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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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64話 死の足音に君はまだ気づかない


 朝。僕が3種のビーフシチューを喰らった次の日だ。

 実は僕にはシチューのこと以外にも目下悩みの種となっていることがあった。



「…………」


「アスト……」


「兄様ぁ……」



 ベッドの上。僕は普通に目覚めたのだが横には2人の少女が。この川の字型は昨日から。

 ミルフィアは「寝ている時が一番危険です! 護衛対象の兄様をおやすみまで守ります!」とのこと。カルナは「アストと一緒に寝たい」とのこと。


 なんだかカナリア達にロリコン呼ばわりされても仕方ない気がしてきたぞ。

 カルナは子供だから意識はしないけどミルフィアになってくると歳も大きくは離れていないのでほんのちょっとだけ意識はしてしまう。

 それがなくても腕や体にしがみついてくるので非常に寝にくい。あと小さい子は体温が高いのか暑い。


 なんとか引き剥がしてムクリと起きる。カルナはいいとしてミルフィアは護衛対象よりもグッスリ寝てて大丈夫なのかな。僕はそれでいいんだけどキリールさんに怒られたりしないかが心配になる。……気持ちよさそうに寝ているので起こすこともできない。


「ふぁ……珍しいわね。あんたがこの時間に起きるのって」


「おはようカナリア。……そうかもね」


 十分に寝ることができないなら当然目覚める時間も早いわけで。いつも自分より1時間早く起きているカナリア&ライハとの同時起床に追いついた。


「ライハも、おはよう」


「…………お……は……」


 テーブルの前に座って微動だにしないライハに声をかけたんだけど……どうにも声がいつもと違う。目も閉じているんじゃないかってくらい超薄目。ひたすら日の光を背に浴びている置物と化していた。


「ライハはいつも起きた後の10分はこんな感じよ。そっとしときなさい」


「へぇ~、そうだったんだ」


 低血圧なのかな? 見たことないライハの姿を見れて新鮮だ。カナリアの言う通りそっとしておこう。


「にいじゃま~」


「あしゅと~」


「うわっ! 引っ付いてこないで……!」


 アストのベッドにいたミルフィアとカルナは突然消えた温もりを求め、ベッドからモゾモゾと這い出てアストの服を引っ張ってくる。


「カルナもあんたにベッタリね」


「もうロリコンとか言わないでよ?」


「言わないわよ。ところで……カルナのこと、あんたちゃんと考えてんの?」


 カルナのこと? なんのことだろうか。



「学院規定読んでないの? 他種族の魔人の隠匿は禁止。見つかったら反逆罪に問われることだってあるのよ?」


「えぇ!?」



 初耳だった。は、反逆罪……!


 アーロイン学院は「魔法使い」の学校だ。だが、なにも学院の中に「魔法使い」だけしかいないわけではない。実は魔法使い以外の種族の魔人も在籍していたりする。

 普通、他種族の魔人は魔法使いの学校に行くなんて嫌だというのがほとんど。しかし、中にはそこに行って自分達が扱う「魔法」をもっともっと学びたいと思う珍しい者もいる。


 アーロイン学院はそういった探求心ある者を拒まない。なので、正式な手続きを経て、試験を合格さえすれば入学を認められる。

 それでも他の生徒よりたくさんの校則を守らないといけない上に入ってはいけない場所まで決められたりと色々な規則に縛られることになるが。


 「魔法使い」と「他種族」の溝は魔人の中でもそこまで深くはない方だ。魔法使い側も相手の知らなかった事実や体質を知れるし、他種族側にはこんなところまで来る者に魔法使い嫌いはいないだろう。だからかフレンドリーではある。




 それでも中には自分のことを「魔法使い」だと偽って入学しようとする者もいる。理由はもちろん……「スパイ」だ。




 そんな者を入学させないために手続きはかなり入念に行われる。なんたって魔法使いの中枢に入ろうというのだ。そこまでしてもおかしくない。

 だからこそ不法に他種族をこの場所へと入れる者は厳罰に処される。最悪死刑すらあり得るほどに。


「それにカルナは吸血鬼なんでしょ? 吸血鬼っていったら他の種族を自分より下と思ってるような奴らよ。そんなのが魔法使いの学院に真っ当な理由で来るわけない。早いとこその子をどうするか考えときなさいよ」


