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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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59話 アレンの異能


 全授業が終了し、部屋に帰る。僕以外の3人は他に予定があるので今は部屋に僕1人だけだ。


 ベルベットの事件について僕は関わることを諦めた。それでなのか僕の心は楽になった。

 非日常から日常への回帰。まだベルベットが回復していない今を完全に日常と呼ぶには難しいものだけど生活が落ち着いてきたのが自分の中で感じ取れる。

 そうなってくると心に余裕ができて思い出されることもある。



 それは……ゼオン・イグナティスのこと。



(ゼオン……僕以外の『魔王後継者』)


 授業終わりに部屋で自習をしていると、ふとそのことが思い出された。かなり自分にとって重要なことだがそれ以上に身の回りで起きた事件や問題が心の比重を占めて考える余裕すらなかったのだとわかる。


 ゼオンも自分のバハムートと同じように魔物を召喚していた。しかも見たことのない光の竜を。


 『天体竜 プラネタル』。それはゼオンが召喚した光り輝く竜。そいつが放った降り注ぐ光のレーザーに僕は一撃で沈められた。


「ゼオンも『支配』が使えるのか? いや、『支配』は『魔王の心臓』の固有能力だってベルベットが言ってたし違うか。じゃああれは何なんだ……?」


 それにゼオンが「魔王の力」を解放するにあたって使用した魔法道具のことも気になる。マジックトリガーによく似た形をしていたがただの注射器ではなく噴射式の注射器に設計されている黒色の機械─「サタントリガー」。

 まさか魔王後継者専用の魔法道具が存在しているとは。そんなことがありえるのかと疑いもしたが実際に目の前で使われては何も疑えない。


 魔王後継者であっても、ゼオンはそれを持っていて僕はそれを持っていない。その事実が魔王後継者としての知識の差の違いを感じさせる。


 しかし、だ。マジックトリガーなら「魔法を使いたい」という製作目的が見て取れるが魔王後継者専用のアイテムとはどういうことなのか。


 自分の「魔王の心臓」は「致命傷を受けないと発動しない」という非常に厄介な発動条件がある。おそらくゼオンの「魔王の左腕」にも何らかの条件があるはずだ。

 それらを踏み倒して発動する謎のアイテム。サタントリガーは何のために誰が造ったのか。「魔王の力」が満足に知られていないこの世界でそんな代物を造れること自体が謎に思えてくる。


「またゼオンに会うことができれば詳しいことを聞けそうだけど……仲良く話ができる関係でもないし」


 ゼオンはハゼルというベルベットの敵となっている男の下にいる。仲良くどころか出会うことになってしまえば戦闘は免れない。


 サタントリガーという未知のアイテム、自分以外の魔王後継者、それも大切なことではあるが、今肝心なのはそれらだけではない。



(僕は……ゼオンに勝てるのか?)



 獰猛な魔物とも、高い実力を持つ魔人とも違う……異質な力を持つ「魔王後継者」。それを相手にして勝利することができるのか。


 バハムートやグランダラス、そしてマジックトリガーを使用したガイトにも勝利した「アレン」なら……。


 そう考えれば別にアストが気にすることではない。危険に感じることもない。それでもアレンにも勝てない相手がいるかもしれない、アレンと人格が変われないかもしれない。そうなれば戦うのは自分だ。


 アレンでさえ勝てない相手に勝つ自分がイメージできない。それは自分が……「弱い」から。


 アレンのように「魔王の力」を使いこなしているのではなく、自分は大きすぎる力に振り回されている。


 もちろんゼオンとの戦闘なんてものは彼と出会えばの話だ。今そんなことを想定しても仕方ないのはわかっている。もう一生出会うことがなくてもおかしくない。



(けど、なぜかはわからないけど、予感がするんだ。僕とゼオンはまたどこかで出会うって)



