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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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58話 妖精or怪物



 キリールとミルフィアがアスト達と合流しての、次の日。

 アストはいつも通りに学院に通う。のだが、


「…………」


「♪」


 普段の授業では自分の横にはカナリアがいる。

 ある期間は1人で授業を受けていたがそれも過去のことで昨日からまたカナリアと授業を受けていた。



だが、今日はその形からさらに変化していた。自分の横にカナリアと……ミルフィアもいたのだ。



「あ、兄様。次のページに行きましたよー」


「教えてくれてありがとう……」


 ミルフィアは絵本みたいに僕の教科書をペラリと捲る。僕は生気を失った顔で感謝を述べる。


 なぜ僕は生気を失っているのか。それはもうわかると思う。

 周りからの目がすごいことになってるからだ。



「おい、アストが女増やしたぞ」


「えぇ……これ犯罪じゃね?」


「カナリア、ライハ、と同年代をあらかた固めたから年下っていうのはわかるがあれはなぁ……。しかもメイド服着させてるし」


「ロリコンだったか。あとで魔法騎士団(ウィザード・ナイツ)に通報しとこ」



 居心地わるぅ……。なんか皆の目が犯罪者を見るそれだ。あと通報しないで。


 どうしてミルフィアが授業にまでついてきたのか。それは僕の護衛だからだ。


 キリールさんが学院の許可を取ってミルフィアも僕の授業へ同行させることに成功したのだ。そんなこと成功しないでほしかった。


 僕だって護衛が来ると聞いた時は皆から僕を守ってくれると期待してたけどこれじゃむしろ敵を増やしてしまっている。

 当の護衛ちゃんはそんな周りの目線は気にしてない。それどころか見せつけるようにベタベタしてくる。

 先生も見て見ぬふりだし僕はこれを受け入れるしかない。いつか後ろから刺されたりしないだろうか。





 5限目。「魔法戦闘」の授業になった。もちろんそこでもミルフィアはついてくる。


 前もそうだったが今回も1組と合同の「魔法戦闘」だ。1組のところにはライハがいる。ガイトはまだ保健室なのでそこにはいなかったが。


「では、2人組を組んでください」


 いつものように対戦する2人組を作る時間が訪れる。僕は誰と組もうか迷った。


 以前はライハとやって瞬殺されたからライハと組んでもあまり意味はない。いつも組んでくれるカナリアも同じ。

 そうなると他に組んでくれる人がいない。僕は魔法が使えないから誰も相手にしてくれないのだ。悲しいね。



「アスト。一緒に組もう」



 とか思っていたらライハの方から声をかけてきた。申し訳ないけど断るか。



「アスト。あたしと組みなさい」



 って、カナリアも来たよ。

 どっちも僕とはレベルが違いすぎるのになんで来てしまうんだ。


 正直、理由はわかっている。

 ライハは1組と3組どちらにも相手は無理だと思われてるし、カナリアも1組相手にこの授業では快勝してるので誰からも相手にされない。


 なら残る相手は僕だけ、と。これではこの授業の意味がない。



「僕なんかよりも2人で組めばいいじゃん。そっちの方が絶対良いでしょ」


「わたしはアストとやりたい」


「こっちは怪我から回復したばっかりなのよ。あんたで調整させなさい」



 2人で組む気は0か。それよりカナリアの理由が酷すぎる。


 僕達が組む組まないで言い合っていると、こことは別の場所で同じような声が出てきた。



「ねー、せんせー。この子とは組んじゃダメなんすかー」



 1組の生徒の1人がミルフィアを指さす。ミルフィアはきょとんとした顔をしていた。


「そ、それはちょっと……」


「えー。でもベルベット様のメイドなんですよね。じゃあこんな子供でも少しくらいは戦えるっしょ」


 その生徒はミルフィアがベルベットのメイドだということを知っていた。


 そしてベルベットの使用人といえばマナダルシアでも戦力の面で有名である。

 ならばその1人を倒したとなると自分の名にも箔がつくと考えた。


 無論、学生である自分がベルベットの使用人を相手に勝てるとは思っていない。

 けれど、その相手が子供ならどうだろうか。それならば勝てるのではと考えるのはいくら未熟な学生と言えど自然である。


「ふえ? フィアですかー? 一応キリ姉様から制限ありの戦闘の許可はいただいてますけども」


「じゃあやろうよ!」


 しかも制限あり。この上ない条件だ。


 ここで勝って噂となれば相手が子供だとしても多少尾ひれがつくことも期待できる。

 そうなれば噂の中でいつしか「子供」という部分も消えていき「ベルベットの使用人を倒した」という情報だけが残ることも。まさに最高の箔だ。