「そっか……そうだよね」



「『6月1日』。これが期限ね。それ以上は隠しきれない」



 なにもカナリアはカルナが嫌いでこんなことを言っているわけじゃない。その逆。カルナが普通の生活を送れるようになってほしいからこそだ。

 見つかればカルナにだって罰がある。この国にどうやって入ったのかまでは知らないが、カルナはマナダルシアにある入国審査をおそらく不正でパスしている可能性がある。そうなれば軽い罪で済むわけがない。


「その話の次にこんなこと言って申し訳ないんだけど。しばらくこの子も学院に連れていく……っていうのはダメ?」


「は!? あんた話聞いてたの?」


「だって僕らの目がないところに置いておくことこそ危険じゃない? ほら、フィアちゃんには迷惑かけるけど周りの目から守ってもらってさ」


 カナリアに一気に頭痛が襲ってくる。ただでさえ他種族は正規の手続きが必要なのに堂々と歩かせるとは何事かと。


 一応、吸血鬼と判断する要素は目と牙が主となっている。後は肌だが……これは他の子よりも綺麗な肌をしている程度で済むだろう。

 目はカラーコンタクト、牙は口を大きく開かないようにと気を付ければ……問題はない。


「それにさ。この子に色んな世界を見せてあげたいんだ。きっと家で辛いことがあったんだろうし、ここにいる間くらい楽しい物を見せてあげたい」


 アストの目的はそこにある。リスクに対してなんともふざけた動機。しかし、アストはこれこそがカルナにとって最も必要な物だと感じていた。


「そんなこと言われたら……否定しづらいじゃない」


「カナリア……!」


「そうね、ベルベット様の使用人ってことにすればなんとかなるかもね。あの人の使用人なら他種族もいるでしょ」


「ありがとう!」


 カナリアが許可したからなんだとなるが、それでも協力してくれる人が身近にいるのは嬉しい。よく見るとライハもボーっとした眼をしているが親指をグッと立ててこちらに協力の意を伝えてきていた。今の話を聞いていたのだろう。



「よーし!じゃあ皆で登校しよう!!」





 カルナはミルフィアが用意してくれたメイド服に着替える。これでベルベットの使用人と通るはずだ。幼すぎる気もするけどミルフィアの例もあるから問題ない。

 ミルフィアはメイド服を着たカルナを見ると


「ここではフィアがお姉さんですからねー!」


と張り切っていた。ベルベットの館では年下がいないからなのかとても喜んでいる。微笑ましい。


「お姉……ちゃん?」


「そうですよー! メイド服を着た以上、もうカルナはフィアの子分ですー!」


 おい、妹じゃなかったのか。



「お姉ちゃん……」


「カルナにはお姉さんっているの?」



 カルナの反応が気になってそんなことを聞いてみた。これを機に家族のことを聞いておいた方が良いだろう。


「うん。お姉ちゃん、いる。とっても優しいし、とっても綺麗! でも……お兄ちゃんは嫌い。いっつもカルナに意地悪する。パパとママはお姉ちゃんと同じで優しいから好き」


 へー。聞いたところは良い家族みたいだ。

 でも、そうなるとカルナが家出をした理由って……?


「アスト。そろそろ出ないと遅刻する」


「あ、もうそんな時間か」


 さらに深く聞いてみたかったけど……時間か。出るしかないな。



 アスト、カナリア、ライハ、ミルフィアとゾロゾロと部屋を出て行く。そこで、


「…………」


「ん? カルナ?」


 カルナはモジモジと股を押さえて、部屋を出て行こうとしなかった。どうしたんだろうか。


「恥ずかしいの?」


「そうじゃなくて……」


「?」


 僕がカルナの反応に困っているとカナリアが後ろから耳を引っ張ってくる。なんで!?


