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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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77話 決戦!クレールエンパイア


 ~次の日~


 夕方に差し掛かる頃、アスト達は準備を完了して吸血鬼の国「クレールエンパイア」へと向かおうとする。

 まだ出発していなかったのかと言う者もいるだろうが……




   ♦




「クレールエンパイアへは移動魔法を使って行けますよ」


 朝、出発しようとしていた僕達にキリールさんはそんなことを言ってきた。


「キリールさんも『ラーゲ』が使えるんですか?」


 『ラーゲ』─無属性魔法である「移動魔法」。事前に設定しているポイントへと瞬間移動できる超便利な魔法だ。

 かなり高度な魔法なので使える魔法使いは少ない。魔法発動の3要素の内の1つの「範囲設定」が超高難度なのだ。

 なにせ自分の付近からかなり離れている場所に移動するのでポイントを設定して「座標設定」をクリアしていても体を長距離のそこまで移動させなければならない。よほどの魔法使いでないと使えない魔法である。

 これ以外にも環境や場所によって使用ができないこともあるらしいので一概に便利とも言えないのかもしれない。


「私は使えません。これを使います」


 そう言って取り出したのは腕輪型の魔法道具だった。


「ベルベット様が造っていた魔法道具です。移動魔法『ラーゲ』と移動先のポイントも設定されています。1回限りの使い捨てですがクレールエンパイアが設定されてある物を人数分、ベルベット様の寮の部屋から引っ張り出してきました」


 ベルベットは緊急時に備えて一部の魔法道具を自分の寮の部屋に入れている。そこにこれがあったというわけだ。




   ♦




 朝にそんなことがあって出発になると全員がこれを腕にはめた。


 アスト、カナリア、ライハ、ガイト、ミルフィア。これから5人の戦いが始まる。




『『『『『ラーゲ』』』』』




 5人は魔法道具を介して移動魔法『ラーゲ』を発動。視界を覆うほどの光に包まれ、次に目を開けた時には……



「ここが……クレールエンパイア」


 移動先のポイントはすでにクレールエンパイアの内部だった。結界が弱まっていたからこそ直接内部に移動魔法で入ることができたのだが……いきなり「世界」の様相が変わっていたことに驚く。


「暗いな……まだ5時くらいのはずなのに」


「これも結界の効果なのかも。午後になったらさっさと活動したいから結界内部を暗くしようみたいな……ね」


 カナリアの言うことは正しそうだ。それでも空を見上げれば月や星まで見えて完全な夜なので戸惑ってしまう。移動する際に何時間も経ったのかと疑ってしまう。


 幸運なことにベリツヴェルン領にはあの一家の城しかない。というのも長女のリーゼが他の吸血鬼と仲が良くないらしく誰も寄せ付けない結果こうなっている。

 自分達の移動した先は森の中。そこを進んで森を出るところにあの一家の城が建っている。


 さぁここから潜伏してあの城へ……といった矢先だった。




「ふむ……これはリーゼに感謝せねばな」




 僕達の上から声がする。

 見上げると、木の上にこちらを見下ろす目が。あれは……


「ヴォード・ローラル・ベリツヴェルン……!」


 ベリツヴェルン一家の父がそこにいた。


(来るのがバレた!? 見張りがいるのは想定内だけどこんなピンポイントに……)


 もちろん普通は位置まで正確に知ることなんてできない。だがリーゼが作成した魔法道具に「移動魔法の設定ポイントを知れる魔法道具」がある。それを使ってベリツヴェルン領内にある設定ポイントを探した。

 そこで見つかったのは1件。国内への侵入者は限られている。それがベルベットの物で間違いないと判断した。あとはそこで見張るだけだ。


(これもリーゼの魔法道具による結果か? こうしてみると反則レベルで厄介だな……!)


