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ヘクセンナハトの魔王  作者: 四季雅
第0章 魔法が苦手な魔法使い編
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45話 teardrop 豪雨の中の少女達



「こんなの……どうすれば……」


 カナリアはその「雷の鎧」の攻略をどうするか、それを考えていると……



「おい! こんな時になんでまだ戦ってるんだよ!」


「非常時だろ今は!」


「バハムートが出てんだぞ!? 中断しろ!!」



 観客はカナリアとライハに非難の声を浴びせる。さっきまで熱狂して見てたくせに……と言いたいが彼らの言い分は正しい。

 学院にSランクの魔物が現れて避難すら視野に入っている現状で戦い続ける意味がわからない。本当ならカナリアとライハはすぐに戦闘を中止して教員の連絡を待つべきなのだ。



「カナリア・ロベリール、ライハ・フォルナッドの2名はただちに戦闘を終了しなさい! 学内戦は中止です!」



 予想通り、教員の中止を勧告する声が飛んできた。もしもこれに背いた場合はなんらかのペナルティが科される可能性がある。


 けれどライハにこの声は届かない。自分の雷に苦しみながらもカナリアを睨め付けている。


 カナリアは……



(前のあたしなら従ってた。でも……!)



 損得で動くとすぐに諦めが出てしまう。「諦めない」という無駄とも思える精神論は時として最も強い支えになり得る。それは「彼」から教えられ学んだことだ。

 それと同じで、自分の保身を考えて動いたところでライハの心には何も響かないだろう。ここで非常時を理由に戦闘を辞めれば二度とライハは救えない。



 これは最早理屈ではない。今、ここだけなのだ。ライハと「対話」できるのは。




「……逃げない。もう逃げない!いくわよライハ!!」


「うる、さい……かなりああああああああぁぁぁぁ!!!!」




 再び4つの雷を放つ。カナリアは……今度は直進する!



「ぐっ……ああああああああああ、ああぁぁああぁあぁぁぁぁあぁあああああああ!!!!」



 バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!



 4つ全ての雷が直撃。身を引き裂くような衝撃がカナリアを襲う。

 魔力を纏っているおかげで火傷はしなくて済んでいるがこの衝撃は耐え難いものだ。


 さらにはシンボルでさえバキンッ!と破裂する。カナリアがシンボルの設定された許容以上のダメージを受けてしまったのだ。



 これで学内戦「シンボルブレイク」は終わり。そのはずだが……ライハは攻撃を続ける。彼女にとってもう学内戦のことなど頭にはなかった。





 試合は終わった……ここからは彼女との本気のぶつかり合いの始まりだ!





「う、ああああ……く、うぅぅぅ……!」


 痛い、痛い、痛い。体が悲鳴を上げている。

 脳を思考ごと焼き殺して、決意したことをへし折ろうとしてくる。「このままじゃ死ぬかも。もう逃げ出してしまえ」と。


 それでもカナリアは耐える。足を前に進める。目をライハからは離さない。



「らい、は……あんたは、あた、しと……そっくり、よ! 誰、かに……存在を……肯定されっ……くっ、ない、と……ダメ……って……とこが、う、ああぁ……!!」



 言葉も投げる。自分とライハは似ていると。

 自分のことを認めてくれる存在が欲しかったカナリア。自分のことを知っても傍にいてくれる人が欲しかったライハ。


 細かなところで違うとしても、どちらも自分に寄り添ってくれる人が欲しかったのだ。



「あんたの……言う、通り、あん、たの気持ちは……わか、らない。けど……わかろう、と、すること……は、でき、る……! 努力、すること、は……できる!!」



「うるさいうるさいうるさい黙れ黙れ黙れ! どうせ嘘。すぐに離れる。それなら近づこうとしないで。希望を見せようとしないで」



 ライハの瞳から涙の粒がボロボロと流れていく。


「カナリアの言葉は頭が痛くなる。聞きたくないそんな嘘にまみれた汚い言葉。これ以上わたしの頭を痛くしないでええええええぇぇぇぇぇ!!!!」



 バリイイイイイィィィィィィィィッッッ!!!!!



 ライハの怒りと苦しみの叫びに起因してより一層雷が強くなった。カナリアはまたもや悲鳴を上げそうになるが……なんとかそれを飲み込む。


「確かに……あたしは一度、友達を見捨てた……自分の保身で逃げた……けど! 逃げてるのはあんたも……一緒よ!!」


「は…………?」


 カナリアはまだライハに向けて歩を進める。どれだけ拒絶されようとライハの心に構わず土足で入り込む。




「あんたは誰にも歩み寄ろうとしてない! 繋がりが欲しいくせに、自分からそれを掴み取ろうとしてない! 殻に閉じこもって苦しむばっかりでそこから抜け出す努力を放棄してる! あんたが一番……誰かと繋がることを諦めてるのよ!!」