 同じ魔王後継者だからなのか。きっと僕とゼオンの進む道はどこかで交差する。そんな気がするのだ。



 僕と、「同じ」だからこそ……。



 そんな時だった。「彼」の声が聞こえてきたのは。




(「アスト」)




 ……ん。今誰かに名前を呼ばれたような。でも、部屋には僕しかいないし……って、これはもう知ってる。なんたってこれで2度目の出来事なのだから。


 相手は……僕の中にいる「アレン」だ。



「アレン? 今は話せるの?」


(「ああ。悪かったな。どうもこうなってからは話すだけでも簡単にはいかないみたいだ」)


 やはり自分の副人格と主人格は会話するだけでもそれ相応のエネルギーを強いるようだ。

 僕としても無理をさせているのなら申し訳ない。こんな体になったのは僕の人格が現れたからなんだし。


(「ところでアスト。ちょうどいい。教えておくことがある。これはお前も知っておかなければならないことだ」)


「僕も?」


 前に話した時は時間もなかったから話しそびれたことだろうか。


(「俺とお前の同意があれば表に出ている人格を代わることができるのはもう話したことだ」)


「うん。それでもう何度も助けてもらってるしね」


(「だが……お前も気づいてるだろう。それには時間制限があることに」)


 アレンが僕に代わって戦ってくれた戦いを振り返ると……その全てが予兆なくどこかでまた僕に戻っていた。運よく戦い終わった後に戻っていたから良かったが……


(「その日の調子によって代われる時間が変化するんだが……基本的に平均して15分。そこから上下する。今まではなんとか時間内に敵を倒せたから良かったがな」)


「そうだったんだ……」


 アレンの強さは一言でいうと異常だ。「魔王の力」を使っているとはいえ多彩な魔法を使うわけでもない。その強さの根源は圧倒的なまでに洗練された戦闘勘や剣術だ。これが本物の「ハンター」の力というのか。


 けど、時間制限があるとなると話は変わってくる。どれだけ優勢になろうとも時間が過ぎれば強制的に戦闘を終了させられるのだから。


(「俺は自分の目的を果たすまでは誰にも負けるつもりはない。それでも相手によっては相性が悪い場合もある。負けることはないが、勝てないこともあるというわけだ」)


「負けないけど……勝てない?」


(「簡単に言うと俺の異能のように『再生能力』を持っている場合は15分で攻略することは困難を極める」)


 確かに、そうだ。……うん? 「俺の異能のように」?


「え!? いつも傷が治ってたのって『魔王の心臓』のおかげじゃなかったの!?」


(「ああ。ガイトと戦った時にお前は『魔王の力』を使ったが傷が治らなかったはずだ。あれはいつも俺の異能で治してたからな。俺の異能……『革命前夜』で」)


「『革命前夜』。それって再生の能力なの?」


(「……悪いがそれに関しては理由があってお前にも能力の詳細は話せない。が、再生みたいなものだと思っておけ」)


 あの紫炎のオーラのようなものは「魔王の力」じゃなくてアレンの「異能」だったんだな。まったく知らなかった。そうだとしたら魔人が見てるところであまり使用するべきではないのでは……。


(「異能は見るだけでもわかる奴にはわかる。それに再生にも『回復上限』があって一定以上の傷を治すと再生できなくなる。どちらにしてもどうせ傷が治るからとあまり無茶をしないでくれ。いつかの誰かのようにレイピアを心臓に刺したりとかな」)


「ご、ごめんなさい……」


 それはグランダラス戦の時の僕だ。あの時は仕方なかったと言いたいがそれでも無茶をしたという自覚はある。なんたって治るという確信があったからあんなことをしたんだし。アレン的にもやりすぎと感じてたんだな。


(「言いたかったことはそれだけだ。すまない……また休息に戻る」)


「うん……わざわざありがとう」


 それからアレンの声はもう聞こえなくなった。

 これで会話は2回目だがちょっとアレンとの会話にも慣れてきた感がある。傍から見れば僕は独り言をブツブツ呟くヤバイやつに見えるだろうけどね。アレンとの会話は一目を気にする必要があるな。それか口には出さないようにするか。


