表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
71/230

70話 カナリア・ホラーパニック!


「さて……どこに行こうかな」


 色んなアトラクションがあればここに行こうかと決めても他のところにも目移りしてしまう。それで結局迷うという循環に入る。こんな場所でのあるあるだ。


「あ。あれカナリアだ」


 自由行動になったばかりだが……とあるアトラクションの前でゴクリの唾を飲み込んでいるカナリアがいた。

 3人でカナリアのところに向かっていくうちにそのアトラクションが何だったのかがわかってくる。


(お化け屋敷……か)


 人間の遊園地にもあるホラーアトラクション。しかし、魔法使いのお化け屋敷というのは人間の物とはもちろん違ってくる。

 なんたって人間が一般的に「お化け」とするのは魔人の一種族である「妖怪」や「吸血鬼」といった類だからだ。そんなものを魔人に出されても怖がることなんてない。



 では、魔人は何を怖がるのか。それは……「ゾンビ」だ。



 ゾンビだけは人間と魔人にとって共通の創作上の存在であり人間が死体となっているにも関わらず動き出して襲ってくるのは魔人にとっても恐怖物。なので魔人でいう「お化け屋敷」とは「ゾンビ屋敷」と言った方が適当だ。



「どうしたのカナリア。入らないの?」


「あ、アスト?……別に入りたいとか思ってたわけじゃないわよ」


 ふーん。それは本当みたいだけどここまで来て入らないというのも面白くない。


「どうせなら一緒に入らない?」


「なんでよ!? 入りたくないって言ったでしょ!」


 「入りたくない」とは言ってないでしょ……。


 つい本音が出ちゃってるカナリアをもうちょっと誘ってみよう。なんか面白くなってきたし。


「もしかして怖い?」


「……ッ! 怖くはないわ。あんなのどうせ作り物よ。もっと怖い魔物なんていっぱい見てきたのよあたしたちは」


 それは確かに。デカい黒い竜とか大剣持った人型の化け物とかね。どっちも味方になってるけど。


「じゃあ入ろうか」


「嫌よ! 絶対嫌!」


 言動がチグハグだ。怖いなら素直に怖いって言えばいいのに。

 けど、せっかくウィザーズ・ランドに来たんだ。何事も経験しておいた方が良いに決まってる。


「これからゾンビみたいな魔物とか出てくるかもしれないし今のうちにゾンビに慣れておこうよ」


「無理! そんなのいるわけないでしょ!」


 カナリアがなんか言ってるけど引っ張っていく。その後ろにミルフィアとカルナもついてくる。






「こちらは2名ずつでの入場となっていますので、4名の方は2人ずつでペアを組んでくれますか?」


 受付に行くと2名ずつに分かれてくれと言われた。4人ならカナリアの恐怖も和らぐかと思ったんだが……。

 チラッとカナリアを確認するともう顔がサーっと青くなっている。早い早い。


「そうだな……。フィアちゃんはカルナと一緒に入ってくれる?」


 僕はミルフィアにカルナを任せることにした。というのもカナリアは僕が誘った手前、勝手に行ってこいとも言えない。僕が面倒を見なくちゃ。それにパートナーだしね。


「わかりました! カルナ、フィアについてきてください!」


「うん! ミルフィアについていく!」


 年少組を組ませたところで僕はカナリアを連れて行くことにした。




   ♦




「うわぁ……すごい作りこみだ」


 入ってみると結構本格的で僕も怖いなと感じるほど。これならカナリアは……


「…………」


 なんかずっと静かだったからどうしたんだと見てみたらこの子目瞑ってるよ。これじゃ来た意味がない。


「ねぇカナリア」


「きゃっ!!!!」


 肩をポンと叩くとカナリアはいつも出さないような声を出してめっちゃビビってた。


「あ、あ、あんたあたしを殺す気? 驚きすぎてどうにかなるとこだったわ……」


「肩叩いて呼んだだけじゃん……」


 怖がりすぎだ。ホラー苦手だとは察してたけどここまでとは。さっきからあんまり進んでないしこのままでは後ろの組─ミルフィア達に追いつかれてしまう。


「ほら。まだ何も出てきてないんだしさ。進もうよ。怖くないんでしょ?」


「そ、そうよ。怖くないわよ。誰が怖いなんて言ったのよ」


 口では言ってないけど体全体で表してるくせによく言うよ。まさかまだバレてないと信じているのか。


「さぁ行くわよ!!」


 カナリアがそう決意した時、