 ライハは過去に両親の死とロストチルドレンのことで心に深い傷を負った。

 誰もが自分を否定するから自分を肯定してくれる人が欲しかった。


 けれど、ライハは諦めていた。そんな人はアストだけだと。ならアストだけでいいと。


 自分から欲しがっているくせに、手に入れることを諦めている。どうせ誰も自分のことをわかってくれないと決めつけて。


 皆がロストチルドレンと関わろうとすることを避けるように、ライハ自身も人と関わろうとすることを避けているのだ。




 差別は「する側」以上に「される側」が最も自分のことを否定する。自分のことなんか誰も認めてくれない……と。




「あんたの事情が簡単なことじゃないのは知ってる。でも、あたしは受け入れる。別にあたしのことを嫌いなままでいい。あたしだってあんたのことは嫌いよ。入学試験の成績だってあんたの方が良いし、1組だし、1年のくせに強いし」


「嫌いなまま……?」



「関係っていうのは……多分、好きとか嫌いとかだけじゃない! あんたのことは嫌いでも……絶対に否定なんてしない! あんたがあたしを何度跳ねのけても離れてなんかやらない! あんたは今のあたしの目標で……『ライバル』よ。……だからっ!!」





「意味がわからない……意味がわからない……!もう……消えて!!」


「勝負よライハ!!」




 ライハは一瞬だけ体内の膨大な魔力を抑え込むことに成功する。


 カナリアを倒す。その想いが暴走する力を上から叩き伏せた。

 ライハの纏っていた雷の鎧は解除され、魔力のコントロールを取り戻す。


 ライハは自分の魔法武器【イグニス】を二挺ともカナリアに向けた。



 自分の中の最強の魔法で、訳のわからない言葉をカナリアごと消し去るために!





 雷の鎧が無くなったことでカナリアを襲い続けた4つの雷も消え去る。

 痛みから解放され自由を得たカナリアは休む間もなく魔法武器【ローレライ】をライハに向ける。


 ライハには負けない、その想いを胸に。自分の今出せる最強の魔法を撃つために!






 —2人の少女は詠唱を開始する。





「雷の精霊よ我に力を 走る雷電、切り裂く電光 敵を焼き滅ぼす一撃へと成れ 極大なる雷は駆け抜ける 鮮烈なる雷は一閃する 我が敵を討つために」



「水の精霊よ我に力を 聖なる水は形を変える 我の勇気をその身に宿せ 現れるは2頭の竜 我が激情は激しき流れを造り出す 大地を食い散らかせ水龍の(あぎと)



 ライハは6節。それはわかりきっていることだがカナリアも対抗して「6節」を唱えた!!

 これはベルベットの下で修業を行っている時、そのベルベットが教えてくれた、カナリアの新魔法だ。






「『イグニスファイド・レールガン』!!!!」



「『ツインウォーター・ドラゴニアス』!!!!」





 マジックトリガーにより増えた魔力も含めた、自分の中にある全魔力を注ぎ込んで……膨大な雷の銃撃が放たれる。


 カナリアも全魔力を消費して放ち……魔法の水で造り上げられた2頭の竜の首が螺旋を描くようにしてライハの魔法へと突き進む。



 雷撃と水龍が、ぶつかる。




 ドンンンンンンッッッッッッッッッッ!!!!!!




 それはよくある表現で言えば爆弾が爆発したと形容すればいいのか。いいや、そんな程度ではなかった。


 2つの強大な魔力というエネルギーがぶつかる。それにはその表現さえも足りないと思わせるほどの衝撃を会場に伝えた。



 目を焼くほどに眩しい雷が爆ぜ、美しい水晶のような水が散る。



 お互いが全魔力を使って撃った6節の魔法の衝突は耐衝撃のために張っていた結界をバリイイィィン!! と耳障りな音を立てさせて破壊した。


 元々7節より強い魔法の使用は禁止となっているルールだったのでお互いが全魔力を消費して放った魔法によるこの衝撃を守れるかどうかは今回の結界としてはギリギリのラインだったのだ。


 衝撃波は観客を舐めていく。体の芯を揺さぶる力の波が一斉に会場の端まで走り抜けた。


 その発生源となった会場の中央では煙が立ち込めている。様子を確認することは難しく、術者の2人がどうなっているかもわからない。



「おい! あれ……」



 そこで1つの声が上がる。その主は観客で、一早く煙の中の様子を知れた者の声。


 煙が晴れ、様子を露わにしたそこには……2人の少女が倒れていた。



 カナリアとライハは壁に叩きつけられている。

 どちらもが魔力欠乏のせいか、衝撃のせいか、気を失っていた。



「救護班!! 早く彼女らを!」


 教員の1人が我に返り、救護を命じる。カナリアとライハは保健室へと運ばれた。


 その途中、ライハの服からは粉々に破壊されたシンボルが床に落ちた。



 彼女の頬から……涙も落ちた。



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