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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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79話 闇夜の剣舞曲


「さて……少年よ。君がどう戦うのかは知らんが、君のペースに付き合うつもりはない」


 ヴォードはそう告げる。戦闘において相手のペースに合わせる者は愚かだ。相手の出方を見るというのもあるが「格下」の相手を好きに動かせる理由など見つからなかった。

 戦闘ではイニシアチブを取ることの重要性は戦闘経験を積んだ者こそ知っている。自分の戦い方を発揮できた者は時として格上を撃破するほどの力を生み出すことがあるからだ。


「俺のペース? お前に俺の曲調が掴めるか?」


「む……?」


「もう俺の曲は始まってるぜ。お前には聴こえてなかったみたいだな。耳の悪い観客だ」


 ガイトの言葉に意味を探すヴォード。それを発見するよりも早く……



 パァンッ!!!!



 ヴォードの足場になっていた木の幹が破裂した!


 たまらずヴォードは地に降り立つ。ガイトと同じ目線に立つことになった。


「何をした?」


「俺のペースに付き合うつもりはなかったんじゃないのか? それともゆっくり俺の曲を聴いていくかい?」


「そうだったな。即刻、貴様の演奏は中止だ」


 ヴォードは自らの爪で自分の腕の皮膚を傷つける。そこから血が滲みだし……ジャキッッ!と真紅の刃物が飛び出した!


 吸血鬼の「特性」で血を固形化したのだ。今やヴォードの腕にはガイトの持つ大鎌に似た湾曲した刃がついている。それをもう片方の腕にも出現させて二刀流となった。

 そして……ヴォードの金色の瞳が血のような赤へと変貌する。これは吸血鬼が能力を使用している時の状態だ。


「ズルいな。そっちは2つ、こっちは1つだぜ」


「戦闘とはそういうものだ」


 戦闘に「ズルい」はない。どれだけ相手より有利に立ち回れるか。それを突き詰めるために罠を使おうが武器をいくつも使おうが純粋な勝利への貢献だ。

 ガイトもそんなことはわかっている。口に出たのはただの冗談だ。


 ヴォードの真紅の刃2つがガイトの体を追う。血液が固形化した刃だとしてもそれは鋭利。触れれば簡単に体を斬り裂ける。その証拠に真紅の刃がガイトの鎌とぶつかる度に剣と剣がぶつかるような音を響かせている。


 ここで褒めるべきは猛攻を仕掛けるヴォードよりもそれを防いでいるガイトだ。

 戦闘にズルいはないと言っても武器は2つと1つ。武器の形状は違うにしてもガイトは左右の攻撃に気を配らないといけない。そのどちらも鎌をバトンように振り回して上手く防いでいるガイトは武器の攻防において高いレベルの力があると言える。


 ……が、ここで認識の違いが1つ。ガイトは相手の武器を「2つ」と言った。ヴォードは自分の武器の数を「2つ」とは言っていない。なぜなら……


「!!」


 突如として接近していたヴォードの膝から真紅の刃が伸び出る。ガイトの顔へと急速に迫り……



 ザシュッッッ!!



 その刃は…………



「ふ~、ギリギリセーフだな」


 ガイトの頬を薄く斬った。血は流れ出るが少量である。


 キリールからの事前情報でヴォードの戦闘スタイルは体から血液の刃を生やして戦うものだと聞いていたのが功を奏した。それを聞いていなければあの状況でそんなところから攻撃されるなんて思いもしなかったはずだ。


 ヴォードは2つの刃を振り回す時に密かに自分の脚を傷つけていた。吸血鬼の力に理解がない者が見ればただの間抜けに見えるが、知っている者からすればそれは新たな武器の発現準備ということがわかる。

 傷を創らないと刃が出せないという点にさえ気を付ければ問題はないが……傷なんて物は創ろうと思えば自傷でいくらでも創ることができる。それに傷が増えてくれば警戒する箇所がどんどん増えていくわけだ。


(面倒くさいな)


 ガイトは戦いづらさを感じていた。2つの魔法武器を使う魔法使いはいるが体から武器を生やすような魔法使いはいない。当たり前だ。


 このままずっと防御に回っていては勝てるものも勝てないが……


「どうした? 曲はもう始まっているのではなかったのか? まったく君の音が聴こえてこないぞ。それとも聴こえてくるのは君の悲鳴かね?」


「ずっとうるせぇ曲なんかねえよ。それはもうただの騒音だ」


 ガイトは鎌で刃を弾きながら……次はこっちの番だと心の中で逆転策を企てる。

 それは元からなかったわけではない。


 どれにするかを「選んで」いたのだ。



(これでいくか……)



 ガイトはヴォードから距離を取り、魔法武器【ディリゲント】に魔力を込める。


「お前の声、どうも急ピッチだな。そんだけこの戦闘を早く終わらせたいのか。声に現れてるぜ」


「?」


 ガイトは相手の声から相手の心情が読み取れる。あまりに深いものは読み取れないがヴォードが戦闘を早く終わらせてカルナの儀式を始めたいと思っていることくらいはわかった。


「さぁ、行くぜ。【ディリゲント】─形状変化(モードチェンジ)


 ガイトが唱えると、【ディリゲント】は姿を変える。



 「大鎌」から……「短剣」へと!



「やっぱこれになったか。悪くねえ」


 その短剣に姿を見えた【ディリゲント】を見てガイトはニヤリと笑う。ヴォードは突然武器の形が変わったことで驚きを隠しきれない。


(なんだあの魔法武器は……。特殊魔法武器か? いや……そんな物ではなさそうだが)


 その武器から何が飛び出してくるか。必死に考えを巡らすがわからない。

 「鎌から短剣になる」。これでは武器のリーチがかなり小さくなったことを表す。鎌だったからこそヴォードの攻撃を防げたようなもので短剣ではとてもじゃないが防ぎきれない。

 ガイトは逆転の策としてそれを出現させたのではないのか? そんなことを考えていくにつれヴォードの思考は絡まっていく……。


今回少なくてすみません。次回と合わせると情報量多いかなと思いまして泣く泣く分割することになりました……。次回はちゃんとガイトVSヴォード決着です。

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