「あばあああああああああああああぁぁぁぁ!!!!」


「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」




 横から壁を突き破ってゾンビが出てきた。カナリアの絶叫が響き渡る。


 ゾンビはすぐに引っ込んでスタンバイモードに戻ったのだが……カナリアはその場でペタリとへたり込んでしまう。恐怖のせいで力が抜けてしまったのか。


 そしてそれに追い打ちをかけるように……



「ぎゃあああああああぁぁぁぁ!! ゾンビやだああああああぁぁぁぁ!!!」


「ちょっ、隊長! 俺置いて行かないでー!!」



 前の組から絶叫がこっちに届いてきた。さらには……



「いやああああああああぁぁぁ兄様あああああああぁぁぁ!!」


「あばああああああぁぁぁ! って、ちょっと君、待って暴れないで! あ、それ壊しちゃダメ! 痛っ! ちょ、死ぬー!!」



 ゾンビが出てくる位置はランダムらしく、後ろからもミルフィアの絶叫が聞こえてきた。……なんかゾンビ役の人の絶叫まで聞こえてきた気がするけどスルーしておこう。



「もうやだぁ……」



 そんな声の数々を聞いてしまったカナリアはもう立つ力すら残っていなかった。いつの間にか体育座りで丸まって全方位防御の構えを取っている。


「そんなこと言わないでさ。ここにいたらずっと怖いままだよ?」


「ぐすっ…………」


 え? 泣いてる? あのカナリアが……? お化け屋敷以外のどの場所でもいつも僕を泣かすカナリアが?


「怖いのはわかるけど。ほら、行こうよ」


「怖くないわよ!!」


 そんな泣き顔で言われても全然説得力ない。

 でも……さすがにカナリアのこんな姿を見ていると申し訳ないとも思ってきた。悪ふざけが過ぎたかな。

 ここはパートナーとして一肌脱ぐか。




「手、握ってあげるから。一緒に行こうよ」


「へ……?」




 怖がっていたカナリアは顔を上げてこっちを見る。僕も照れくさくなったけどこのままでは一向に進まないので仕方ない。

 手を握ると1人ではなく2人なんだと意識することもできる。そうすれば多少なりとも恐怖を軽減することもできるはずだ。

 それに僕が手を引いてあげることで恐怖で足を止めてしまうことも無くなるだろう。恥ずかしいけどこうするしかない。


「あ……僕と手繋ぐの嫌だった?」


「嫌じゃ……ない。……繋ぐ」


 僕が手を差し出すと、カナリアの手がそれを掴む。そのまま握って2人で歩を進めた。


(うわ……カナリアの手、小さい)


 女の子の手は小さい。こうして握ってみるとすぐにわかる。指の一本一本を意識してしまうほどに。

 自分から申し出ておいてなんだけど、手汗とか大丈夫かなとか向こうは何考えてるのかなとか変なことばかり頭に浮かぶ。


 カナリアを安心させるためにギュッと握ってあげると、カナリアは少しだけビクッと跳ねた後……ギュッと握り返してくれる。

 顔を確認すると暗い場所でもわかるくらい耳が赤くなっていた。



(女の子と付き合ったら……こんな風にデートすることもあるのかな)



 ふと、そんなことが頭をよぎる。このお化け屋敷は2人組ということもあってカップル客が多かった。そうなると嫌でも気になってしまう。

 今の僕とカナリア……周りからはカップルとかに見えたりしてるのかな。ただの学院でのパートナーなんだけど。


 そこまで頭に浮かんだところですぐにそんな妄想を打ち払う。



(日常の中で忘れそうになるけど僕は……「人間」なんだ。「魔人」のカナリアと……そんな風になることなんてありえないよな。第一向こうが僕のことをそう想ってるわけない。僕達はパートナーなんだから妄想することでも失礼だ)



 僕が考え事をして足を止めていると……


「……どうしたのよ? 行かないの?」


 ビクビクとしたままのカナリアはこちらを気にする。


「ううん……なんでもないよ」


 僕は再び手を引いて足を踏み出した。先にある光を目指して、この暗闇の中を進むために。






 なんとかお化け屋敷を出た後はカナリアも心身の疲れからかハァ~ッと息を吐いた。とても重みのある息だ。全ての疲れや恐怖を吐き出さんばかりである。

 後から出てきたミルフィアはカナリアみたいに疲れ切っていて、カルナは笑っていた。入る前はミルフィアがついてこいとカルナに言っていたがどっちが先導したのかは一目瞭然だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