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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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61話 ボロボロ衣服の侵入者


「ただいまーって、誰もいないし」


 部屋に戻るとカナリアもミルフィアをまだ帰って来てはいなかった。帰っていたはずのライハすらいなかったのでアストはまた1人になった。


 テーブルを見るとライハが残したであろうメモが。そこには「トレーニングルームに行く」とだけ書かれていた。

 これを見た時は自分もトレーニングルームに行こうとしたが自分の抱えている課題は別にトレーニングルームを使わなくてもいい。この部屋の中でもできることだ。だからやめておいた。


 ポツンと1人になった空間は集中できそう。それならむしろ自分の課題をクリアできる最適の環境とも言える。


「よし! さっそくやってみるか……」


 ジョーさんに出された練習内容に再び着手しようとする。

 とりあえずコツを掴むためには前のやり方で進めてみて感じたことを逐一まとめていこう。それで少しずつやり方を変えていく。これでいいかな。


 僕は目を閉じて集中を深める。そこから1秒ほどで体に魔力を纏うことに成功する。

 次に、纏っている魔力の量を増やす。


(いくぞ……!)


 力を入れようとした時だった。




 ビシッ! バギッ!!!!




「ん?何か……」


 目を閉じているから視覚的にはわからなかったが、耳に何かがひび割れる音が届いた。

 気のせいかなと放っておくと……




 バリィィーーン!!!!




「うわ!! え? え? な、なに?」


 横から凄まじく「割れる音」が響く。それだけならまだしも頬にピシピシとガラスの破片が飛び散ってきた。


(窓が……割れた!?なんで!?)


 それだけではない。窓が割れたのなら、「割った人物」もいるはずである。

 その本人であろう人物が……ゴトッ!とこの部屋の中に転がり込むように入ってきた!


「うわあぁ! な、な、え?」


 目の前で堂々と空き巣が入ってきたら誰でもビビる。しかも……





「ぁ……ご、ごめ……なさ……」


「…………あ、え、え……?」





 相手が10歳ほどの小さな女の子で、人がいたと気づいた途端に謝りだせば尚更だ。


 警報音がBGMとなったこの部屋で2人は沈黙し続けていた……。



 そんなことがあったんだが……何もかもが意味不明だ。とにかく話を聞いてみようってことでその子は追い出さずに座らせておいた。


「はい、これ。飲んだら落ち着くよ」


「あ、ありがと……ございます……」


 子ども相手にいきなり問い詰めてもこっちが悪者に見えるし何か事情があるかもなので、紅茶を出して客として扱うことにした。自分の行動も意味不明かもしれないが向こうの行動も意味不明だったのでこんなことになってしまったのはもう仕方ない。



「名前と年齢はいえる?」


「はぃ……か、カルナって、あの、言います……10歳です」


「カルナ、か」



 髪はライハみたいに短め。着ている衣服はボロボロで肌にも泥や草木がついて汚れが目立つ。背はミルフィアと近いので年齢も10歳近くで違いはなかったようだ。

 それらの特徴よりも、一番目立つのは……瞳だった。



(瞳の色……金色だ)



 それは形容するとすれば宝石。夕日を背にしているとその瞳の綺麗さがより際立つ。宝石のことなんか詳しくはないけれど、金色の宝石があるとしたらこの子の瞳にはその名前を付けるだろう。