「察しなさいよ」


 カナリアは僕にそう言うと、早く行って来いと顎をしゃくる。カルナはパタパタと部屋の中のある場所へと入っていった。……トイレへと。


 そんなの察せないよ……。



   ♦



 カルナの用が終わるまでアスト達が外で待っている。あまり待たせるといけないので急いで用を足し、手を洗っていると……



「……ぅ、……あ、が、あ、…………!」



 苦しそうな声を上げてその場に蹲ってしまう。胸を掻きむしり、頭痛と吐き気と体中の痺れが襲い掛かる。頭をグルグルと回されたみたいに強烈な眩暈も。



 その時、カルナの金色の目が……「赤く」光る。カラーコンタクトをつけていてもわかるほど。



 カルナの様子を見ている者はいない。この場にはカルナしかいないからだ。



「う、うぅ……あぁ……」



 その痛みは徐々に引いていき、落ち着いてくる。


 息を吐き、自分がまだ「変貌していない」ことに安堵する。


「ダメ……ぜったい……に……ダメ……アスト達……だけ……は……!」


 カルナは唇を噛み、必死に脳が体へ訴えてくる「空腹感」を捻じ伏せた。




   ♦




 カルナがアスト達と合流すると、学院へ向かう。ライハは1組なのでお別れだがカルナを含めた4人は3組の教室へ。

 やはりミルフィアの時もそうだったがメイド服を着た女の子が増えれば誰だって驚く。それに加えてまた幼女だ。



「アストの奴、もうダメだな」


「幼女コレクションまた1つ、と」


「魔法騎士団にまた通報しとこ」



 あーメチャクチャ言われてる。それと最後、「また」ってことは本当に通報したの? え?…………え?


 先生はベルベット様の使用人ならとスンナリ許可をくれた。そのおかげで僕の教科書をペラリペラリと絵本みたいに捲る要員増加。


 カルナはアーロイン学院の授業を聞いてもチンプンカンプンだろうけど、この光景が新鮮なんだろう。周りを見渡して「わー!」と目を輝かせていた。

 僕はというとカルナちゃん同様に授業はチンプンカンプンだったが目は死んでいた。授業全然わからん。



 昼休みには学食で昼食を取り、結局5限までカルナはずっと一緒だった。その間は吸血鬼とバレることもなく無事学院生活に溶け込めた。

 それにカルナは生徒達からも可愛がられて時折お菓子なんかを渡されていたくらいだ。



 放課後になると皆は用事があって解散となる。ミルフィアもやることがあるとアストから離れることになった。

 なので、アストはカルナを連れて音楽室に行ってみた。中に入ると、


「!」


 カルナはビックリしたように飛び上がった。なぜならその部屋は綺麗な音色で満たされていたから。

 ピアノには1人の演奏者。その人物は……


「なんだ? 今日は客が1人多いな」


「ガイト!」


 この時間に音楽室にいるやつなんてガイトくらい。その予想は当たっていた。それにガイトのピアノはすごく上手だからすぐにわかる。


「もう体は大丈夫なの?」


「おう。魔法も普通に使える。完治したぜ」


 これでガイトの件も解決だ。ピアノの腕も落ちてないように聴こえる。本人は強く否定しそうだから言わないでおくけど。


「この子はカルナっていうんだ。あまり大きい声では言えないけど吸血鬼の女の子」


「まーたお前はすごいのと知り合ったな。……俺はガイト。よろしくなチビッ子」


「ガイト…………うん、よろしく!」


 ガイトとカルナは握手を交わす。ガイトにも受け入れられたようで安心だ。


「ガイト。さっきの、もっと聴きたい!」


「ピアノか? こんなのでいいならいくらでも聴かせてやるぞ」


 カルナはガイトのピアノに惚れたようだ。アンコールを所望する。

 ガイトは客の要望に応えてピアノを弾いた。その音色が音楽室を満たす。カルナは綺麗な音に包まれて、夢の世界へと連れられた。


「すごい! すごい!」


 大喜びしながら聴く客がいるとガイトの気分も高まってくるというもの。ガイトはそこから色んな曲を弾いてカルナに聴かせていた。その途中で、




『1年生のアスト・ローゼン。至急、トレーニングルームの7号室に行くように。繰り返します。1年生の─』




 放送で僕が呼び出された。僕何か悪いことしたっけ?


 ガイトの方を見るとピアノを弾きながら、カルナは俺に任せて行ってこいと目線をこっちに送る。僕はそれにありがとうと応えて音楽室を静かに出た。



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