにでも助けられるように身構える。

 ライハはミルフィアの使っている魔法武器である【ミドラージュ】の能力を知らなければ属性魔法も知らない。


 これは事前準備を怠っていたわけではない。ベルベットの使用人は自分の武器と魔法だけは誰であってもベルベットと使用人以外には話してはならないというルールがあるらしく、そのせいで情報共有ができなかったのだ。

 非常時であってもこのルールだけは破れないらしい。というのも使用人は使用人同士での連携が推奨されている。これは他人と組むことでそこから情報が漏れないようにするためだ。


 そこまでして徹底しているわけだがライハはもしかするとかなり貴重なシーンを見ることになるのかも。それなのに喜べもしないのはこれが「戦闘」だからか。



 ミルフィアは駆けた。はたしてどれほどの実力なのか……、




 そんなライハの心配を嘲笑うかの如くミルフィアは一瞬にしてロシュの懐に潜り込む。




「あん? あのチビどこに行っ─」



 当のロシュはまったく気づいていない。ミルフィアの動きを目で追うことすらできていなかった。


 ミルフィアは【ミドラージュ】の刃でロシュの「顔面」を容赦なく逆袈裟に斬り裂く!!



「がっっっばっ!!!!!!!」



 いきなり顔に斜めの裂傷を刻まれたロシュは驚きと激痛の混じった悲鳴を上げる。口を跳ね上げられるように斬り裂かれたことから変な悲鳴になってしまっていた。

 本人からすれば悲鳴などどうでもいい。ただそこに「痛み」があった。それが重要だ。


「この……ガキ……!」


 ロシュは激昂して吸血鬼の特性である「血の変質化」で真紅の刃を作り出そうとするが、



「ば、あ、へ!!!」



 またもや顔面に3連斬。


 そこから胴体に5、両脚合わせて17、両腕合わせて29。全てミルフィアが数秒間に斬り刻んだ回数だ。


 吸血鬼にとって傷ができればそこから血を出して攻撃に変えることができる。だが、ミルフィアの息をつく間もない神速の斬撃にそれどころではなかった。


(さい、さいせ、を)


 ロシュは傷を修復しようとする。ロシュの体の斬られた箇所がすぐに治っていくがミルフィアはそれを許さない。



「【ミドラージュ】─分裂開始」



 ミルフィアが魔法武器に魔力を込めると……【ミドラージュ】は2つに増えた! ミルフィアの空いていた片手にまったく同じ形の剣が握られる。


 そう思った矢先……さらに3つ、4つ……8、16と【ミドラージュ】はどんどん増えていく。


 【ミドラージュ】は魔力を込めることで武器が分裂していく奇妙で不思議な魔法武器。幻覚などではなく増えた【ミドラージュ】は完全に質量を持った物体。「分裂」というより「瞬間複製」と言える。



 ミルフィアは【ミドラージュ】をロシュの体に突き刺しては増やした新たな【ミドラージュ】を手に取ってまたロシュの体に突き刺す!



「ばば、ぼ、が、ぎぎぎ、ちょ、待っ、ごっ! 待っ、……ばばばごぼぼぼ! あ、ああああ、ああ、い、べぼ! 待っ、ま、おっ、おっ、まっ─がぼっ!!!!」



 今や42本の【ミドラージュ】がロシュの体に突き刺さり、それに加えて体中全てを覆うほどの真っ赤な裂傷。


 血の噴水を出す赤のサボテンがそこにはあった。


「んっ!!」


 ミルフィアはトドメと言わんばかりに【ミドラージュ】を一気に8本ロシュの体中にぶっ刺し……それを合図にロシュはバタンと倒れた。






「え……………………よわ………………」





 返り血を浴びまくっていたミルフィアは機械のような無機質な表情でボソリと呟いた。


 相手が吸血鬼というので油断せずに【ミドラージュ】の分裂限界でもある50本を全てを使い切って最後まで攻め続けた。それなのだが……どうやらそこまでする必要はなかったみたいだ。

 相手が吸血鬼でなければここまでのことはさすがにしないが吸血鬼にとってはこれでも死ぬことはなくいつかは全ての傷を修復するというのだから手加減のしようがない。


 こうなったのはミルフィアにとっては最善を尽くした結果と、ロシュが弱すぎて抵抗1つできなかったせいでもある。

 この場合はロシュが弱かったというよりミルフィアの方が強すぎたのだが。


「すみません。なんかあっさり勝てちゃいました」


「…………それならよかった」


 これで戦闘が苦手。ベルベットの使用人の感覚ではそうなのだろうがライハからすれば何が起こったのか目で追うので精一杯なレベルだった。

 苦手というならベルベットの使用人で戦闘を専門とする者はどれほどの実力を持っているというのか……。

  

 ロシュはミルフィアに「よいしょっ、よいしょっ」と【ミドラージュ】を引き抜かれながらピク……ピク……と痙攣していた。

 もしかしたら今回の一番の被害者は手加減を知らないベルベットの使用人と戦闘になってしまった彼なのかもしれない。しかもその中でも序列7位という怪物と。


 どうせ数日ほどでロシュは完治するだろうが、ライハは少しだけ彼に同情してしまった。



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