「お互いが合意しているのであれば……」


「よし!」


 その生徒は喜び、意気揚々と魔法戦闘の舞台とされるサークルの中に入っていく。


「フィアちゃん、本当にいいの?」


 僕は引き留めようとするが……


「いいですよー。あ、兄様の剣お借りしますねー」


「え!? それ魔法武器じゃないよ?」


「大丈夫です。それに『学院では非常時以外で魔法武器は使うな』とキリ姉様に言われてますから」


 相手の武器は魔法武器。こっちは通常武器でしかも年齢の差。こんなの……ただのイジメじゃないか。


 僕はなんとかしてミルフィアを止めようとするが鼻歌を歌いながら気にせずサークルの中に入ってしまった。



「では……開始!」



 そして始まる魔法戦闘。両者は当然『ファルス』を使用する。

 男子生徒の方は先手必勝とばかりにミルフィアに向かった。手持ちの魔法武器である「剣」を無慈悲に振り下ろす。


 それにミルフィアは



「んっ!」



 逆袈裟に斬るように剣を振り上げて応じる。


 この場面でも色々と問題が多い。相手は両手で容赦なく振り下ろしているのに対してミルフィアは片手で持っている。


 いくら持前の力の差ではなく『ファルス』の練度で力が決まるとはいえこれではミルフィアの分が悪い。

 それに加えて魔法武器と通常武器がぶつかるなら破損するのは通常武器の方だ。




 キュイィィン!!!!




 金属がぶつかる音を超え、どちらかの剣が気持ちよく切断されたような音が響く。

 この音を信じるならばミルフィアの剣が切断されたことになるが……




「あ…………え……?」




 切断されたのは、生徒の方だった。

 そっちは……魔法武器のはずなのに。綺麗な切り口を覗かせてガランと剣の刃の一部を床に落としていた。



「あんまりボロっちぃ物使ってるとそうなっちゃいますよー。もう長年使ってますよねそれ」



 唖然とする生徒を前にミルフィアは「はい終わり」と言わんばかりに淡々と敗北に至った理由を説明した。致命的な理由であったにしろこれで納得することはできない。


「通常武器で魔法武器を切断……!?」


「嘘……」


 衝撃が伝播する。

 男子生徒が使っていた魔法武器に欠陥があったとしてもこの例は十分な衝撃に値することだったからだ。



 魔法武器と通常武器では使われる素材が違う。魔法武器には必ずと言っていいほど通常武器よりも硬い素材が使われるのだ。


 これは武器に魔法性能をつける際に必要になるからである。

 魔力を扱うならそれ専用の素材が必要で、その素材が通常武器よりも硬い素材なわけで。必然的にこの上下関係は崩れない。


 それなのに。素材が違う相手を切断できたわけは……当たり前だがミルフィアの魔力の扱い方にあった。

 気づいたのはこの場では教師だけであったが。



(なるほど。あの子、瞬間的に剣にも魔力を纏わせていたわけか)



 自分の体だけではなく、剣にも魔力を纏わせることができる。

 こうすれば魔力に体を守る機能があるように、剣にも『ファルス』同様の効果がある程度は見込める。通常武器もそれなりには性能も上がる。


 しかし、この技術は大してすごいことではない。誰でも知ってる技術だ。

 それよりも教師が舌を巻いたのはその際に使われた更なる技術だった。



(剣に纏わせていた魔力が剣と接触するコンマ一秒のほんの一瞬だけ5倍ほどに跳ね上がった。しかも、相手の剣との接触面の部分だけ……。あんな緻密なコントロールをあの歳でよくできるものだ)



 ミルフィアがやったのは単純に剣に纏わせていた魔力を増やした。それだけ。


 けれど、増やした部分は本当に剣との接触面の極小な箇所だけ。そのせいで誰も剣に纏わせていた魔力が増えたことを感知できなかったのだ。


 別にこんな学生相手にそんな技術を使う必要はない。

 教師が推測するに、これはミルフィアの癖になっているのだろうと考えた。


 完全に実践向けの技術が癖になってしまっている子供。これだけでミルフィアの力量は学生レベルではないことが容易にわかる。



(普通の魔法練度での勝負ならわからんが、戦闘や……『殺し合い』じゃ、生徒とはレベルが違いすぎるな。さすがはベルベット様の使用人だ)





「兄様、剣をお返ししますっ!」


「す、すごかったね。まさか通常武器で魔法武器を……」


「兄様に褒められましたー!」


 ミルフィアは子犬みたいに僕へとすり寄りながら笑っているが先ほどの戦闘を見ると全然笑えない。ベルベットの使用人の中でも7番目に強いっていうのは本当だったんだな。


 それからは周りのミルフィアの目が変わり、マスコットを見るような目から得体の知れない怪物を見るような目になった。


 そうなれば当然、それに懐かれている僕も変な目で見られるわけで。



(フィアちゃん護衛向いてないよね……)



 と、ひっそり思う僕であった。



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