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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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73話 ここは君と僕との天空庭園


 ガイトと勝負し終わった後に向かったのは「観覧車」。もちろんここは……


「アスト! かんらんしゃ!」


「うん。一緒に乗ろう」


 カルナが乗りたい乗りたいと言っていた観覧車。あれからずっと楽しみにしていたからカルナも観覧車を前に目を輝かせている。


「フィアちゃん……あの」


「はい。わかってます。……どうぞ」


 ミルフィアに目配せをして事前に相談していたことを確かめる。それが通じてかミルフィアは数歩下がって2人で観覧車に乗ってきてくれという意思を示した。


「カルナ。2人で乗ろうか?」


「うん! アストと2人!!」


 小さな手を引いてゴンドラの1つに乗り込む。僕はここで……カルナを救う。救ってみせる。






「ふわー! たかい! たかーい!」


 ぐんぐんと地上から上がっていくゴンドラ。こちらを見て手を振っているミルフィアは小さくなっていく。


 

 これは空を遊覧する空中ブランコ。ここは君と僕だけの天空庭園。僕達を夢へと連れていく。



「アスト、これすっごいたかいよ!」


「そうだね。カルナは高いところ平気?」


「うんっ! ふわふわ~ってしてとってもたのしい!」


 窓から景色を眺めていたカルナから出る元気いっぱいな感想につられて僕も笑顔になる。今日はカルナも色んなところを回って楽しめたかな? それなら良いんだけど。


「カルナはここに来て良かった?」


「うん! よかった!!」


 僕が質問するとカルナは僕の膝の上に座ってきた。僕の体を背もたれにする。


「カナリアはいろんなこと知ってる! ライハはおもしろい! ガイトはピアノが上手! ミルフィアはやさしい!」


 それはここ最近でカルナと時間を過ごした人達。カルナにとっては家族に等しい存在となっている。


「あれ? 僕は?」


 僕の名前が出てきてない!? と一瞬だけ気を落とすが……



「アストは…………あたたかい」


「温かい?」


「うん……」



 僕の方を振り向くカルナ。その金色の瞳は何を想っているのか。知りたい。でも、その心を僕は知らない方が……とも思える。きっとまだ10歳の少女が言語化するには難しいのだろう。



「わかんない。でも……アストはあたたかい。いっしょにいると胸がギューッてなって心があたたかくなる」


「そっか……」



 そこまで聞ければ十分だ。それだけで。僕は次の一歩を踏み出せる。

 僕はカルナの口元に人差し指を近づける。


「?」


 これは君を救済する唯一の方法にして君を狂わせる最悪の方法。

 ハッピーエンドにしてバッドエンド。

 それでも僕はその選択を突き付ける。これからの君との時間が欲しいから。



「カルナ。血を飲んでくれないかな?」


「…………」



 カルナは黙り込む。膝の上に座っている彼女の表情を僕は見ることができない。

 あれだけ嫌だと言ったのに……と軽蔑されているのか。最善と最悪の2択に苦しんでいるのか。どれにしても先程までの笑顔からは程遠い表情をしている。これだけは確かだ。


 血を飲めばカルナは「命」を得る。しかし「心」を失うかもしれない。


 もう二度と僕達といつも通りの日常を過ごせないかも。僕達から離れていくかも。血の欲求に負けて僕達の体を傷つけるかも。

 そんな化け物に君を変えようとも、生きてほしい。君の未来が確定される。これ以上に幸せなことなんてない。


 カルナの決断をただ見守る。そしてカルナは……




 向けられた僕の人差し指に、キスをした。



「カルナ?」


 その意味に僕は戸惑う。傷つけるために「噛む」ではなく、愛を伝えるその行為に。


「アスト。それだけは……ダメ」


 カルナはこちらに顔を向けない。そのままで言葉を続ける。


「すごくうれしい。いっぱいいっぱいうれしい。でも、最後までアスト達と、いっしょがいい」


「僕達と一緒?」


「ずっとずっと『友達』のままがいい。みんなとごはんを食べて、みんなと遊んで、みんなとおやすみする。わたしはそれがいい」


 吸血鬼になることはできない。僕達を傷つけたくはないから。

 僕達を「友達」以下になんかしたくないから。今いる居場所が温かいから。


「カルナは……そっちがいいんだね……」


「うん……わたしのほんとうの心知ってるのはアストだけ。だから……アストだけは、わたしの味方でいて」


 優しすぎる少女は「醜い新生」よりも「綺麗な破滅」を選ぶ。その破滅こそが自分にとっての最上級の幸せだと信じている。


 人差し指へのキスは……カルナなりの感謝なのか。

 想いに応えることはできない。それでも嬉しい。って。


 カルナにとっての転換点。されどそれは生命への最後のピリオドでもあった。


 窓から見える夕日が沈む。僕と君は、今日たくさん遊んだね。

 このゴンドラの中にいる時だけはまだ夢を見ていよう。


 それで、明日のことでも考えようか。

 「次は何をして遊ぶ?」「何をして遊ぼうか?」って。



 けれど世界は残酷だ。そんな時にこそ現れる。



 最後に打たれたピリオドを否として消し去ろうとする暴虐。窓からこちらを覗き込む天空庭園の空中ブランコを壊す悪魔。




「カルナ、こんなところにいたのか」





 夢は、終わり。






 ガィンンンンンンンンンンンッッッッ!!!!!!!



「なっ!」


 突然出現した何者かによって僕達の乗っていたゴンドラの接合部が破壊される!

 楽園を失い落下していくゴンドラ。僕はカルナを守ろうと彼女を抱きしめるが……


「返してもらおうか」


 窓を突き破って侵入してきたその男は超人的な力で僕からカルナをひったくっていく。さらには腹に蹴りまで入れてきたせいで抵抗を許されなかった。


 男はカルナと共にゴンドラから抜け出る。僕だけになったそのゴンドラは、



 ガシャアアアアアアアアアアアァァァァァァァァン!!!!!!



 地上へ叩きつけられた。



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