 見ただけで普通の事情は抱えていないとわかる少女は熱い紅茶をちびちびと飲んでいた。


「僕はアスト・ローゼン。アストでいいよ」


「ア、ス……ト……」


 一音一音確かめるように発音していく。なんだか初めてベルベットと会った時の僕もこんな風だったと覚えている。


「それで、どうして……え~、空き巣……でいいのかな、そんなことをしたの?」


 僕がそう問うとカルナはビクッと怖がる。僕が自分をどこかに突き出すと思っているのだろうか。


「ちゃんと理由を教えてくれたら怒らないから。ボロボロなのも気になるし」


「ぁ……お腹……」


「ん?」


「お腹、空いてて……」


 あー、これは困ったな。責めるに責められない理由だ。

 金品が欲しかったとかならどうにか諭したりもできたがこんな理由だとどうもな……。


「家の人は? お父さんとかお母さんとか……」


 こういう時は大体親は当てにならなかったり親そのものが原因だったりするけどなんでこうなったかを把握するにはこの質問しかない。

 最悪、虐待の線も見据えておいてした質問だったが、




「わ、わた、し……家出してきた……ので……」


「家出かぁ~。…………家出!?」




 こ、これは……どうしたものか。


「家は近く?」


 カルナは首を振る。


「お父さんやお母さんは探してるよね?」


 カルナは躊躇った後、頷いた。


 家は遠くで、多分親は探してるってことだな。これは困ったな。


「連絡先とかわかるかな? よければ僕から連絡……を……」


 マジックフォンを取り出すとカルナは僕の服を引っ張る。顔も焦っていてそれだけは、と懇願しているのが見て取れる。


「家は……やめ……て……おねが……い……」


 泣き出しそう、というよりもう涙を溜めてそれは決壊してしまいそう。こんな顔をされては無理に連絡して親を連れてくるのもできない。連絡するのが正しいことだとしても。

 それにこれで虐待の線も復活だ。引き戻すのも躊躇われる。


「わかった。やめておくよ。食べ物もあげるから……そうだ、シャワー浴びてくるといいよ。そのままじゃ申し訳ないし」


「いいの?」


「うん。いいよ」


「ありがと……」


 ひとまずこれでいいかな。キリールさんにも相談した方が……。うーん。ベルベットのこともあるからキリールさんの手を煩わせるのはやめておくか。


 と、僕が思案していたら……

 カルナはその場で着ていた服を脱ぎ始めた!


「ちょ、ちょっとちょっと! ここで脱いじゃダメ!」


「え?」


 時すでに遅くスポーン!と下着だけになったカルナがそこに。相手は10歳児だから裸を見て欲情したりなんかはしないけどそれでもマズイものはマズイ。

 しかし、一瞬だけ見えたそれは目に焼き付く。雪と見間違えるくらい透き通るほどの白い肌。汚れが取れればそれはより綺麗なものと化すだろう。


「あっちに浴室があるから!」


「ごめんなさい……」


 下着姿のままペタペタと浴室に向かっていった。シャワーの音がしてようやく落ち着く。



「家出……」


 言葉にすれば簡単だ。でもそこには色んなものが見えてくる。


 親に不満があった? もしくはなんでもない喧嘩? やっぱり虐待?


 浮かんでくるものはどれもがあり得そうで。どれにしろ10歳の女の子が「家出」という行動を選び取るなんて、と驚く。


「なんか最近妙に忙しいな」


 知らない敵に襲われ、自分が人間ってことを知り、ベルベットも襲われて重傷を負い、家出した空き巣がやってきた。

 なんだこの怒涛の出来事は。実はこれでわずか2日間の出来事だったりする。もっと言ってしまえば上3つは数時間内に起こったことだ。



 カレンダーを見れば今日は5月末。あと1週間くらいすれば6月になる。



 4月には入学試験とクエストで死にかけて、5月は静かに学院生活を暮らしたいと胸に秘めていたりもしたんだけど4月よりひどいことになってるような……。

 せめて6月は静かに暮らせますようにと祈っておく。魔人は人間に異能なんかを与えた神に祈ったりしないけど僕は人間なのでセーフということに。ああでも人間なのに魔人側で生活してるやつなんかを神様は救ってくれるのだろうか。悲しい。


「あの……」


「あ、終わった?……って、そうだったー!」


 シャワーで体を洗い終えたカルナは僕がいる部屋に戻ってきた……が、やっぱりスッポンポン。下着もなくなった全裸モードでさっきよりマズイ。雫もポタポタと滴り落ちてどうしてこれで出てきたんだと聞きたくなる。


「タオル置いてたよね?」


「ぁ……。ご、ごめ……」


「とりあえず拭きに行こうか!」


 僕はこの状況はマジでヤバイとすぐに浴室の方に戻ることを指摘する。

 しかし、自分が絶対に来るなと念じたことは大抵最悪のタイミングで来るものだ。



 

 ガチャ……と玄関の扉が開いた。




「夕飯はフィアがお作りしますのでー!」


「あんた料理できるの?」


「わたしも作る」



 ミルフィア、カナリア、ライハが部屋に入場してきた。玄関から中の様子が見えるのであっちからはアストとカルナが視界に入ってしまう。


「はぇ……?」


「は……!?」


「?」



 彼女らの目の前には顔を強張らせた同居人と、濡れた全裸の幼女。アストとカルナだ。


(な、なんで……3人全員なんだよ……!!)



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