「ふぅ……」


 魔王の力に、ゼオンに、時間制限。考えることが増えて頭が痛くなってきた。

 特に時間制限があることはかなりキツイな。早急に僕自身が強くならないといけない。僕がアレンの足を引っ張っていてはダメだ。



「アスト」


「へ?……あ、ライハ」



 僕が考え事をして1人の世界に入っていると急に横から声をかけられた。今度は自分の内から聞こえてくるアレンの声ではなく、外から耳を通して聞こえる本物の声。……本物の声っていう言い方は変か。


「帰ってたんだ。ごめん。ちょっと考え事してて気づかなくて」


「大丈夫。今帰ってきたばかりだから」


 ライハは荷物を置いてベッドに座り落ち着いた。


 ライハは授業が終わった後、すぐに帰らず教師にわからないところを質問に行ってたらしい。カナリアも同じだ。ミルフィアは夕飯のお買い物に行ってくれている。

 そうなると僕だけさっさと部屋に帰ってるのが目立つ。決して勉強を頑張ってないわけじゃないんだ。2人が頑張りすぎなだけで。


「そういえばライハ。カナリアと仲良くなれたんだね。安心したよ。3人で住むようになったのは完全に予想外だったけどさ」


 僕がガイトと戦ったり、ゼオンに襲われたりしていた時にカナリアが解決に取り組んでくれていたライハの件。それが無事に解決したのはライハの様子を見ていればわかる。もうあれからライハは寝る時に涙を流すことはなくなったのだ。

 昔の自分を殺して「ライハ・フォルナッド」に逃げたのではない。友達を作り、相手を信頼し、「ライハ・フォルナッド」として新たにスタートを切ったのだ。ライハの未来はこれからである。


 と、思ったのだが……


「カナリアと仲良くなったわけではない。カナリアはライバル」


「ライバル?」


「魔法騎士としてのライバル」


「ああ、なるほど」


 一瞬「あれ?」と思ったけどむしろそっちの方が良い関係ではなかろうか。お互いを高めあうとは……カナリアとしても良い関係に着陸しただろうな。


「それと……」


「それと?」


 ライハはジーっと僕の顔を見てくる。なんだ?


「そう。ライバル」


「は、はぁ……。『魔法騎士の』ってだけじゃないんだよね? なんのライバル?」


「秘密」


 ライハは無表情だがさっきよりも言葉に力が入っていた。魔法騎士のこと以外にも彼女らは何かを争っているようだ。ライハが秘密と言うので男の僕が首を突っ込んでいい世界ではなさそうだ。


「また『クエスト』があったらその時はこの3人で受けるってことになるのかな?」


「きっとそう。でも、心配はしなくていい。アストはわたしが守る」


「あはは……。僕もライハを守れるように頑張るよ」


 女の子に守ってもらうなんて情けないよな。そうならないために僕も2人と肩を並べて戦えるようにならないとだ。

 正直に言うとカナリアに加えてライハまで一緒に戦ってくれるとなると心強いどころかどんなクエストでも難度が一気に簡単なものに変わってしまいそうだ。僕を除いて入学試験のトップを取るような人が2人も……って。随分と贅沢なメンバーだよ。


「あ……修行の時間だ。ちょっと行ってくるよ」


「いってらっしゃい」


 まだライハと話していたかったけど僕にも用事がある。今日は現在の僕の師匠でもあるジョーさんとの修行があるのだ。


 ジョーさんは僕が魔力を纏えるようになるのに尽力してくれた人。尽力と言ってもたった一つのアドバイスだけだったがその感謝は計り知れない。

 マジックトリガーで属性魔法を得ることはできなかったけど、それはもう必要ない。僕は僕なりにジョーさんの教えの下……成長していこう。それが僕のあの件への贖罪でもあるのだから。


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