 こちらの襲撃がバレているとなればすぐに行動を起こさねばならない。


 考えられるのは「全員でヴォードと対峙」。

 一番安全な方法ではあるが最悪の場合ここで僕達の戦いは終了となる。それにここで集中的に戦っていれば母ヴェルノと長男ロシュ、それに長女リーゼまで呼ばれればおしまいだ。



 ならば……「誰かがここで残ってヴォードと対峙」。これしかない。

 誰が残るかを即座に決断せねば……そんな局面に入った時だ



「お前らは先に行け。ここは俺がやる」



 ガイトが前に出た。しかし、それには問題が。


 潜伏しながらの行動になると音魔法により音で敵の位置を探ることができるというガイトは非常に重要な役割を持っていることがわかる。

 そんなガイトが早々に離脱するというのだ。アストはより混乱してしまう。


「ガイト! でも……」


「もう俺たちが来たことはバレてんだろ。だったらもう探りながら行っても無駄だ。ならここに残るべきは俺しかねえ。……いいから行け」


 ヴォードが見張りについていたということはこことは違うどこかに別の吸血鬼がいるだろう。そうなると見つかる度に戦闘になることは免れない。出来るだけ強力な魔法が使える者を同行させていた方がやれることも増えてくる。


「わたしも残る。2人なら……」


「いや、ここには俺1人が残る。いきなり2人も割かれてたまるかよ」


 ガイトはライハとの共闘すら否と断じる。ヴォードと単騎で対峙するつもりだ。



「ガイト……」


「俺を信じろ……無理か?」



 それはズルいな。そう言われたらもうガイトを止めることなんかできないじゃないか。

 行くしかない。ガイトを……「信じて」。

 僕達はそれ以上何も言わず城を目指すために進み始めた。ヴォードはそれを阻もうと動くがガイトが前に立ちはだかる。



「ふむ……魔法学院の生徒か。犠牲になるとは勇ましいな」


「犠牲? 何のことだ?」



 ヴォードはガイトが自分の命を投げ打つ覚悟でここに残ったと思っていた。何しろ単騎で残ったのだ。相当な無茶である。


 そうではないというのなら。


「お前はここで俺が倒す」


「なんだと……?」


「こんな時にって言われるかもしれねえがな、1人であんたくらい倒せるようにならないとダメなんだよ。俺は強くなるためにアーロイン学院に入ったんだ」


 全ては自分の復讐のため。自分の親を殺したエリア6のリーダーを倒すため。こんなところで躓いてはいられない。ここに残ったのは自分の力試しの意味合いも大きかった。


 それと……かつて自分が操られ、マジックトリガーを使ってアストを攻撃したことが今も負い目となっている。自らの意思でなかったとはいえ友人を手にかけようとしたのはずっと心の中にしこりを作っているのだ。自分を救ってくれたアストには大きな借りがあった。


 その借りを……どこかで返したかったのだ。



「【ディリゲント】」



 ガイトはその名を呼ぶ。すると虚空に裂け目が生じ、そこから……「武器」が顔を覗かせガイトの手に収まった。これは魔法使いが使う別空間に物をストックする魔法だ。


 出てきたのはガイトの「魔法武器」。ガイトの武器は大きく、携帯するには向かないのでこうして持ち歩いているのだ。



「ほう……『鎌』か」



 ヴォードはその武器に息を漏らす。ガイトが手にしていたのは黒い大鎌。刃はギラリと白銀に煌めき、音符が鎌を模している紋様が刻まれている。


 鎌を武器として使う者は多くないだろう。その形からして使いこなすのも簡単ではない。ヴォードが息を漏らしたのは珍しいなということもあったがそれよりも……


(中々様になっている。強がりではなかったか)


 ヴォードは初見ではガイトを「子供」だと思っていた。ここでいう「子供」とは歳のことではなく……精神面のことだ。無理をして1人で戦おうとしているのを見るとヴォード以外でもそう思うはずだ。

 しかし、ガイトが大鎌を構えて戦闘体勢を整えると、鎌という武器を持ってして慣れた構えにヴォードは評価を改めた。「こいつは手ごわいな」と。


 決して子供じみた強がりでここに残ったのではない。本当に自分をここで倒すつもりでいる。それがわかってしまった。



 その構えには……純粋な殺気があったからだ。



(この少年……『戦う覚悟』を持っている)


 復讐を望んでいるからこそ戦う精神は強く鋭く曲がらない。ヴォードに勝つことに全神経を注ぎ、殺すことになってもこれは戦いなのだから仕方ないという子供からかけ離れた意思がそこにはあった。


「魔法使いにしておくには惜しいな。いいだろう。このヴォード・ローラル・ベリツヴェルンが相手をしよう」


 ヴォードもガイトに向けて殺気を放ち……互いの殺気がぶつかり合った!



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